欧州議会、イギリスの離脱協定案を可決 批准手続きほぼ完了
欧州議会は29日、ブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)の条件を定めた離脱協定案について採決を行い、621対49の賛成多数で可決した。議場では議員が、別れの曲(日本では「蛍の光」の原曲)として知られるスコットランド民謡「オールド・ラング・サイン」を合唱した。
イギリスの欧州議会議員の一部は、いつの日かイギリスがEUに戻ってくることを願うと述べた。
一方で、ナイジェル・ファラージ氏率いるブレグジット党を含む欧州懐疑主義派は、最後の演説でEUを批判した。
欧州連合(EU)ではこの後、イギリスを除く加盟27カ国が協定案を30日に承認すると、手続きが完了する。イギリスは1月31日午後11時(日本時間2月1日午前8時)に、EUを離脱する。
分断以上に団結を
イギリスは昨年10月、EUと離脱協定に合意した。今月22日には、英議会でEU離脱関連法が可決しており、欧州議会での批准は確実視されていた。
欧州議会のダヴィド・サッソリ議長は合意書簡に署名し、イギリスとEU双方は、ブレグジット後の将来の関係性をめぐる交渉において、2016年に殺害されたジョー・コックス下院議員(労働党)の「私たちを分断するものより、団結させるものの方が多い」という言葉を心に留め、認めなければならないと述べた。
「イギリスはEUから離脱するが、あなた方は常に欧州の一部です。(中略)さようならを言うのが非常に辛い。私の同僚もそうであるように、それが理由だ。アリヴェデルチ(イタリア語で「また会いましょう」の意味)と言おう」と、議長は別れを惜しんだ。
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祝福と惜しむ声
欧州議会の29日の本会議では、イギリスからの73人を含む欧州議会議員から、イギリスのEU離脱を祝福する子や惜しむ声があがった。
一部議員は歌を歌い、別の議員は「常に団結している」と書かれたスカーフを身に着けた。
欧州議会のブレグジット交渉担当のヒー・フェルホフスタット氏は、「欧州解放のため2度にわたり血を流した国が、去っていくのを見るのは悲しい」と述べた。また、イギリスの欧州議会議員は「頑固さ」だけでなく「機知や魅力、知性」を欧州議会にもたらしたため、それがなくなるのは寂しいと付け加えた。
ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長は、離脱協定案の批准について、EUとイギリスの新しい協力関係に向けた「最初の一歩にすぎない」とした上で、双方が気候変動などの分野において力を合わせることや、離脱後の緊密な協力関係を模索する必要があると述べた。
ライエン氏はイギリスに対し、「我々はいつでも皆さんを愛しているし、遠く離れるわけではない」と述べ、この日の議事を締めくくった。
EUのミシェル・バルニエ首席交渉官もまた、イギリスに幸運を祈ると述べた。バルニエ氏は、EUは加盟国の利益を守りつつ、イギリスとの将来の関係性をめぐる交渉に「忍耐」と「客観性」を持って臨むと意欲を示した。
ベルギーのフィリップ・ランベール欧州議会議員は、EUは「欧州人の心や意識を再び獲得する」ために、少数ではなく多数のために何ができるのかということに注力しなければならないと述べ、EU離脱というイギリスの決断から教訓を得なければならないとの考えを示した。
一方で、欧州懐疑主義派として知られる英保守党のダニエル・ハナン欧州議会議員は、イギリスがEUに敵対したのは、「EUを準国家にするという野心」が明らかになったからだと述べた。
ハナン氏は、「イギリスがもしいずれかの段階で、貿易のみの関係を持つことができていれば、それで十分だった」、「あなた方は悪いテナントを失う代わりに、良い隣人を獲得することになる」と述べた。
1999年に欧州議会議員に初当選したファラージ氏は、欧州議会議員として最後の演説でEUを非難した。
ファラージ氏は、「ブレグジットをきっかけに、自分たちが欧州に何を求めるのか、欧州全土で議論が始まって欲しい」として、国家間の「貿易や友情、協力、相互作用」は、「EUのあらゆる制度や権力」抜きで実現することができるだろうと述べた。この演説の最中にファラージ氏やブレグジット党の議員たちがイギリス国旗を振ったため、議事進行を采配していたマリード・マクギネス副議長(アイルランド選出)が規則違反だと制止し、マイクを切ることになった。
ファラージ氏とブレグジット党の議員たちは協定案の採択後、他の議員たちが「オールド・ラング・サイン」を歌うなか、イギリス国旗を振りながら、にこやかに議場を後にした。
ブレグジット党の議員が離脱を喜ぶ一方で、EU離脱を悲しむ声も上がっている。
英緑の党のモリー・スコット・ケイト欧州議会議員は、ブレグジットに対する「悲しみや後悔」を吐露した。そして「いつの日か」欧州議会に戻るという希望を述べると、同僚議員から拍手やハグをされ涙ぐんだ。
「今はEUへの復帰を求める活動をすべき時ではないが、我々はその夢を持ち続けなければならない」
緑の党のアレクサンドラ・フィリップス議員はツイッターで、「世界一の仕事を離れなくてはならないなんて、打ちのめされている。27の異なる言語や文化に囲まれながら、本物の変化を毎日実現できていたのに」と書いた。
次は何が起こる?
イギリスはEUを離脱すると、2月1日から11カ月間の「移行期間」に入る。この移行期間中に、イギリスとEUは通商や安全保障上の取り決めについて、交渉を終わらせる必要がある。
通商協定をめぐる交渉は早ければ3月初めにも開始となる見込み。イギリス政府は、こうした交渉を行う移行期間を2020年12月31日以降に延長することは認めない方針を打ち出している。
サッソリ議長は28日、米CNNに対し、交渉スケジュールは厳しいものだと認めた。その上で、イギリスの離脱はEUにとって「痛手」になるものの、友好的な協力関係や相互利益に基づき新しい協力関係を構築することが、今は不可欠だと話した。