5月末の取材時点での、マイクロソフトとグーグル各陣営の教育クラウドの導入発表状況。
筆者取材をもとにBusiness Insider Japanが作成
文部科学省は令和2年度補正予算案において、今後数年にわたって実現する計画だった生徒1人1台のPCを実現する「GIGAスクール構想」を前倒しして今年度中に実現することを4月8日に明らかにした(その後、4月30日に補正予算は成立した)。
これを受けて、現在PCメーカーや、それをサポートするグーグルやマイクロソフトなどのプラットフォーマーは、都道府県や市区町村の教育委員会などの事業主体に対しての売り込み攻勢を加速している。
だが、注目したいのは、1人1台のデバイスという派手なニュースも大事なのだが、その裏でグーグル、マイクロソフトという2大クラウド事業者による、教育クラウドサービスの覇権を巡る激しい争いが起きているという事実だ。
グーグルは「Classroom」、マイクロソフトは「Teams」というコラボレーションツールを武器にして、一種の「青田買い」とも言える生徒へのID発行競争を繰り広げている。
GIGAスクール構想とは:日本におけるICT利活用教育の遅れを取り戻すために、小中学校を対象にネットワーク環境の構築と生徒一人一台を実現する為に国費による補助金を交付する取り組みで、令和元年度の補正予算で予算化が既に実現した
GIGAスクール構想で注目を集める、MSとグーグルの教育クラウド
令和元年度補正予算から、令和2年度補正予算案を経て「一人1台端末」のロードマップは一変した。大幅な予算投下で、一気に2020年中に実現を目指す計画に変わった。
筆者提供の情報をもとにBusiness Insider Japanが作成
PC業界にとってGIGAスクールは、まさに降ってわいたような特需だ。
突如として、令和元年補正予算(ただし校内ネットワーク環境の整備分を含む)と合わせて4269億円という巨大市場が、わずか1年限定ででき上がるのだから。
メーカー各社が色めき立つのも無理はない。
こうしたGIGAスクール構想を巡り、PCやタブレットなどを販売するメーカーは、既に各種の対応製品を発表している。主に選択肢は3つある。
- マイクロソフトとPCメーカーが推進するWindowsマシン
- グーグルとPCメーカーが推進するChromebookマシン
- アップルの提供するiPad
いずれも文科省が定める「標準仕様書」でCPUやメモリー、ストレージやキーボードの有無などそのスペックが定められており、その仕様に沿って各社が市区町村の教育委員会に提案している。
覇権争いの本丸はハードウェアではなく「クラウド」が鍵
Chromebookの1つ、「Lenovo IdeaPad Duet Chromebook」。レノボ直販サイトの価格は4万4880円。
出典:レノボ・ジャパン
ここで、ビジネスとしての教育ITの観点で注視したいのは「市区町村がどのようなクラウドサービスを選択するか」だ。
というのも、今回のGIGAスクール構想のPCやタブレットは、「PCの中にデータやアプリを保存して使う」といった形を前提としていない。スマホでは当たり前になった、「サービス事業者が提供するクラウドサービスと組み合わせて使う」ことを前提としているのだ。
ここで言うクラウドサービスとは、クラウドストレージ、いわゆるOfficeツール(ワープロ、表計算、プレゼンテーションなど)、電子メール、コラボレーションツール(チャットや電話会議など)が1つのサービスとして提供されるもの。データはクラウドストレージ上に置いておいて、Webブラウザ上で編集するような使い方が想定されている。
文部科学省が進めているGIGAスクール構想の概要。
出典:文部科学省
このクラウドサービスは、例えばWindowsであればMicrosoft 365(※1)、ChromebookであればG Suiteといった「サブスクリプション型の教育向けサービス」(※2)がマイクロソフトやグーグルから提供され、デバイスと組み合わせて利用する。このほか、アップルはiCloudというクラウドサービスを提供しているが、ビジネスや教育向けでは前者2つに大きく水をあけられている状況だ。
このクラウドサービスのポイントは、基本的にはウェブブラウザーで利用できるために「デバイスに依存しない」ことだ。例えばMicrosoft 365 EducationをChromebookやiPadで利用することはもちろん可能だし、その逆にG Suite for EducationをWindowsデバイスやiPadで使うことも、理論的にはもちろん可能だ。
このように「デバイスとクラウドは同陣営でなくても構わない」ことが、マイクロソフト vs.グーグルの争いを大きく加速させる要因になっている。
次項では、両陣営の事業幹部への取材から見えてきた、特徴と課題を洗い出す。
※1 従来のプランである「Office 365」から改称。教育向けには引き続きOffice 365も併存しているが、本記事では呼称をMicrosoft 365で統一
※2 Microsoft 365 Education、G Suite for Educationなど。月額など一定期間課金として(サブスクリプションとして提供)。
(以下、後編「生徒のデータは誰のもの? MSとグーグルが激突する「教育IT国取り合戦」の実情【浮上する課題編】」に続く)
(文・笠原一輝)