世銀のキム総裁、突然の辞任発表

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世界銀行は7日、ジム・ヨン・キム総裁(59)が2月1日付で退任すると発表した。任期半ばでの突然の発表だが、退任理由は明らかにされなかった。
世銀総裁の任期は5年。キム総裁は2012年に総裁に就任し、2017年に再選したため、任期は2022年まで残っていた。
世銀によるとキム総裁は今後、「民間企業に参加し、発展途上国へのインフラ投資拡大に注力していく」という。
また、キム総裁は声明で、「この素晴らしい組織には、我々の世代で貧困を終わらせるという使命に、情熱的に取り組む人たちが大勢いる。この機関に、総裁として仕えたことは非常に光栄なことだった」と語った。
キム氏の退任後、世銀のクリスタリナ・ゲオルギエヴァ最高経営責任者(CEO)が暫定総裁として職務に当たる。
気候変動へのスタンス
キム総裁は公の場ではドナルド・トランプ米大統領との衝突を避けていたものの、その気候変動政策はしばしば、トランプ氏のものと対立していた。
たとえばキム総裁の下、世銀は石炭火力発電プロジェクトへの出資を終了した。一方、トランプ大統領はアメリカの石炭産業の復活を約束している。
昨年4月、キム総裁は中国への負債支払いについてトランプ政権からの圧力に屈した。世銀は130億ドル(約1兆4000億円)の増資の条件として、出資比率の変更に同意した。
世銀は、国際開発プロジェクトへの融資権限がある。1947年、第2次世界大戦による打撃にあえいでいた欧州各国の再建のために設置され、従来型の融資や無利子融資、助成金でインフラプロジェクトを支援している。
後継者
韓国・ソウル生まれのキム氏は医師で、公衆衛生の専門家。
2012年と2017年の世銀総裁選では、バラク・オバマ前米大統領の推薦を受けていた。
世銀は声明で、後任選びを「すぐに始める」としている。
伝統的に世銀の総裁候補はアメリカが推薦し、国際通貨基金(IMF)の理事は欧州各国によって選ばれる。しかし2012年にキム氏が就任した際には、南半球諸国が、新興市場国から候補を選ぶべきだと圧力を強めていた。
キム氏は米誌フォーブスが発表した昨年の「世界で最も影響力のある人物」ランキングで41位につけており、総裁として世銀の融資政策を取り仕切ってきた。世銀は2018年、670億ドル相当の財政支援を行っている。

<分析> アンドリュー・ウォーカー、経済担当編集委員
キム総裁はまだ退任していないが、後任人事について考察を始めることはできる。誰か特定の人物を取り上げることはしないが、国際政治の世界に残る大きな腫れ物が再び悪化することは予想できる。今回もこれまで通り、アメリカの選んだ候補者が総裁となるのだろうか?
なぜアメリカがというと、第2次世界大戦後の1940年代に世銀が創設された際にさかのぼる。アメリカ人が世銀を運営し、欧州出身者がIMFを動かすというのが当時の暗黙の了解で、今まで続いてきた。時代遅れだと大勢が思っている取り決めだ。
しかし、両機関のトップ選考は今では、決まった手続きに沿って行われる。そのため近年では、欧米の肝いり候補は苦戦を強いられるようになった。オバマ政権に推薦された韓国系アメリカ人のキム氏は2012年、コロンビアとナイジェリア出身の候補者と争った。
戦後の暗黙の取り決めが、今のところは続いてきた。トランプ政権下のアメリカが、この取り決めの終了を受け入れることなど、あるだろうか? だとしたらかなり意外な展開となる。
