ハマスに解放された男性たち、妻子殺害を知らず

ハマスに解放されたエリ・シャラビさん(8日、ガザ地区デイル・アル・バラフ)

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イスラム組織ハマスが8日に解放したイスラエル人の人質3人のうち2人は、妻子がすでに殺されていると知らなかったことが明らかになった。

エリ・シャラビさん(52)は、妻子が2023年10月7日に殺害されていたことを解放後まで知らなかったという。イギリスに住むシャラビさんの義理の家族が、BBCに話した。

オル・レヴィさん(34)も、襲撃当時一緒にいた妻が殺されていたことを、解放後に初めて知ったという。兄ミカエルさんが報道陣に明らかにした。

家族と再会したオル・レヴィさん(8日、イスラエル・ラマトガンのシェバ医療センター)

画像提供, イスラエル政府報道局/ Reuters

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「妻子のもとへ戻れるのがうれしい」と解放時に

シャラビさんは1年4カ月前にハマスに人質にされ、今月8日にガザ地区中部デイル・アル・バラフで解放された。

妻リアンさんと娘ノイヤさんとヤヘルさんは、ハマスの攻撃から間もなく、シェルターで遺体となっているのを発見された。

解放されたシャラビさんには、イスラエル国防軍(IDF)の兵士が、家族が亡くなっていることを伝えたという。英西部ウェールズ・ブリジェンドに住むリアンさんの両親、ジル・ブリスリーさんとピート・ブリスリーさんが9日、BBCに明らかにした。

解放時にシャラビさんは、ガザ地区中部デイル・アル・バラフにハマスが用意した壇上で、「今日、妻と娘たちのもとに戻れるのがとてもうれしい」と発言。妻子の安否をシャラビさんは知らされていないのかと、家族の懸念が募っていた。

ブリスリーさん夫妻は、解放後のシャラビさんとビデオ通話で話をした際、シャラビさんは意識はしっかりしていたが、声は少ししわがれていたとBBCに話した。

ブリスリー夫妻は近くシャラビさんに会いに行くという
画像説明, ブリスリー夫妻は近くシャラビさんに会いに行くという

「何度か声をつまらせていたけれども、私たちに向かってかすかに笑ってくれた。本当に勇敢な男だ」と夫妻は話した。近く、イスラエルへ向かいシャラビさんに会う予定という。

夫妻は、シャラビさんの解放をライブストリームで見つめながら泣いてしまったと話した。シャラビさんが「やせ細って」いるとも述べた。

「エリはふだんはふっくらした顔をしているのに、映像では目が落ちくぼんで、ほほはこけて、手首は棒みたいに細かった」とピートさんは話した。

夫妻の娘リアンさんは英南西部ブリストルで生まれ育ち、19歳の時にキブツ(農場)でボランティアをするために初めてイスラエルに渡った。まもなくしてエリさんと出会い、そのまま結婚して定住した。二人の娘ノイヤさんとヤヘルさんは、16歳と13歳で殺害された。リアンさんは48歳だった。

シャラビさんの兄ヨッシさんも2023年10月7日に、ハマスの人質になり、後に亡くなった。ハマスは、イスラエルの建物空爆がヨッシさんの死因だと主張し、イスラエル側もその可能性を認めている。

英ブリストル出身のリアンさん(中央)と娘のノイヤさん(右)とヤヘルさんは、2023年10月7日の攻撃で殺された
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悲痛が混ざった喜び

オル・レヴィさんについて兄ミカエルさんは、「彼は491日間、妻のもとに戻るという希望にしがみついていた。491日もの間、彼女がもう生きていないと弟は知らなかった」と報道陣に話した。

弟が「生きて」「ここにいる」ことに家族は喜んでいるものの、その「喜びにはとてつもない悲しみと、とても言葉にならない苦痛が混ざっている」とも、ミカエルさんは述べた。

レヴィさんは、ガザ地区に近いイスラエル側の砂漠で開かれていたノヴァ音楽フェスティバルで拘束された。イスラエル軍によると、レヴィさんと一緒にいた妻エイナヴさんは後に、二人で隠れたシェルターで遺体で発見された。

健康状態と待遇に懸念

イスラエルの刑務所から釈放されたパレスチナ人男性と、歓迎する人たち(8日、ヨルダン川西岸地区ラマラ)

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イスラエルとハマスが合意した停戦の第一段階では、ハマスが人質33人を解放するのと引き換えに、イスラエルがパレスチナ人収監者1900人を釈放する取り決めになっている。

1月19日以降、ハマスはガザで人質にしていた16人を解放。また停戦合意とは別の取り決めで、タイ人5人も解放された。

イスラエル政府は、ハマスが2023年10月に拘束した251人のうち、73人の安否が不明だとしている。イスラエルはこの73人のうち存命なのは39人のみだとみている。

2023年10月以来、ハマスは人質計138人を解放した。そのうち84人はイスラエル人で、24人は外国人。

1月の停戦合意に基づき、イスラエルはこれまでにパレスチナ人を500人以上釈放した。女性や子供も含まれ、1月末には15歳が釈放された。

釈放された中には、比較的軽い罪が問われていた人もいれば、有罪判決や正式な起訴の対象になっていない人もいる。

8日に解放されたイスラエル人3人がやせ細っていた様子には、家族だけでなくイスラエル政府や野党政治家、多くの国民から怒りや懸念の声が上がっている。

人質と収監者の交換を仲介する赤十字国際員会も、人質の解放手順に伴う「状況への懸念を強めている」とコメント。「解放される人たちの尊厳とプライバシー」を尊重するよう求めた。

他方、同日にイスラエルの刑務所から釈放されたパレスチナ人収監者の待遇についても、非難の声が上がっている。パレスチナ赤新月社によると、8日に釈放された183人のうち7人を病院に搬送しなくてはならなかった。

釈放された一人、ジャマル・アル・タウィル元アル・ビレ市長は、不起訴のまま収監が続くことに抗議してハンガーストライキを続けていた。娘によると、アル・タウィル氏は解放の直前に、看守たちに殴られたという。刑務所を出た後、人工呼吸器をつけた状態でバスから病院へ運ばれた。