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ビットコインの準備資産化、史上最大の詐欺となる恐れ-社説

トランプ次期米大統領が検討しているように、米政府には暗号資産(仮想通貨)ビットコインの戦略備蓄が必要だろうか。単純化し過ぎるきらいはあるが、答えはノーだ。実際、このアイデアは史上最大の仮想通貨詐欺のように思える。

  ビットコインは米大統領選前日の11月4日の水準から50%余り上昇し、10万ドルを突破。その背景には、トランプ氏と数十人の議員候補の選挙運動に約1億3500万ドル(約205億円)を献金した仮想通貨の支持者たちがビットコイン備蓄の創設に向け、トランプ氏を説得してくれるのではないかという期待がある。

  トランプ氏はこれまで、この構想は政府が刑事事件で押収したビットコインを保有するだけかもしれないと示唆している。政府はこれまでに約20万コイン、200億ドル相当を差し押さえている。

  しかし、仮想通貨に理解を示すシンシア・ルミス上院議員(共和、ワイオミング)が提出した法案は、はるかに踏み込んだ内容で、政府が今後5年間でさらに100万ビットコインを購入し、その後少なくとも20年間それを備蓄することを義務付けるものだ。

  何のためにビットコインを保有するのか。 政府は、例えば石油などのさまざまな戦略物資を備蓄し、経済や国家の安全保障にとって重要な商品の供給を確保している。連邦準備制度は、完全雇用や低インフレ、安定した金融システムの実現を目的として資産の売買を行っている。

  税金でビットコインを購入することは、そのような公共の目的には役立たない。ビットコインに産業利用価値はなく、実際のキャッシュフローに対する請求権もなく、実体経済とのつながりもない。

  ビットコインは純粋な投機の手段だ。その価格はただ、より愚かな者が支払ってもよいと思う金額によって決まる。

  しかし、政府がビットコインを準備資産に加えれば、既存のビットコイン保有者は大いに潤うことになる。選挙後の仮想通貨急騰は、政府の購入に先んじようと買い手が殺到したことによるもので、今後起こり得ることを垣間見させた。

  世界の投資家が保有する資産のほんの一部でもビットコインに振り向けた場合、現存する約2000万トークンの価格はすぐに上昇するだろう。特に、これらのトークンのうち実際に取引されているのはごく一部であることを踏まえると、その傾向は著しいものになる。

  政府は「より愚かな者」の役割を演じることになるだろう。そのコストは数千億ドルに上るかもしれない。準備資産としてビットコインを調達するために、財務省が借金を増やして利息を支払うか、連邦準備制度が通貨を発行してインフレをあおり、ドルの信頼性を損なうしかない。

   政府はその見返りとして、利子や配当という形の収入を生み出さないトークンの山を手に入れることになる。仮想通貨支持派は、売却で利益を出すことで債務を返済できると主張している。

    しかし、購入のタイミングが強制的なものであること、ビットコインのボラティリティーとファンダメンタルな価値の欠如を考慮すると、損失のリスクは大きい。米国の準備資産が最終的に無価値になってしまう恐れがある。

  さらに悪いことに、価格上昇と政府の後押しが組み合わさることで、ビットコインは銀行やその他の金融機関にとって魅力的に映り得る。

  規制当局が許可すれば、デジタルトークンを担保にドルを貸し付けることも可能となり、保有者は暗号資産を現実の通貨に変えることができる。もしその担保が大幅に価値を失った場合、金融システムの救済がまた必要になることもあり得ないことではない。

  皮肉なことを考えてみよう。ビットコインは本質的には無政府主義者のプロジェクトであり、人々が中央集権的な仲介者や政府に頼らずに取引を行うことを可能にした。

  ところが、取引を支配するようになった中央集権的な仲介者、例えば仮想通貨交換を手がけるコインベース・グローバルなどは今、巨額の補助金に相当するビットコインの準備資産化を実現させようと政府に働きかけている。

  納税者にとっての結末は悲惨なものになる可能性がある。もしトランプ氏が仮想通貨のカジノを始めたいのであれば、そうすればいい。

  しかし、仮想通貨で起こったことは仮想通貨の領域にとどめるべきだ。納税者の資金を投入すれば、何百万人もの米国人がリスクにさらされる。

原題:Bitcoin Reserve Could Be the Biggest Crypto Scam Yet: Editorial(抜粋)

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