息子の死悲しむのが恥ずかしい――ロンドン攻撃容疑者の母親
ロンドン攻撃の実行犯の一人、モロッコ系イタリア人のユセフ・ザグバ容疑者(22)の母親バレリア・コリーナ・カディジャさんは「筋が通ったことは何も言えません」という。
バレリアさんは自宅の居間の床に座っていた。
電気はついておらず、よろい戸は閉められたままだ。廊下にはヘミングウェイやジョージ・バーナード・ショーのハードカバー本が入った棚があった。居間の壁には第二次世界大戦中、ナチスドイツと戦った親戚を表した表彰状が飾られていた。家族写真はなかった。
「シリアで暮らそう」
バレリアさんは改宗したイスラム教徒だ。ベールをかぶり、周りに座った記者たちに対し静かに語った。
「2016年から息子に問題が出始めました。イスタンブールを経由してシリアに行こうとして、伊ボローニャ空港で止められたんです」
「『母さん、シリアで暮らそう。あそこには純粋なイスラム教があるんだ』と言ってました。私は、『頭がおかしくなったの?お前とも、誰ともシリアに行くつもりはない、私はこの国に満足している』と言いました」
伊警察当局は、2016年3月にボローニャ空港でザグバ容疑者の渡航を阻止した後、同容疑者を監視し始めた。当局の対応にバレリアさんは賛成した。伊当局は英国を含めた各国の情報機関と情報を共有した。
しかしザグバ容疑者は、外国への渡航は許されていた。
「ボローニャ空港での出来事の後、息子に『これからは完璧じゃないといけない。ネットで怪しいものを見たり、怪しい人と会ってはいけない』と言い聞かせたんです。でもロンドンに戻って……」
バレリアさんの声が小さくなった。
バレリアさんによると、ザグバ容疑者はロンドンのイスラム系ニュースチャンネルで仕事を見つけた。しかし、とても暗い顔をしていたのが気になったという。
「写真では厳しい表情をしていました。だからもっと笑ってる写真を送れと冗談を言ったんです」
最後に話したのは、攻撃を実行する2日前だった。
「とても心優しい電話でした。普通に会話しました」
ロンドン攻撃の後、バレリアさんは息子と連絡を取ろうとしたが、電話はつながらなかった。
「息子の友人にロンドンの家まで行って、息子を探してもらいました。その時点では、息子は、警察がロンドン攻撃と自分を関連付けようとするのを恐れて隠れているのだと思いました」
しかし今月6日、警察がバレリアさんの自宅に来て、息子が実行犯の1人だと告げた。バレリアさんは今、息子が殺した犠牲者の遺族のことを考えているという。
「私自身のこの悲劇的な体験からも理解できます。でも自分の痛みと遺族の痛みを同等のものだとする勇気もありません。『私も母親で、私も苦しんでいます』と言うのを恥ずかしいと思うようなものです」
「二度と起こるべきではない」
バレリアさんは、ザグバ容疑者を埋葬しないという英国のイマーム(イスラム指導者)の決断を支持している。
「今は強いメッセージを送ることが正しく、それが義務だと理解しています。このような行動を見せる必要があります。メディアは、イスラム教徒が意見を表明していないと非難しているので。でも私たちは表明しています」
バレリアさんは息子の行動から距離を置いている。
「ひどいことです。起こるべきではなかったし、二度と起こるべきではありません。このようなことが起こらないようできることは何でもやります 。若者にもっと教育が必要です」
私たちは取材を終えてその場を後にした。バレリアさんは暗闇の中、一人でじっと考えていた。