中国のスタートアップ企業が5年で98%減「もう会社設立する意味なくなった」と起業家ら

shutterstock_1404202370

アリババのジャック・マー氏

shutterstock

このところの中国経済の衰退ぶりは、スタートアップ企業の数だけをみても如実に示されている。

過去5年で新興企業がほぼ消滅した。その理由について英紙フィナンシャル・タイムズは、「習近平指導部による政治的、経済的圧力によりベンチャーキャピタル(VC)の資金が枯渇し、新規企業設立が劇的に減少した」と伝えた。

フィナンシャル・タイムズ紙はこのほど、「中国はいかにして民間部門を“締め付け”てきたか」という見出しで、長文の記事を掲載。中国の情報提供会社「IT桔子」による驚愕のデータを紹介した。それによると、ベンチャーキャピタルへの投資がピークだった2018年には中国国内で5万1302社の新興企業が設立されたが、2023年までにその数は98%減の1202社にまで落ち込み、今年はさらに減少する見込みだという。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのケユ・ジン准教授は同紙に、「スタートアップの分野は中国で起業家精神を刺激する上で極めて重要だった」とし、その上で、「世界投資の流出と中国企業の評価額​​の大幅な下落は、国のイノベーション推進に悪影響を及ぼしている」と警告した。

shutterstock_2422511615

低迷する中国経済

shutterstock

この分野の危機は、習近平体制の「ゼロ・コロナ」政策により長引いた新型コロナウイルスよるロックダウンや、不動産バブルの崩壊、株式市場の停滞に見舞われた中国経済の減速を反映している部分もあるが、米国との緊張が高まる中で西側投資家の大部分が撤退したことも大きく影響した。

だが、これは習近平国家主席による政治判断の結果でもあると同紙は分析。中国共産党に独占的とみなされたり、党の価値観にそぐわないとみなされる新興企業などへの取り締まりや、経済界を巻き込んだ腐敗一掃運動の広がりなどは民間企業の環境を劇的に変えてきた。

2022年発行の暴露本『私が陥った中国バブルの罠 レッド・ルーレット: 中国の富・権力・腐敗・報復の内幕』の著者で中国の元不動産王デズモンド・シャム(沈棟)氏は、共産党が「民間部門を締め付けてきた」と訴える。

「成功した起業家は厳しく監視され、海外に資金を移すことができず、取引や発言が精査される」と指摘。つまるところ、当局の「彼らが稼いだカネは国のカネ」との態度が起業家の意欲を削いだと強調する。

香港出身で現在は英国在住のシャム氏が記した同著は世界的に注目を集めた。中国で富を極めたシャム氏は2017年、元妻で共同経営者が中国で突然、同僚3人と共に姿を消し、当局に監禁されたことを知る。その消息は現在も不明で、一代で財を築いた起業家たちを待ち受けるのは当局による〝粛清〟だと、実例をもとに暴露した。

shutterstock_2460778215

中国・深圳のテンセント本社

shutterstock

例えば、アリババのジャック・マー(馬雲)氏やテンセントのポニー・マー(馬化騰)氏のような中国を代表する起業家たちもその例外ではない。両マー氏が創業したそれぞれの企業の価値は、2020年第4四半期までに合わせて1.5兆ドル(約216兆円)にも達した。 ところが、2020年11月に状況は一変した。中国政府はアリババから分離した金融関連会社アントグループのIPOを、株式の取引開始予定日のわずか2日前に異例の中止を発表。

ジャック・マー氏は当局に「監督面接」と呼ばれる取り締まりを受け、ハイテク分野へのより広範な取り締まりが開始され、いわゆる「中国リスク」が浮き彫りになった。

当局による「富裕層締め付け」を避けるため、ポニー・マー氏は習体制への恭順を示し、数千億円単位の巨額の寄付や慈善事業に協力をしてきた。それは自身の身を守るためでもあるとされる。 フィナンシャル・タイムズ紙によると、2020年以降、起業家たちを活気づけた楽観主義は体系的に侵食されてきた。

「もはや会社を設立する意味などなくなった」と上海のある起業家は憤り、「なぜリスクを負わなければならないのか。すでにこの5年、スタートアップは失敗してしまった」と付け加えた。

あわせて読みたい

Popular