欧州選手権中の攻撃を計画か ウクライナで拘束の男

ウクライナ保安局が公開した押収された武器や爆薬

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大量の武器・爆薬を所持していたフランス国籍の男を先月拘束したウクライナ当局は6日、男が今月10日に開幕するサッカーの欧州選手権(ユーロ2016)の開催中に攻撃を予定していたと明らかにした。

ウクライナ保安局のワシル・フリツァーク局長は、男は極右思想を持ち、15回に及ぶ攻撃を計画していた、と述べた。フランスのメディア各社は、男の身元をグレゴワール・ムトー容疑者(25)だと報じている。

フリツァーク局長によると、男は銃のほか、起爆装置やTNT爆薬125キロを所持していた。

同局長は、橋や高速道路、イスラム教のモスクやユダヤ教の礼拝所シナゴーグが攻撃対象になった可能性があるとしている。男は武器密輸とテロ容疑で起訴されている。

欧州選手権の試合そのものが攻撃対象だったかは明らかではないが、パリのミシェル・カド警視総監は記者団に対し、「(ユーロ2016)開催地への特定の脅威はない」と語った。

男は先月21日に拘束され、フランスのテレビ局M6が最初に報じた。容疑者はフランス東部のロレーヌ地方にある共同農場の労働者で、犯罪歴はないという。

欧州選手権を控えたフランスの治安当局は警戒態勢を強化している。選手権がイスラム武装組織の攻撃対象になると懸念されているためだ。フランスのオランド大統領は5日、「脅威は存在する」とした上で、脅えるべきはないと述べた。

ウクライナ保安局は、男を昨年12月から監視していたとし、男がカラシニコフ銃5丁と対戦車擲弾(てきだん)、約5000の銃弾、100の起爆装置や大量の爆薬を入手したと明らかにした。

保安局が撮影したビデオでは、武器などを運ぶ男を逮捕する瞬間が捉えられている。男はヤホディンという町に近いポーランドとの国境検問所で逮捕された。

ビデオでは、車の助手席から別の男性が当局者によって地面に押し付けられているのが見える。

フリツァーク局長は男が「ドンバスで戦う武装勢力」と連絡を取っていたと述べた。ドンバスは、ウクライナ東部のルガンスクとドネツク両州で親ロシア派が分離・独立運動をしている地域を指す。

同局長は、「フランス人の男は、フランスに大量に流入する移民への仏政府の対応や、イスラム教の広がり、グローバリゼーションについて否定的に語った。抗議のため数多くのテロ攻撃をしたいとも言っている」と述べた。

男が住むナン・ル・プティ村の家では、家宅捜査が行われた。警察によると、爆発性のある危険物や目出し帽が見つかったという。

フランスの組織犯罪対策中央局(OCLCO)や東部の主要都市ナンシーの地元当局も捜査を開始した。

しかし、仏警察はAFP通信に対して、ウクライナ当局が詳細な情報を提供していないと語った。男が単なる武器密輸人である可能性も疑われている。

ナン・ル・プティの住民はムトー容疑者の逮捕に驚いている。ムトー容疑者は祖父と同居しており、家畜の人工授精に携わっている。

警察は容疑者の自宅から極右思想を示す記号がデザインされたTシャツが見つかったと明らかにしている

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隣人のジャン=ジャック・レンクさんは、「けっこう良い人で教育水準もそこそこ高かったと思う。ワインを飲もうと自宅に招いたことさえある。理解できない」と語った。

対テロ専門家のアラン・ボエアー氏は、対立が続くウクライナ東部が武器の大きな供給源となっていると指摘した。

ボエアー氏はさらに、拘束された男は通常の攻撃犯とは異なると述べ、昨年1月にパリでユダヤ系スーパーで4人を殺害したイスラム聖戦主義者に武器を提供したとされる極右活動家のクロード・エルマン容疑者が昨年逮捕された当時を例に挙げた。

欧州選手権はフランス各地にある10の競技場で開かれる
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<解説>ヒュー・スコフィールド、パリ特派員

仏警察と司法当局はグレゴワール・ムトー容疑者についてほとんど何も語っていない。テロとの関連の可能性に言及する前にウクライナからもっと情報が欲しい、と考えているのは明らかだ。

フランスの捜査は対テロ専門家に委ねられておらず、組織犯罪を担当する部署が行っていることは、特筆に値する。つまり仏捜査当局は当初、武器密輸の疑いで容疑者に注目していたということになる。

報道によると、フランス北東部の容疑者宅を家宅捜査した警察は、極右思想を示す記号がデザインされたTシャツを発見したという。一方でウクライナ当局は、移民やグローバリゼーションに対する憎しみが動機だとしている。

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