寿司だねの旅 - アカガイ(赤貝)|すしに会いに|築地 - 時代の台所:朝日新聞デジタル

築地

すしに会いに 寿司だねの旅

 食べるときはひとくちでパクリ。あっという間のできごとで、「おいしい!」と感激しても、寿司だねにする魚介類が、どこの海から、どんな人の手を経て目の前までやって来たのか、あまりに知らなかった。その道のりがわかると、お寿司の時間がさらに楽しくなる。記者が寿司だねの旅に出かけます。

寿司だねの旅 あか貝編

ブランドであり続けるため

文:小林恵士 撮影:竹谷俊之

 アカガイは、江戸前を名乗るお寿司屋さんが「相場が高い日にも見えで仕入れる」という王道の寿司だねだ。とりわけ宮城・閖上(ゆりあげ)産は、ブランド産地として築地でも名が通っている。「ミシュランガイド」で最高ランク「三つ星」を8年連続で獲得し、オバマ大統領も訪れた銀座「すきやばし次郎」の小野二郎氏は、その本の中で「築地で手に入るものでは最高。殻を見ただけでわかる」と称した。どんな海から届いているのか、漁に同行させてもらいます。楽しみです!

仙台・閖上の赤貝漁

 閖上漁港は、仙台市から南東に12キロ、車で30分ほどの距離にある。漁協の組合員は約30人で、ほとんどがアカガイ漁に従事している。

 3月26日午前5時半の閖上漁港。気温は3度。海岸にぽつんと宮城県漁協閖上支所のプレハブの事務所が建っている。4年前の震災で、浜は津波に流され、周囲にまだほとんど建物はない。

 日の出ととも10隻ほどの漁船が出港。その中の1隻、赤貝組合長の出雲浩行さん(50)の「よし丸」に乗せてもらった。

朝日が昇る中、出港するアカガイ漁の漁船=宮城県名取市の閖上漁港

「マンガン」使って底引き

 水平線から昇る太陽に目を細め、右を向くと、仙台の街並みがゆっくり流れる。出雲さんがかけたEXILEの「ライジング・サン」がスピーカーから流れ、甲板に響く。どこかのんびりとした雰囲気だ。

 海岸線とほぼ平行に走ること30分以上、到着したのは阿武隈川が流れ込む河口から4キロほどの沖だった。潮干狩りのイメージとは違って海底はまったく見えない。漁に使う道具は、通称「マンガン」という鉄製のもの。長さ約40センチのトゲが、幅1・5メートル超にわたって並んでいて、大きな熊手、という感じだ。これに、袋状になった網がついている。

「マンガン」と呼ばれる桁のついた底引き網で海底のアカガイを掘り取っていく=宮城県沖

 午前7時すぎ。このマンガンを三つ海へ落として、底引き漁を開始。トゲの部分で海底をひっかいて、砂に浅く潜っているアカガイを浮かし、網に入れる仕組みだ。船に乗っていても、何かを引っ張っているとか、動きが重くなったという印象はない。手応えは、どうやってわかるの?

 「船を走らせるスピードとか、レーダーでこれまでの航跡を記録してあるものとか。何となくだよ」。

 約30分後、引き揚げられた網の中身を全部、甲板に広げると、アカガイがゴロゴロ。ほかには、シタビラメやマコガレイ、ワタリガニ……。

 あれ? カレイっぽいの、いま海に投げ込みませんでした? 「あれはイシガレイ。いらないやつ」。値のつかない魚は海に返す。アカガイ以外の貝も海にご返却だ。おいしそうだったけど……。

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