「有害な」男女のステレオタイプ描く広告、イギリスで禁止
イギリスの広告基準協議会(ASA)はこのほど、「深刻もしくは広範な被害」につながる可能性のある「性別にもとづく有害なステレオタイプ(世間的固定概念)」を使った広告を禁止した。一部のステレオタイプに基づく表現が、「人の可能性を狭める」一端を担いかねないとしている。
ASAの決定に伴い、イギリス国内の広告では今後、男性がくつろぐ間に女性が掃除していたり、男性がおむつ替えに失敗したりするなどのシナリオは使えなくなる。
ASAは昨年末にこの新規制を発表し、広告業者に6カ月の準備期間を与えていた。
ASAの広告基準はインターネット広告やソーシャルメディア上の広告にも適用されている。
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ASAは先に広告における性別ステレオタイプについての審査を行ったところ、一部の有害なステレオタイプの描写は「子どもから大人まで、あらゆる人の選択肢や野心、機会を狭めるもので、一部の広告が性別に基づく不平等を助長している」ことが示唆されたという。
ASAのガイ・パーカー会長は、「調査の結果、広告内の有害な性別ステレオタイプが社会の不平等を助長し、皆がその影響を受けることが分かった。簡潔に言えば、広告の表現の一部が、長い年月をかけて人々の可能性を狭めてしまう可能性がある」と話した。
一方で、新規制は全ての性別にもとづくステレオタイプ表現を禁止しているわけではない。ASAは、予防すべき「一部の具体的な害」を特定することが目的だと説明している。
たとえば、女性が買い物をする様子や男性が日曜大工をする姿を描いても問題はない。また、性別ステレオタイプがもたらす負の影響を示すために、ステレオタイプを表現することも許容されている。
多様性の欠如
審査の一環としてASAは、さまざまな広告を調査参加者に見せて、男女がどのように表現されているか、それについてどう感じるかを聴取した。
そのうち、2017年に放送されていた粉ミルク「アプタミル」のテレビCMでは、男の赤ちゃんがエンジニアや登山者に、女の赤ちゃんがバレリーナになる様子が描かれていた。
ASAは、子どもを持つ参加者の中には「この広告は性別で子どもの将来の職業を特定しており、性別に基づく考え方が出ていると強く感じた人がいた」と説明している。
「この参加者たちは、なぜ広告内にこうしたステレオタイプが必要なのか疑問に思っていた。また、性別に対する多様性が欠けており、現実社会を反映していないと感じていた」
放送当時、このCMには多くの批判が寄せられたが、その時のASAの基準からは外れておらず、正式な審査には至らなかった経緯がある。
このほか、新規制で「有害」と認定される可能性のある描写には以下のようなものがある。
- 男性が赤ちゃんのおむつ替えに失敗したり、女性が駐車に失敗するなど、性別が原因で特定のタスクに失敗する描写
- 出産したばかりの母親に、心の健康よりも、外見をきれいに整えたり家事をきちんとする方が大事だと示唆する描写
- 従来のステレオタイプで女性の役割とされてきた活動に従事している男性を軽んじる描写
ブロガーで二児の父でもあるジム・コールソンさんは、今回の規制は良いものだと考えている。父親が「役立たず」だというステレオタイプを強制する広告を嫌っているからだ。
コールソンさんはBBCの取材に対し、「小さな事柄が積み重なって、潜在意識に影響を与えていく」と語った。
「広告が(中略)ステレオタイプに依存していることが問題だ。簡単だからそうしてしまっている」
一方、コラムニストのアンジェラ・エプスティーンさんはこれに同意せず、社会が「過敏反応」していると指摘する。
「賃金格差や職場でのいじめ、家庭内暴力(DV)、セクハラなど、平等のために戦わなくてはならない大きな問題がたくさんある。しかし、広告の中で女性が皿洗いをしているのは、別次元の問題だ。何でもかんでもいっしょくたにしてしまうと、感覚が麻痺してしまい、本当に必要な大事な議論を矮小化してしまう」
ASAのパーカー会長は、この新規制に対する広告業界の反応に満足していると話した。
ASAは今後、広告に対する申し立てを個別に審査し、「内容と文脈」からこの規制に違反しているかどうかを判断するとしている。