ZOZOSUITの配布にプライベートブランド(PB)の海外進出、社長の前澤友作氏が民間人として世界初の月周回旅行を契約……。2018年の年明けから何かと話題を振りまいてきた、ファッション通販サイトのZOZOが、正念場を迎えている。
「誰もまだ到達していない領域」に挑み続けるという、ZOZO社長の前澤氏。ここからが正念場となりそうだ。
撮影:今村拓馬
10月31日に発表した2018年4〜9月期決算は、商品取扱高こそ1412億円と前年同期比18%増に達したが、最終利益は同34%減の62億円と増収減益。同時に注目を集めてきたZOZOSUITの「将来的な廃止」を発表し、ユーザーからは賛否両論が巻き起こっている。
11月1日の株価は午前10時現在、前日の終値(2719円)をはさんでもみあう展開。7月には5000円近くあったのが、半減近くにまで低迷している。
ハロウィーン本番の10月31日、東京・渋谷の街には、仮装した人たちの中にもZOZOSUIT姿が。
撮影:西山里緒
終電時間を終えても、東京都内が仮装をした人たちで賑わうハロウィン本番の10月31日、衣装としてZOZOSUITを着用する人たちの自撮り写真が、街にもTwitter上にも、あちこちでみられた。
折しもその日の夕方、前澤氏は東京都内で決算会見に登場し、「ZOZOSUITがなくてもPBを購入できるようになる」と発表、将来的にはZOZOSUITをなくしていく考えを明らかにした。
海外や子ども向けなど、データ計測用に一部は残すとしたが、基本的には今後、「ZOZOSUITがなくても、これまで集めたデータの機械学習などにより、最適サイズを予測する新技術」(前澤氏)に力を入れていくという。目玉戦略とされてきたZOZOSUITの大きな方針転換といえる。
ZOZOSUITはいらなかったの?
2018年1月に発表されたZOZOのプライベートブランドのデニム。計測でぴったりサイズを提供するのが話題だったが。
撮影:今村拓馬
新技術を使うことで、ユーザーは身長や体重、年代、性別などをPBの購入時に入力するだけで済むという。現状、計測に必要な、ZOZOSUITを着用しての12枚の写真の撮影や、専用アプリのダウンロードも不要になる見込みだ。
「だったらZOZOSUITなんていらなかったんじゃない?と思われるかもしれないが、これまでもなくなる可能性には言及してきた。裏側で新技術の開発をずっと進めてきた」と、前澤氏は説明。
業績が減速している最大の要因は、肝いりだったZOZOSUITの配布コストがかさんだことと、前澤氏自ら指揮をとってきたPBの現状が思わしくないことだ。
受注ベースで15億4000万円の売り上げがあったというPBだが、7月に発表したビジネススーツの発送の遅れなどに伴い、実際の売り上げは5億4000万円にとどまっている。巷で大きな話題を集めたZOZOSUITは「なくす方向」で、ユーザーからは戸惑いの声も上がっている。
「えーZOZOスーツやめちゃうの?」
「頭悪いから理解していないけど、みんな体形が違うから測ってたんじゃないの?」
決算会見の場でも、投資家から「レピュテーションリスク(企業の信用やブランド価値が低下し損失を被るリスク)についてどう考えるか」、通販サイトの運営から「初めてものづくりに参入してみて、難しさは感じたか」など、前澤氏に厳しい現状を問う質問が、相次いだ。
今後の打ち手をすでに準備
2018年の話題をさらったZOZOSUITは、将来的にはなくす方針だ。
出典:ZOZOのホームページ
「ZOZOSUITの計測が何度やっても失敗」「ビジネススーツが届かない」といった不満の声に対しては、前澤氏は会見で、すでに水面下では、手を打っていることを強調した。
「ずっと裏で開発を進めてきた新技術」についての全容は、まだ明らかにされていないが、前澤氏の説明によると
・数百万件のZOZOSUITの配布に伴う計測データ
・入力を求める基礎データ
・ユーザーからの製品へのフィードバック
これらを機械学習に使い、その精度を上げていくことで、すべてのPBがZOZOSUITなしで購入できるようにする計画という。
また、ビジネススーツの発送が遅れている問題に関しては、将来的に全自動化するための試みとして、「ZOZOスマートファクトリー」を千葉県に設立。中国や東南アジアに生産を依存している現状を見直す考えという。
"ブランド”の真価が問われる時
「個人として」の月周回旅行について、会見する前澤氏。
撮影:今村拓馬
ZOZOの最大のブランドは、前澤氏のキャラクターにあるといえる。
月周回旅行に乗り出したり人気女優との交際を明らかにしたり、一部上場企業のトップとしては型破りな言動や、Twitterでのストレートな物言い、前例にとらわれない自由さが、若年層を中心に底堅い人気を集めてきた。
ただ、「世界中のボディデータを集める」と、革新的に受け止められたZOZOSUITをめぐる方針転換や、これまでのZOZOSUITの精度の不完全さ、PB発送の大幅な遅延と、たびたび消費者の期待を裏切るようでは、そのブランドにも影を落としかねない。
前澤氏は「まだ企業秘密」と発言するなど、新技術の今後の展開に含みをもたせているが、「誰にも参入できない領域に挑戦できている」と自ら語る領域に、ZOZO自体が果たして到達できるのか。ここからは、その真価が問われることになる。
(文・滝川麻衣子)