ピストリウス被告、殺人罪で有罪 「シェイクスピア的」と
南アフリカの義足ランナーとして知られるオスカー・ピストリウス被告(29)が恋人を射殺した事件で、南アの最高裁は3日、過失致死罪を適用した高裁判決を破棄し、殺人罪で有罪を言い渡した。判決文は、事件を「シェイクスピア的といえる人間悲劇だ」と評している。
判事5人全員が一致した有罪の判決文を読み上げたリーチ裁判長は、射撃訓練を受けている自分が口径の大きい銃で発砲すれば、扉の反対側にいる人は死亡するかもしれないと、被告は予見できたはずだと指摘した。「致命的な銃弾が発射された時、常識からして、扉の後ろの人が死亡する可能性は明白だった。そして1発でなく4発撃ったことで、相手が死亡する可能性はさらに高まった」。
ピストリウス被告はかねてから、侵入者だと思い撃ったと主張してきたが、判事はドアの後ろの人が誰かは「罪と無関係」だと指摘。被告の行為は、誰が犠牲になるか分からないまま公共の場で爆弾を爆発させる行為と比較できるとも述べた。
裁判長はさらに、被告の行為が正当防衛だという主張も否定。ドアの後ろの人物が誰か分からず、自分にとって脅威なのかも分からなかった時点で発砲しているため、発砲時に被告の命に危険が迫っていたとは言えないと判断した。
裁判長はさらに、被告が「まず警告で撃つという最も基本的な予防措置をとらなかった」と指摘した。
判決文は、事件を「シェイクスピア的といえる人間悲劇だ」と評している。
<英語ビデオ> 南ア最高裁のリーチ判事が「殺人罪で有罪」と評決
ピストリウス被告は出廷しなかったが、家族は「今後の選択肢」について弁護士が判決文を検討しているとだけコメントした。
一方で死亡したリーバ・スティンキャンプさんの母ジューンさんは傍聴し、判決言い渡しの後には法廷の外で与党「アフリカ民族会議」(ANC)の女性同盟メンバーと抱き合っていた。
禁錮5年判決を受けたピストリウス被告は刑務所で1年服役した後、10月に仮釈放され自宅軟禁生活を送っている。今後、再出廷して殺人罪での量刑言い渡しを待つことになる。南アでは殺人罪の量刑は最短で禁錮15年だが、裁判長の裁量が認められることもある。
ピストリウス被告は2013年2月、鍵のかかったドア越しにバスルームにいた恋人のスティンキャンプさん(当時29)を4回撃って死亡させた。侵入者だと思って撃ったと主張したが、昨年10月に過失致死罪で有罪判決を受けた。
BBCのパムザ・フィラニ特派員によると、南アの法律では正当防衛といえどもただ発砲することは認められない。まず自分の生命への危険が本物だと判断しなくてはならず、発砲するしか危険を取り除くことができない場合にのみ、正当防衛の発砲として認められる。
フィラニ特派員によると、下級審で殺人罪が適用されなかったことに南ア国内の大勢は不満を抱いていた。特に複数の女性団体が、南アではパートナーに殺害される女性が後を絶たないだけに、ピストリウス被告を有罪にすれば類似事件の予防にもなると主張していた。
パラリンピックで6回金メダルを獲得しているピストリウス被告は、赤ちゃんのときに両脚を膝下から失い、2012年のロンドン五輪に義足選手として史上初めてオンピックに出場し、世界的に有名になった。
<英語ビデオ> 2012年ロンドン五輪に史上初の義足選手として出場したピストリウス選手