3月8日は国際女性デー。欧州では、男性の友人から「国際女性デーおめでとう」と当然のように声をかけられることもある。昨年、イギリス人男性などから私もメッセージをもらった。
日本ではあまり知られていないが、国際女性デーは1977年に国連総会で制定された歴史ある記念日。女性の権利、政治、経済分野への参加を推進していくための日でもある。
そんな記念日にこそ考えたいのが、日本におけるジェンダーギャップだ。
世界経済フォーラム(WEF)によって発表された2023年の「ジェンダーギャップ報告書」によると、日本は146カ国中125位という悲しい結果になっている。私が留学中のベルギーはこのランキングでは10位という好成績だ。
さらにOCED(経済協力開発機構)のデータによると、加盟国38カ国のうち、2022年の男女賃金格差が最も少ないのがベルギーで、わずか1.2%。ちなみに日本は21.3%だった。
実際に私が「男女平等の先進国・ベルギー」で留学生活をするなかで、現地の人々との考え方の違いを目の当たりにし、私自身の考え方にも大きな変化があったので紹介したい。
パートナーの年収や勤務先は誰も気にしない
日本で結婚相手やパートナーの話になると、職種や勤務先が話題になることが多い。
特に女性同士の会話、いわゆる「女子会」では、パートナーの給料は無視することのできない要因だった。
自分の20代を振り返っても「自分より高い収入、最低でも同じがいいよね」と話していたのを思い出す。
実際、婚活サービス大手・IBJが発表した「婚活者に聞く『理想の世帯年収』」によると男女で300万円の差があった。理想の年収を気にしない男性は19.5%であるのに対して、女性は1.9%しかいない。
パートナーの年収を気にしていた私の周囲の女性の友人は、医師や大手商社、外資コンサルティング企業に勤めていた。
決して給料が平均的な額より低いわけではないのに「同等かそれ以上の収入」を相手に求めていたし、私自身も何の迷いもなく「そうだよね」と同調していた。
しかし、今の私ならばそんなことは気にならなくなった。そう考えるようになったのは、ベルギーの女性たちの影響が大きい。
「多く持っているほうが出せばいい」
以前の私の記事「世界のエリート集結の会議、あいさつで『肩書き』は無意味。質問されるのは…?」でも指摘したが、欧州では初対面の相手に職種や勤務先を聞くことは少ない。
「女子会」のようにオープンな場であっても、パートナーの勤務先が話題になることはない。
ベルギーでは女性のほうが、収入が多いであろうカップルも珍しくない。パートナーよりも稼いでいる彼女たちであっても、その給料はベルギーの平均収入より低い場合すらある。それでも「家族なんだから、多く持っているほうが出せばいいじゃない」という感じだ。
ちなみに、この場合の「家族」とは婚姻関係だけを指すわけではなく、Cohabitationという同居制度など、多様なあり方が含まれる。
日本で女性のほうが高収入のカップルをあまり目にすることがなかっただけに、最初は私も驚いた。だが、これも「ジェンダーギャップが少ない国の女性の考え方なのかもしれない」と思うと、とても素敵だと感じる。
「日本ではモテないね」と笑うベルギー人男性
男性側も、収入が低かったとしても気にする素振りはない。
音楽、スポーツ、アートなど自分の得意や好きをもとに、人生を楽しんでいる。また、収入を増やすために仕事終わりや休日に「勉強」や「副業」に勤しんでいないのもユニークなところだ。
ある公務員の30代のベルギー人男性は、大学を「合わなかった」という理由でドロップアウトしたので、最終学歴は高卒だ。
OECDの2022年度のデータによるとベルギー人の平均年収は6万4848ドル(約972万円、1ドル=150円で計算)だが、その男性は年収3万ユーロ(約486万円、1ユーロ=162円で計算)で平均よりは低い。しかし、基本は週4日の10時間勤務。月の半分は週3日勤務ということを考えると、コスパは決して悪くないだろう。
さらに、職場で時間があるときはギターの練習をしているという自由っぷりだ。休日は友人と出かけたり、オンラインゲームをひたすらしていたりすることも多い。
あるとき「収入を増やそうと思わないの?」と聞いてみた。すると「増えたらもちろん嬉しいけど、それより自分の時間を自由に使いたい」と返された。
日本では、デートの現場で男性が支払うことが多いことや、日本の恋愛市場において収入が重要であることを話すと、「僕は日本でモテないね」と笑われてしまった。
別の30代の別の男性は、昨年、勤務先のスーパーの閉店にともない職がなくなった。子ども二人いて、家は賃貸だ。
彼は新たな職を探すまでの間、ネイリストのパートナーの収入で生活していた。しかし、彼らの仲は極めていい。毎月のように記念日やツーショットが、女性から男性への愛の言葉とともに綴(つづ)られ、SNSにアップされている。
文字にしてみると些細なエピソードではある。しかし、日本だと「かなり珍しいケース」だと見られるだろう。
男女の賃金格差、世界ワースト4位の日本
冒頭でも紹介したが、OECDによる2022年の「男女の賃金格差」をみてみると、日本は下から4番目の21.3%だった。最も格差が大きいワースト1位は韓国、次がイスラエル、次がラトビア、そして日本と続く。
OECD平均は、12.1%だったことを考えると、日本は平均よりも2倍近い賃金格差があるのが現状だ。賃金格差の大きいことで、日本では女性がパートナーのことを考えるとき、どうしても賃金を気にしてしまう心理につながっているのかもしれない。
また家事への男性の参加率も指摘しておきたい。
ニューズウィーク日本版の記事(2022年10月18日)で教育社会学者の舞田敏彦氏は、「(日本は)OECD加盟国の中で、男性のワークライフバランス、家庭内での家事分担が最も進んでいない国である」と指摘していたが、ベルギーでは男性も掃除や料理を当たり前にする(ちなみに食洗機などの家電を駆使する家庭も多い)。
友人のベルギー人男性は、ベルギーの伝統的な料理からクレープやティラミスまで、レシピ本を見ながら色々作ってみんなにふるまってくれるが、料理をふるまわれる側も「男性なのにすごい!」などと言う人はいない。
「家事は女性がやるもの」という認識を持った男性がいたら、間違いなくベルギー人女性は激怒するだろうし、そもそも相手にされないだろう。
「当たり前」を疑う
私は幸いなことに、日本で働いていたときに、賃金のギャップやジェンダーギャップで苦しんだ経験はしていない。それは言うまでもなく、働く女性の権利を勝ち取ってきた先人たちの努力に他ならない。
そんな私であっても、実際にベルギー人女性の考え方や「当たり前」に触れるとき、日本で感じていた「当たり前」と大きな差があることに驚く。
自分でも気付かないうちに「日本のなかの常識」に慣れてしまった結果、例えば「女性だから数字が苦手」「男性より収入は低いもの」など、自分自身に暗示をかけていたのかもしれないと気付く。
ベルギーでは数学や経済の博士課程の女性に数多く出会ったし、異性や他人の目を気にすることなく、好きなファッションや主張をする女性を見るなかで、私自身「もっと自由でいい」「自分の可能性を低く見積もる必要などないのだ」と改めて感じる。
一朝一夕にこうした文化や、男女格差を表す数字は変わることはないだろう。
日本の社会や環境にモヤモヤしている人がいれば、外に出て「自分の中の常識」を疑うきっかけに出会うことをおすすめしたい。