極右民兵組織のリーダーに禁錮18年 米議会襲撃事件
米ワシントンの連邦地裁は25日、2021年1月6日の連邦議会襲撃事件をめぐり、極右民兵組織のリーダーに扇動共謀罪などで禁錮18年の実刑判決を言い渡した。議会襲撃に関連して起訴された被告の中で、最も重い量刑となった。検察は禁錮25年を求刑していた。
極右民兵組織「オース・キーパーズ」(Oath Keepers、直訳は「誓いを守る者たち」の意味)の創設者、スチュワート・ローズ被告は扇動共謀罪などで禁錮18年。同組織フロリダ支部のリーダー、ケリー・メグス被告は禁錮12年の判決を受けた。
弁護団は控訴を予定している。
ローズ被告は議事堂襲撃が起きていた当時、自分は議事堂の外にとどまったものの、実際に議事堂を襲撃したメグス被告らと連絡を取り合い、動きを調整していた。
ローズ、メグス両被告は、公務執行妨害や公文書毀棄(こうぶんしょ・きき)などの罪でも有罪となった。
25日の公判でローズ被告は反省の様子をほとんど示さず、自分は「政治犯」だと主張。自分たち「オース・キーパーズ」は、「この国を滅ぼしている」勢力に対抗しているのだと力説した。
連邦地裁のアミト・メータ裁判長は被告のこうした主張を受け入れず、ローズ被告がナンシー・ペロシ前下院議長(民主党)を絞首刑にするつもりだと発言したことなど重く受け止め、問題視した。
「ローズさん、自分が量刑を言い渡す相手にこのようなことを言うのは初めてですが、あなたは、この国にとって、この共和国にとって、そしてこの国の民主主義の成り立ちそのものを、依然として脅かし続ける危険な存在です」と、裁判長は告げた。
「選挙が近づくなか、私たちは全員が一緒になって息をのんで何が起きるのか、見つめています。また1月6日と同じことが起きるのか。それはこれから分かることでしょう」とも裁判長は述べた。
当時の大統領で、2024年大統領選にも出馬する方針のドナルド・トランプ氏は2021年1月6日、ワシントンに支持者を集め、2020年大統領選の結果に抗議する集会をホワイトハウスの近くで開いた。その集会に参加した大勢が、そのまま連邦議会議事堂へ向かい、中に侵入した。
議事堂襲撃に参加した大勢がこれまで逮捕・起訴され、有罪判決を受けている。その中でも、ローズ被告に対する禁錮18年の量刑は最長。
検察はローズ被告に禁錮25年、メグス被告に同21年をそれぞれ求刑していた。弁護側はそれぞれ3年以下の実刑がふさわしいと主張していた。
ローズ被告は、元米陸軍の空てい団に属し、イェール大学を経て弁護士資格を取得。2009年に「オース・キーパーズ」を立ち上げた。
「オース・キーパーズ」は武装反政府組織として複数のデモや抗議集会に参加したのち、トランプ氏を強く支持するようになった。議会襲撃には数十人が参加した。
1月6日に何をしたのか
ローズ被告は2020年11月の大統領選投票から2日後、まだ開票作業中の時点で、選挙結果を否定する運動を開始。「内戦なしでは乗り切れない(中略)心、体、精神の準備をするように」と支持者にメッセージを送り始めた。
その後、被告と他のメンバーは武器や装備の調達に数千ドルを費やし、襲撃当日の直前、ワシントンに近いヴァージニア州のホテルの一室に隠した。
暴動の最中にはローズ被告は議事堂の外にとどまり、電話やメッセージの受けたり発したりしていた。メグス被告をはじめ他のオース・キーパーズ・メンバーは、議事堂を襲撃した。
検察によるとローズ被告は騒ぎの渦中で、「戦場の将軍」のように行動していたという。
これに対して弁護団は、集めた武器は結局使わなかったし、メンバーはあくまでも自衛のために行動していたのだと主張。連邦地裁による判決と量刑を控訴する方針という。
ローズ被告の家族は昨年、BBCの取材に応じ、被告がアメリカ各地で反政府集会やデモを組織して回る間、自分たち家族は何年も虐待され無視されたのだと説明。
元妻ナターシャ・アダムズさんはこのほど、モンタナ州の裁判所に離婚を認められたとツイートしていた。
扇動共謀罪とは
ローズ、メグス両被告に対して適用された米連邦法の扇動共謀罪とは、アメリカの南北戦争に由来するもの。昨年11月にローズ被告らが同罪で有罪となった時点で、扇動共謀罪による有罪評決は、1995年以来だった。
政府転覆や政府破壊を陰謀計画すること、もしくは「アメリカのいかなる法についてもその実行を阻止、妨害、あるいは遅延させる」ために暴力を使うことを意味する。
5月初めには、同様に議会襲撃にかかわった極右団体「プラウド・ボーイズ」の幹部に適用された。
扇動共謀罪は、合衆国憲法が唯一規定する犯罪「反逆罪」よりは立証のハードルが低く、公開法廷もしくは自供で少なくとも証人2人の証言が得られれば、立証されたことになる。死刑が適用され得る「反逆罪」に比べると、禁錮最高20年という量刑も、比較的軽い。
同時期に裁判が始まった他の3人のオース・キーパーズ・メンバーは、扇動共謀罪では無罪になったが、他の比較的軽い罪状で有罪になった。
ローズ被告については検察が、「テロ行為を増強」したと他より厳しい量刑を求め、メータ裁判長もこれを認めた。検察はオース・キーパーズが、アメリカ政府に対して「威圧あるいは強制」を意図したと主張した。
これまでに他にオース・キーパーズ4人とプラウド・ボーイズ4人が、扇動共謀罪で有罪になっている。
その一方、議会襲撃に参加したほとんどの人は、こうした団体に参加していなかった。
議会襲撃に関連してこれまでに1000人以上が逮捕され、半数以上が暴行や窃盗、不法侵入、公務執行妨害、武器の違法携行や使用などの罪について、有罪を認めている。
米司法省によると、裁判を経て有罪となったのは約80人という。