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2023年度“アニメ不毛の地”静岡で放送された民放深夜アニメは52本 聖地も増える一方、静岡県はいつまで「アニメ過疎地域」なのか?

ヌマヅこと沼津市が舞台の『幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-』は2023年7月から静岡県でも放送された

2024年1〜3月期の静岡民放4局のタイムテーブルが出揃いました。一般に「冬アニメ」と称されるこのクールにおける静岡県の深夜アニメの本数は、以下の13本となっています。

月曜:『フェ~レンザイ -神さまの日常』SBS・1/8〜
火曜:『マッシュル-MASHLE- 神覚者候補選抜試験編』『SYNDUALITY Noir』ともにSBS・1/9〜
水曜:『異修羅』テレビ静岡・1/3〜 『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』SBS・1/17〜
木曜:『ダンジョン飯』SBS・1/4〜『勇気爆発バーンブレイバーン』SBS・1/11〜 『うる星やつら』テレビ静岡・1/11〜
金曜:『葬送のフリーレン』静岡第一テレビ・1/5〜
土曜:『アンデッドアンラック』SBS『薬屋のひとりごと』静岡第一テレビ『僕の心のヤバイやつ』静岡朝日テレビ『最強タンクの迷宮攻略』 静岡朝日テレビ・すべて1/6〜

この内6本は系列の全国ネット枠等での放送となっているため、民放4局地区ではベースの本数となりますが、7本については在静局が独自に編成しているアニメということになります。

民放4局地域ではトップクラスのアニメ本数

秋クールに静岡県で放送された『オーバーテイク!』は御殿場市・小山町が舞台モデルとして登場した

次に2023年度に静岡の地上波で放送された民放の深夜アニメの一覧を見てみます。『SPY×FAMILY』は夕方、『BLEACH 千年血戦篇 -訣別譚-』は早朝の放送でしたが、いずれも製作に参加しているテレビ東京では深夜に放送されているので、深夜アニメとカウントしています。

その本数は52本となっており、民放4局地域ではトップレベルの放送本数です。厳密に言えば内6本は2クール編成、『僕の心のヤバイやつ』『SYNDUALITY Noir』『マッシュル-MASHLE-』の3本は1期・2期と分割で放送されているので52本ではなく52枠(43本または46本)と表現した方が正しいかもしれませんが、重要なのはどれだけの本数を放送できる“枠”があるかということなので、便宜的に52本と表現しています。

2023年度静岡県民放4局放送深夜アニメ一覧(各局タイムテーブルなどから作成)

エリア毎のアニメ放送本数は放送業界で公式に集約した情報などがなく、数え方などによっても異なるため、はっきりしたデータを提示するのが難しいのですが、この本数は民放4局地区では最も多いのではないかと思われます。

その一方で、未だに静岡県は“アニメ不毛の地”などと揶揄されているわけですが、その最も大きな要因は、エリアの人口や経済規模に対して、アニメの本数が少ないということでしょう。なぜ、少ないのかといえば、新作アニメを多く放送しているテレビ東京系列、そして独立UHF局がないということに尽きます。

人口の7割は5局以上の民放を視聴できる!?

都道府県別人口(総務省統計局 人口推計(2022年10月1日現在)より作成)

上記は、民放が5局以上受信できる都道府県と4局以下に分けた表です。5局以上のエリアは概ねテレビ東京系列があるエリアとも一致しているわけですが(テレビ愛知は愛知県、テレビ大阪は大阪府が放送対象地域です)、人口比でみると日本の人口のおよそ7割は民放テレビ局が5局以上受信できる環境下に居住しているということになります。

さらにいえば、地域の民放は1局しかないものの、多くの世帯がケーブルテレビに加入し関西圏の放送を視聴している徳島県のように、実施的に5局以上とカウントして差し支えないようなエリアも複数あります。ケーブルテレビによる区域外再放送やスピルオーバーを考慮すると、民放5局以上の放送を楽しむことができる人口は、さらに多いものとみられます。

民放4局以下の地域で最多の人口を抱えるのが静岡県

一方、民放が4局以下しか受信できない3割のエリアに当たる地域を人口別に並べてみると、この中で最も人口が多いのが静岡県です。アニメ放送に恵まれないとされる人口のおよそ1割を静岡県民が占めているため、その声は大きく聞こえますし、5局以上の放送を視聴できる中京広域圏と関東広域圏に挟まれているということもあり、ことさらに静岡のアニメ放送事情は“穴”に映るのではないでしょうか。

民放4局以下地域の人口(総務省統計局 人口推計(2022年10月1日現在)より作成)

当然ながら、どれだけ地方局がアニメ編成に力を入れていたとしても、民放が3局以下しかないエリアと比較して静岡県の深夜アニメの放送本数が少ないということは考えにくいですし、近年はキー局・準キー局が全国ネットのアニメ枠を強化していることや、独立UHF局でも新作深夜アニメをあまり編成していない局もあるため、静岡県との格差が大きなエリアは減少しているという見方もできます。

かつては現在ほど静岡県の放送局が深夜アニメを編成していなかったことや、『苺ましまろ』など静岡県が舞台モデルでいわゆる聖地巡礼も盛り上がりながら、県内では放送されなかったアニメがあることなども手伝って、静岡県は“アニメ不毛の地”としての扱いが定着していました。状況が変わってもこのレッテルが解消されないのには、人口・経済規模の割にアニメが少ないという根本的な要因のほかにも理由があると考えられます。

「またキテレツじゃねぇか!」ネットミーム化した静岡県のアニメ事情

在静局の電波を送信している静岡県最大の放送所「日本平デジタルタワー」

ひとつは、かつて夕方に放送されていた『キテレツ大百科』や『ちびまる子ちゃん』『ONE PIECE』などのリピート放送だと考えられます。『キテレツ大百科』は子どもから大人まで楽しめる素晴らしいアニメなのですが、エリアにおける深夜アニメの放送が少ない割に幾度もリピート放送されるというインパクトもあって、静岡県のアニメ事情を表すネタとして定着しています。

実際には夕方の『キテレツ大百科』の放送は終了して10数年が経過しているのですが、今でもX(旧Twitter)では「静岡 キテレツ」と検索すると、毎日のようにポストが確認できます。「無限キテレツ地獄」「またキテレツじゃねぇか!」といったフレーズはネットミームとして広く知られたものとなっており、「大都会岡山」や「修羅の国」とは少し違いますが、地域をあらわす定番のネタとしてネットの世界で活用されているため、現在の状況がそうであるかどうかにかかわらず、今後も使用され続けるのではないかと考えられます。

関東への進学・就職で実感するアニメ格差

静岡県では放送されなかった『ゴールデンタイム』に登場した島田市の蓬莱橋。主人公は大学進学で静岡から上京した

もう一点は、静岡県は隣接する関東地域に進学や就職する若者が多いということです。TOKYO MXが視聴できるエリアに移り住んだ静岡県出身者にとって、アニメ放送の格差はことさらに大きく感じられるはずです。

そして、まさに『キテレツ大百科』などが盛んに夕方再放送されていた時代に静岡県で生まれ育った関東在住者は、現在の静岡県のアニメ放送事情を知るよしもなく、彼らにとって静岡県は永遠に「アニメ不毛の地」でしかありません。こうした現在30〜50代位の静岡県出身県外在住者の自虐と怨嗟の声が、呪いのようにインターネット空間にこだまし続けているため、静岡県はアニメに恵まれていない地域という扱いや印象が消えてなくならないのではないでしょうか。

アニメの地上波放送が少ないことは“悪”なのか?

東西移動を表す1コマとして数多くのアニメに登場する富士市付近の富士山と東海道新幹線

テレビは限られた枠以上の内容を扱うことができない上限の決まったビジネスモデルです。深夜にアニメ編成が増えれば、その分減少するコンテンツがあるはずで、お笑い芸人好きにとっては「お笑い番組不毛の地」になるかもしれませんし、若手俳優や実写ドラマ好きにとっては「深夜ドラマ不毛の地」と感じられるのかもしれません。

アニメが少ないのは“良い・悪い”ではなく商圏やニーズなどに応じた“結果”に過ぎないはずですし、近年は本数が増えているとはいえ、放送局の編成都合により、いつ大きく減少してもおかしくはありません。

いざ進めや、アニメ不毛の地

2023年秋クールに放送された『星屑テレパス』は静岡市が舞台。県内が舞台モデルの作品も増えている

いずれにしても、今後もテレビ東京系列や独立UHF局が静岡県内に進出する可能性は低いので、在静4局が他の地方局と比べてアニメ編成に力を入れたとしても、またコンテンツホルダーが静岡県を放送対象地域に入れたいと考え、それなりの本数が確保されたとしても、日程が遅れたり深い時間帯での放送になることは避けられませんし、関東・関西圏と比べて考えるなら、アニメ不毛の地であることに変わりはないでしょう。

衛星放送やネット配信による視聴環境も整ってきている中、何と比較してどう考えるかは人それぞれですが、静岡県民がアニメ不毛の地の呪縛から解き放たれる日が来ることを、「スイミン不足」や「はじめてのチュウ」の1番をそらで歌える静岡県在住のいちアニメファンとして、願ってやみません。


(文:深夜の天輔星)
 

静岡新聞SBS有志による、”完全個人発信型コンテンツ”。既存の新聞・テレビ・ラジオでは報道しないネタから、偏愛する◯◯の話まで、ノンジャンルで取り上げます。読んでおくと、いつか何かの役に立つ……かも、しれません。お暇つぶしにどうぞ!

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