「頭のいい」女子はいらないのか——ある女子国立大院生の就活リアル

滝川 麻衣子[編集部]

滝川 麻衣子[編集部]

Oct 19, 2017, 11:00 AM

PV260,057
X
就活風景
売り手市場でもふたを開けてみると、就活リアルは決して甘くない。
撮影:今村拓馬

JR大阪駅近くの外資系ホテルのラウンジに向かうと、約束の時間より早く到着していたその女性は、こちらに気づき立ち上がって軽く会釈した。関西在住の国立大学の大学院修士2年、島本渚さん(23、仮名)。大学院では社会学系を専攻しているという。

すらりと背が高く、ゆるやかに巻いた黒髪に上品な顔立ちで、23歳という年齢よりも落ち着いた雰囲気だ。

彼女と会うきっかけは、編集部に届いた一通のメールだった。

「私が就活で感じた違和感について少し納得することができました」

女性の就活についてのBusiness Insider Japanの記事への感想とともに就活体験が綴られていた。その体験はもとより、丁寧かつ論旨の通った文面に表れる切実さが気になり、会えないかと連絡をとったのだ。

関連記事:就活「男女格差」が女子学生を総合職から遠ざける——新卒採用は女子の才能のムダ使い

「研究職や非営利団体での活動も考えましたが、一度、民間企業で働いてみようと思いました」

修士1年目にあたる2016年秋、島本さんは就職活動を始めた。「グローバルなものづくり企業」を軸に志望企業を選んだ。

有名国立大学の院生、学部時代の留学経験、落ち着いて論理的に話す様子、しかも大卒の就職内定率は97%超(2017年度卒)という売り手市場。島本さんの就活は問題なさそうに思える。しかし、今月の内定式まで約1年にわたる就活体験は、第一印象からの想像とは違ったようだ。

「性差別するつもりはないんだけど」

大学院ねえ。そんなに勉強してどうするの

手元の資料を眺め、そう話す男性採用担当者(メーカー)の言葉に一瞬、面食らった。複数企業が参加する、スカウト式の就活イベントの面接でのことだ。

大学院への進学をしたいと親に話した時も「やりたいことがあるならやればいい」と、背中を押してもらった。大学院の同級生や周囲の友達も、勉強熱心だ。就活スタートでのっけから、学歴について否定的なニュアンスで語られるのは意外だった。

その違和感は、その後もつきまとうことになる。

就活初期は、面接や試験に慣れる意味で専門商社、素材メーカー、ベンチャー企業を、企業側から大学への直接採用ルートからは本命の大手ゼネコンや国内自動車メーカーを受けた。

女子大学院生の手元写真
売り手市場といわれる中で、島本さん(仮名)の就活は厳しいものだった。
撮影:滝川麻衣子

転勤も海外赴任も望むところだったので、総合職でエントリーした。選んだ業界のせいもあるのか、周囲は男子学生ばかりだった。

男性ばかりの職場で働くことも織り込み済み。だから、女性がほとんどいない採用の現場にも違和感はなかった。

ただ、就活初期に受けた専門商社の1日インターンでのこと。順番に学生側が自己紹介をする場面で、自分の番になると面接官は「ふーん」と言ったきり、話が弾まない。

「声が大きく元気な、大学在籍の男子学生が話すときはニコニコと歓迎されているのがあからさまで。自分は興味をもってもらえていないな、とすぐに分かりました」

自分の考えをきちんと話したつもりでも、「性差別する気はないんだけど、あなた、考え方が男性っぽいよね」なんで長く働きたいの?」(ベンチャー)と、想像していたような質問とは、およそ程遠い反応が返ってくる。

世代の近い社員に学生が話を聞くグループ面接(専門商社)では、20代の若手社員に「ライフイベントを経ても働き続けていきたい」と話すと、「ライフイベントって?」と聞き返された。「出産や子育てです」と答えたが、男子学生の中で確実に浮いている空気を味わった。

ゼネコンは差別的とこそ思わなかったが、面接は事実上「男社会だけれど大丈夫か」の確認作業なんだと感じた。

素材メーカーの面接で「はっきり言って、頭良すぎていらないんだよね」と言われたときには、「受かるワケがない」とさすがにショックだった。

6月に入り、内定が解禁されても、違和感を飲み込みつつ就活を続けた。

大手ゼネコンや自動車メーカーで、最終面接やその一歩前まで進んでいたので「どこか一つくらいは」と期待していた。ところが軒並み内定には至らず、最後の1社から連絡が来るはずの日から1週間が立つと、さすがに焦りを感じた。

「自分はもしかして負け組なのかもしれない」

「あなたの学歴ではもったいないよ」

国立大学院の文系女子なんて、生意気に感じるんじゃないの?

大手メーカーで働いてきた母親にはそう言われた。

「わらをもすがる思い」で、第二新卒の求人を扱うベンチャー系のエージェントを訪ねた。

「グローバルとものづくりで探している」と話すと、担当者が出してきた企業は、回転寿司チェーンと中古車販売。

「その企業を否定するわけではないのですが……。わたしは何のために大学院に行ったんだろう……と、さすがにショックでした」

実は1件、2月には最終面接まで行き、意思確認を待ってくれている企業があった。「本命受験の前の練習のつもり」で受けていた、ある大手学習塾だ。今更ながら連絡をとると、当初言われたように内定が出た。ところがその電話での担当者の言葉は意外なものだった。

こんなことをいうのは何ですが、あなたの学歴ではもったいないよ

他にも数十人の同期がいるが、「名前を知らないような大学の子だったりする。ご両親や世間の目もあるけれど、いいの?

女子は有利か不利か

島本さんのように、就活で女性が「不利」と感じることは、いまだに珍しくないのだろうか。

就活支援のディスコ「女子学生の就職活動に関するアンケート調査 」(2017 年4月発行)によると「女性で損した(理不尽だ)」と思った経験があると回答した人は35.1%。「女性でよかった」と思った経験のある人の割合37.1%と拮抗している。

女子で不利と感じたことはあるか。
就活中に「女性で損した」と思った経験は3人に1人。
出典:ディスコ「女子学生の就職活動に関するアンケート調査 」(2017 年4月発行)

不利に感じた経験があると答えた人の言葉を見てみよう。

・面接時、結婚すれば辞めるだろうと言われたこと。

・面接で営業職に興味がある話をしたら、女子には営業まかせられないみたいなことを遠回しに言われた。

・総合職とエリア職を併願できる会社からは「女性ならエリア職で入って欲しい」と勧められたこと。

・女性の大学院生は採らない (採った実績はなく、採る気もない)という会社に一度出合いました。男子大学院生はかなり人数を採っているにもかかわらず、なぜ女性は採らないのかと理不尽に思いました。

・産休育休の実績がない会社があり、ライフイベントを挟んで働き続ける方法はないのかと質問したら、産後は契約社員と言われた。

(ディスコ「女子学生の就職活動に関するアンケート調査」より抜粋)

男女雇用機会均等法施行から30年余り、女性活躍推進法の施行から1年。けれどこれも、日本の就活リアルだ。

人混み
男女雇用機会均等法から30年余り。働く女性をめぐる環境はどこまで変わったのか。
撮影:今村拓馬

10月1日に、多くの企業は来年度入社の内定者を対象に内定式を行う。島本さんも、東京都内の本社で行われた内定式を終えたところだ。

途方に暮れた6月を経てその後、通年採用をしているメーカーの短期選考に応募し、内定が出た。当初目指した重厚長大産業ではないとはいえ、ものづくりをしている企業であること、グローバル展開があることから、心を決めたという。

「最初からここを受けて内定をもらうより、多くのことを体験して、勉強になったと今は思えます。自分が社会に出るとどう見られるのかも少し、わかりました」

島本さんは、この1年をそう振り返った。

「これから頑張ります」

笑顔でそう話した彼女の姿は、改札口付近の雑踏に紛れ、やがて見えなくなった。

(文・滝川麻衣子)

X

あわせて読みたい

Special Feature

BRAND STUDIO