工作員の疑いで逮捕のロシア人女性、米団体就職のため性行為を提供か

Maria Butina

画像提供, Facebook/ Maria Butina

ロシア政府のスパイだった疑いで逮捕された29歳のロシア人女性が、米国の特別利益団体で働くため、代わりに性行為を提供していた可能性が浮上した。米政府筋が明らかにした。

米司法省は15日、ワシントン在住のロシア人女性マリナ・ブティナ容疑者を、米政府に登録せずロシア政府の工作員として米国内で活動していた疑いで逮捕・訴追した。諜報活動の疑いはかけられていない。

ワシントン連邦地裁のデボラ・ロビンソン判事は18日の審理で、容疑者には国外逃亡の恐れがあるため、公判開始まで勾留が必要との判断を示した。

担当弁護士によると、ブティナ容疑者は全容疑について否認しており、数カ月前から米政府に協力している。

この事件は、2016年米大統領選にロシア政府が介入した疑惑を調べている司法省の捜査とは関係していない。

ロシア外務省は18日、ブティナ容疑者の逮捕は、ドナルド・トランプ米大統領とウラジーミル・プーチン露大統領が16日にヘルシンキで会談したことによる「前向きな成果」を損なうための動きだと批判した。

Maria Butina

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米国人と同居し特別利益団体に入ろうと?

18日の裁判資料によると、ブティナ容疑者は「個人的な関係」の米国人(56)と同居していた。

「ただしこの関係は、米国との強いつながりを示すものではない。ブティナ容疑者は自分の活動に必要な側面に過ぎないという態度だったようだ」と裁判資料には書かれている。

容疑者がソーシャルメディアに掲載している写真には、サウスダコタ州の保守派政治活動家ポール・エリックソン氏と写っているものもある。エリックソン氏は公的記録によると、56歳だという。

連邦捜査局(FBI)が押収した資料によると、容疑者はエリックソン氏と「同居を続けることについて、軽んじるような言動」をとっていた。

Photo of Ms Butina holding a gun

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画像説明, ブティナ容疑者は周りの米国人に、自分はシベリア出身だと話していた

検察によると、容疑者は米国人男性との関係を真剣に捉えていた様子はなかった。なぜなら「少なくとも1度、容疑者はこの男性とは別の人物に、特別利益団体で働くため代わりに性行為を提供したからだ」という。

裁判資料はこの団体を名指ししていない。しかし、ソーシャルメディアでの本人の投稿から、銃所有権を推進する強力な圧力団体「全米ライフル協会(NRA)」の行事に頻繁に参加していた様子が見て取れる。

ロシア高官の指示?

司法省は、ブティナ容疑者がロシア政府高官の「命令と指示」によって活動していたと主張している。裁判資料に、高官の名前は出ていない。

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Butina with a gun

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司法省の提出資料によると、このロシア政府高官はオンライン・メッセージを通じて容疑者を指導・監督していたという。

資料によると、ブティナ容疑者は2016年米大統領選の前月、ツイッターのダイレクトメールを通じて政府高官に、「今は何もかも静かに慎重にやらないと」と書いた。

大統領選の投票日当日には、ロシア高官に「もう寝ます。こちらは午前3時。新しい命令を待っています」と書き送ったという。

司法省によると容疑者は、「米政府の政策決定機構に侵入する」ため、情報伝達の「裏チャンネル」を確立しようとしていた。

米国内では、保守派の銃所有権支持団体と関係を持ち続けていたという。

Photo of Ms Butina holding a gun

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大統領選中には、容疑者とロシア政府高官が共に、トランプ氏とプーチン氏の会談を実現させようとして果たせなかったといわれている。

2015年7月のタウンホール集会では、当時大統領候補だったトランプ氏に、ロシアについて意見を尋ねている。その翌年には、NRA総会でトランプ氏の長男、ドナルド・トランプ・ジュニア氏と会っている。

ブティナ容疑者のフェイスブック・ページには、他にも様々なイベントで米政界の有名人に会っている写真が掲載されている。ウィスコンシン州のスコット・ウォーカー州知事もその1人だ。

どういう人物なのか

ブティナ容疑者は2016年8月、F-1学生ビザで米国に入国した。リンクトインのページによると、ワシントンのアメリカン大学で最近、国際関係論の修士課程を修了した。

容疑者と面識のある人たちによると、人脈作りに熱心で、本人が語る経歴は米国各地の保守派イベントで出会う人たちに好かれやすい内容だった。

Ms Butina and Mr Torshin met Wisconsin Governor Scott Walker at an NRA convention

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画像説明, ロシア中央銀行のトルシン副総裁とブティナ容疑者は、NRA総会でウィスコンシン州のウォーカー州知事と会っていた

2015年には米ラジオ番組で、自分はシベリアの森林地帯で育ち、父親に狩りを教わったと話した。

家具店チェーンのオーナーとして数年働いた後、モスクワに移住し、個人の銃器所有権利を推進する団体を結成したという。

監督していたのは誰なのか

米報道によると、ブティナ容疑者を監督していたロシア政府高官は、ロシア中央銀行のアレクサンドル・トルシン副総裁のようだ。トルシン氏はプーチン大統領率いる与党「統一ロシア」の元上院議員で、幅広い人脈を持つ。

今年4月には米財務省による制裁対象となった。

ブティナ容疑者は数年前から、トルシン氏と写った写真を何枚かソーシャルメディアに投稿していた。ビザ申請書類には、かつてトルシン氏の特別助手だったと記入している。

米CBSニュースは消息筋の話として、司法省がブティナ容疑者と一緒にトルシン氏を訴追しなかったのは、ロバート・ムラー特別検察官がブティナ容疑者の協力を得て、トルシン氏や他のロシア政府高官について供述を得ようとしている印だと伝えた。

ホワイトハウスのサラ・サンダース報道官は18日の定例記者会見で、「その点にも注目しているが、時間のかかる手続きになる」と述べた。