ビットコインが500万円前後を推移し、盛り上がりを見せる仮想通貨(暗号資産)市場。
直近のブームはなんと言っても「NFT(※)」だが、2018年からこの領域に取り組んできたのがLINEだ。
LINEはなぜ、これほどまでに仮想通貨に力を入れてきたのか? LINEの仮想通貨関連・ブロックチェーン事業を統括する子会社・LVC社の執行役員、米山裕介氏とブロックチェーン事業企画マネージャー、田中遼氏に聞いた。
圧倒的な規模の「NFTトレカ」配布
NFT(※)に関するニュースが、連日メディアを賑わせている。
NFT:Non-Fungible Token(非代替性トークン)。ブロックチェーン技術を使ったデジタル資産の一種。画像や音声など特定のデータを、唯一無二のものとして証明できる。
楽天は8月30日、2022年春に「Rakuten NFT」の提供を開始すると発表した。すかさずGMOも8月31日、NFTマーケットプレイス「Adam byGMO」β版をサービス開始。同サービスでは、漫画家の東村アキコさんの作品の販売も予定されている。仮想通貨取引所大手「コインチェック」「bitFlyer」もそれぞれ、NFT市場への参入を図る。
大手ネット企業も次々とNFT事業へ参入する中、LINEは6月、満を辞してNFTを売買できるサービス「NFTマーケットβ」をスタート。
8月末から9月にかけては、クイズに答えると先着20万人にLINEの公式キャラクター「BROWN & FRIENDS」のNFTトレーディングカードがもらえるキャンペーンも実施。このNFTトレカは今冬以降、ヤフオク!での売買ができるとも発表されている。
まだ実証実験段階であり、実際に配布されたトレカの枚数は非公開だが「ユーザーが能動的にNFTを受け取った事例としては圧倒的な規模かと思う」(広報担当者)という。
必要なコマがやっと集まった
大手も続々と参入し、バブルの様相を呈しているNFT市場。しかし「(他の事業者とは)始めた時点から(最終的な目的が)違う」と語るのは、LVC社の執行役員、米山氏だ。
その目的こそが、LINEが2018年から掲げている「LINEトークンエコノミー構想(※)」だ。
LINEトークンエコノミー構想:LINEが独自に発行する仮想通貨「LINK(リンク)」を中心とした経済圏。ユーザーがLINEのサービスを使うことでトークン(LINK)を受け取り、そのサービスが成長することでトークン(LINK)自体の価値も上がり、ユーザーがさらにサービスに貢献する、という仕組みを指す。(参照:「LINEが目指すトークンエコノミーの姿」より)
その実現に向けて、LINEはこの数年の間、ひとつひとつコマを集めていった。
仮想通貨販売所「LINE BITMAX」の開設に、LINE独自の仮想通貨「LINK(リンク)」の発行。そしてアプリ(dApps、分散型アプリケーション)開発者向けのLINE独自のブロックチェーンプラットフォームの構築、さらにはブロックチェーン上のデジタル資産管理ウォレット「LINE BITMAX Wallet」の開設 —— 。
「必要な部品がやっと集まった」。米山氏はそう胸を張る。
「LINE BITMAX」とはなんなのか
一方で、LINEが構築するブロックチェーン事業の全貌はまだ判然としない。その大きな理由として、複数あるサービスの仕組みがとっつきづらい点が挙げられる。
米山氏はそれぞれのサービスの関係を、こう説明する。
「LINEという基盤となるサービスがあり、その一部に(デジタル資産を管理する)『BITMAX Wallet』がある。さらにその『BITMAX Wallet』の中から、本人確認が済んだユーザーが、金融サービス(仮想通貨販売所)である『BITMAX』も利用する。こういったピラミッド構造というか、階段構造のようになっている」
ではどのようにその仕組みは成り立っているのか。図解で説明してみよう。
LINE Blockchainを基盤として開発されたあるRPGゲームをプレイし「伝説の剣」を手に入れたとする。なお、LINE Blockchain上で動くアプリは普通のアプリと同じように、スマホにダウンロードして遊ぶことができる。
異なるのは、アプリ内で登場するアイテムやキャラクターなどがブロックチェーン上に記載された唯一無二のデジタル資産「NFT」であり、それを保管する場所がLINEアカウントと紐づく「LINE BITMAX Wallet」である点だ。
この剣は、LINEの友だちリストから簡単に友人に送ることもできる。ここまでは、通常のゲームでもできるようなやりとりだ。本人認証も必要ない。
次に、入手した「伝説の剣」を2次流通市場で出品したいと思ったとする。ここから「伝説の剣」がNFTである特性が活きてくる。
この「伝説の剣」は、LINEがBITMAX Wallet上で提供している「NFTマーケットβ」に出品できる(現在はβ版のため、LINEが指定する3つのアイテムのみ出品可能)。この出品・購入にあたって、仮想通貨販売所「LINE BITMAX」での本人確認が必要となる。
取引通貨はLINEが開発した独自の仮想通貨「LINK」だ。この剣を、5リンクで出品し、売れたとする。そうすると、仮想通貨販売所「LINE BITMAX」の口座に5リンクが入ってくる。
この5リンクは、同じ「LINE BITMAX」の口座から、他の仮想通貨であるビットコインやイーサリアム、あるいは日本円などと交換できる。
つまり、ゲームで遊んでアイテムをもらうだけなら、必要なのはLINEアカウントのみ。他の仮想通貨サービスで求められるような本人認証はいらない。出品・購入にあたって、つまり二次流通・転売する段階になって初めて、仮想通貨販売所「LINE BITMAX」での本人確認が必要になる仕組みだ。
「普通のお店でも、同じだと思うんです。トレーディングカードゲームを買うとき、いちいち転売に備えて、本人確認書類をお店に提示したりしないじゃないですか。たまたま場合によって、なんとカードに付加価値がある、そうなって初めて転売するために本人確認をする。それと全く同じだと思います」(米山氏)
8900万人が使う「LINK通貨」
現在、LINE Blockchainを基盤として作られているサービスは8つ。ゲームからSNS、電子契約サービスなどその形態もさまざまだ。
例として、先述の「伝説の剣」を売って得た5リンクで、新しい武器を買ったり、キャラクターの見た目を改造したりもできる。ゲームをプレイしてキャラクターのレベルが上がると、そのキャラクターが今度は10リンクで売れたりもする。
その10リンクを使ってユーザーは次のゲームをプレイしたり、あるいは別のSNSアプリでリンクを使ってアーティストを応援したり、ということも考えられる。
こうして生まれたリンクの収益はアプリの運営会社の資金にもなる——。こんな未来こそが、LINEが描く「トークンエコノミー」の形だ。
「LINEというアプリの中で全てが完結する。基本的に日本のお客様であれば、ほぼLINEのユーザーであるという大前提がおける。これは、何物にも代えがたい強み」(米山氏)
この「LINEトークンエコノミー」構想の中心となるのが、先述したリンク通貨だ。
LINEは国内の大手ネット事業者としては唯一、自社で仮想通貨を発行している企業でもある。LINKはBITMAXで取り引きできるほか、いくつかの海外の仮想通貨取引所でも売買できる。
LINK通貨を活用することで「ユーザーとゲーム運営会社と(LINEが)一緒になって一国の経済のようなものを回していく」イメージができる、と米山氏は語る。
なお、LINE Blockchainを基盤とするサービスは8つだが、現状でも多くの会社との提携が進んでおり「人手が回らず、お待たせしてしまっている状態」(米山氏)だともいう。
時期は未発表だが、大手ゲーム会社スクウェア・エニックスが手がける「ミリオンアーサー」のNFTデジタルシール売買ができるサービス「資産性ミリオンアーサー」の公開も予定されている。
LINEのサービスすベてとコラボ
着実に歩を進めている「LINEトークンエコノミー」構想。米山氏は、今後はリンク通貨が「LINEが抱えるサービス、すべてとコラボレーションする存在になることも十分考えられる」という。
現状でも、対象のPayPay加盟店に置いて「LINE Pay」で支払ったユーザー向けに、リンクに交換できるポイント(LINKリワード)をプレゼントするキャンペーンを実施している。そうした取り組みから、今後はリンクを運用して増やすようなサービスの構想まで「徐々に選択肢を増やしていきたい」(田中氏)という。
「今までも『●●ドラッグストアポイント』のようなものはあったが、ポイント自体を売ったり、他のゲームで使ったりはできなかった。こうした自由度がすごく高いのが、トークンエコノミーのすごさ」(米山氏)
LINEは2021年3月、ヤフーやPayPayなどを抱えるZホールディングスと経営統合した。
先述の通り、ヤフーが運営するフリマ「ヤフオク!」は2021年冬からNFTの取引を開始することが発表されている。また、Zホールディングス傘下のベンチャーキャピタル「Z Venture Capital」は8月、ブロックチェーンゲーム大手の「double jump.tokyo」への出資を発表した。
日本最大のインターネット企業が仕掛ける、ブロックチェーンを基盤とした「新しい経済圏」構想。その実現を私たちの手の上で目撃できる日は、そう遠くないのかもしれない。
(文・西山里緒、写真・今村拓馬)