グーグル(正確にはその親会社のアルファベット)は2023年1月、約1万2000人をレイオフする長期計画を発表しました。これは、全従業員の6%に相当する数です。
グーグルの幹部が「従業員は我が社のもっとも大切な財産です」というようなことを言っているのを聞いたら、そのあまりの言行不一致ぶりに目を剥いても無理ないでしょう。
しかし、同社が従業員をもっとも大切な財産と考えていることは確かなのです。
グーグルが行なった「最高のチームをつくる」調査
グーグルの人事部門は長年にわたり、従業員の職場での生活に関してありとあらゆる側面を分析し、生産性やイノベーション、エンゲージメントの向上に取り組んでいます。
その一例が今回紹介する「最高のチームをつくる方法」の分析です。
グーグルも大半の企業と同様に、賢く、創造性が高く、努力をいとわない人たちを雇っています。それでも、会社で成果をあげる人がいる一方で、なかなか成果を出せない人も存在します。
賢く、創造性が高く、努力をいとわない人が、従業員として成果を出せないのはなぜなのでしょうか? これはいい質問です。
そこでグーグルはまず、パターンを探すことにしました。
興味関心が似通っているメンバーで構成されるチーム。オフタイムにも集まる機会を設けているチーム。同じ背景、あるいは異なる背景を持つチーム。内向的な人だけ、外交的な人だけ、あるいは両方のタイプの人がいるチーム。結成からかなりの年月が経っているチーム。そして比較的最近結成されたチーム、といった具合です。
グーグルは、社内のあらゆる部署を対象として、合計で180チームを評価しました。その結果、チームを構成する「メンバー」は問題ではないことが分かりました。
性格や背景、ジェンダー、やる気の源、経験などについて、「正解」の組み合わせは存在しなかったのです。
メンバーよりも協力の仕方がカギ
この調査で分かったのは、重要なのはチーム全体がどう機能しているかであって、それに比べると、チームを構成するメンバー自体は重要度が低い、ということでした。
グーグルの説明によれば、チームは「特定のプロジェクトのために仕事を計画し、問題を解決し、決断を下し、進捗をチェックする」ために、お互いに頼りあう部分が大きく、それゆえに「タスクを完遂するためにお互いを必要として」います。
そのため、チーム内の力学のほうが、個々のメンバーのスキルセットやものの見方、性格、背景よりもずっと重要になるというのです。
リサーチチームは、真に重要なのは「誰がチームのメンバーであるか」よりも、「チームがどのように協力しているか」であることを突き止めました。
ここが肝心なポイントです。「完璧な」従業員を見極めて雇える能力やリソースを持つ企業はほとんど存在しません。この傾向は、特に小規模な企業の場合に顕著です。
たとえベストなチームであっても、チームを構成するそれぞれのメンバーは完璧ではありません。
私たちがチームとして機能するあり方、すなわちチームの「規範(norms)」は、グーグルが発見し、公開した、もっとも力を発揮するチームの規範とぴたりと一致します。
以下では、この規範の具体的な要素を、重要度の高い順に解説していきましょう。
1. 心理的安全性
心理的安全性(psychological safety)とは、対人関係上のリスクをとった時の結果に関する認識です。
より分かりやすく説明するなら、実際にリスクを伴う行動をとった場合であっても、「無知」「能力がない」「和を乱した」といったレッテルを貼られるのでは、という恐れを抱くことがない状態ということです。
心理的安全性が高いチームでは、メンバーはチーム内でリスクをとることに安心感を抱いています。
自分がミスを認めたり、質問をしたり、新しいアイデアを出したりした時に、それを「恥ずかしいことだ」となじったり、罰したりする人はこのチーム内にはいない、という確信が得られているのです。
2. 相互信頼
メンバー相互の信頼度が高いチームでは、それぞれの人が確実に、締め切りまでに質の高い仕事をやり遂げてくれます。そして、誰もが自分の仕事に真剣に取り組んでいます。
単純な話ですが、逆にチーム内の誰か1人でも、仕事をきちんと「やらない」人がいたら、チーム全体にどれだけ大きな影響があるか、考えてみてください。
3. 構造と明確さ
明確な目標。明確な計画。明確なターゲット。何をするのか、なぜやっているのか、どうやって目標にたどりつくのか。
こうした問題意識について、短期的・長期的な目標を設定し、伝達するためにグーグルがよく用いるのが「目標と成果指標(Objectives and Key Results:OKR)」という手法です。
4. 仕事の意味
仕事そのもの、あるいはその成果物に目的意識を持つことは、チームの効率性にとって重要です。
「仕事の意味は属人的なものです。経済的な安定を得る、家族を支える、チームの成功を助ける、自己表現するなど、人によってさまざまです」と、グーグルのレポートには書かれています。
5. インパクト
確かに主観的な問題ではありますが、それでも「自分がやったことが何らかの変化を起こしている」と実感できることは重要です。
変化を及ぼす対象は、内部顧客、社外の顧客、チーム自体など、さまざまでしょう。
「自分の役割に意味がある」という実感は大切です。実感していれば、自分個人の仕事の充実感が増すだけでなく、自分がチームの一員だという自覚も高まるからです。
逆に最高のチームにいらない要素とは?
これら5つの要素は、どれも納得がいくものです。
心理的安全性、相互信頼、明確さ、目的意識、自分の仕事に意味があるという認識……これらすべてが、最高のチームに必要な構成要素であることは明らかでしょう。
では逆に、「意味がない」要素とはどんなものでしょうか?
グーグルのリサーチチームは、社内チームの効率性にそれほど大きな関連がない要素についても、特定しています。具体的には、以下のようなものです。
- 同じオフィス内で机を並べて働くこと(これは、リモートワーカーが、オフィスで働く人を上回る成果を出していることを示す、さらなる証拠にもなりそうです)
- 合意に基づく意思決定
- メンバーの外向的な性格
- メンバー個人の実績
- メンバーの役職や在職期間
- 期待、あるいは必要とされる仕事量
- チームの大きさ
最後の項目は、特に興味深いものです。ジェフ・ベゾス氏が提唱してすっかり有名になった「2枚のピザ理論」(1つのチームの人数は、2枚のピザで賄える人数に抑えるべきだという考え方)もありますが、グーグルの調査では、チームの大きさとその効率性の間に相関関係は見つかりませんでした。
さらに、長いあいだ効率性の高いチームの特徴と考えられてきた「合意に基づく意思決定」も、効率性とは関係がないのというのです。
けれどもこれも、心理的安全性の観点から考えれば、納得がいきます。
チームメンバーが自分の意見を聞いてくれ、(たとえ同意ができない場合でも)敬意を表してくれるという実感があれば、個々のアイデアや観点について意見が一致する必要はありません。
安心して質問をしたり、異を唱えたり、時に議論を活性化させるためにわざと反対意見を言ったりできる雰囲気がチーム内にあれば、チームの決定に全面的に賛成できなくても、それを支持することはできるはずです。
これこそ、心理的安全性がとても重要な理由です。
自分の価値を評価され、敬意を払われていると感じていれば、チームの一員であるという帰属意識が高まります。「自分は、このチームのかけがえのない一部だ」と自覚します。そうなれば、チーム全体、そして個人の仕事の意味が増します。
自分という一個人の枠を超えた、より大きな集団に属しているという実感—— これは、誰もが持ちたいと願うものでしょう。
そして、特にチームを組んで働いている時には、誰もがこうした実感を持って仕事をしたいと思うはずです。
LIFEHACKERより一部編集・転載(2024年7月8日の記事)