
- 日本の名古屋でコンテンツクリエイター兼英語教師として働くラジュアン氏はとても狭い部屋で暮らしている。
- 18平方メートルのその部屋の家賃は月3万2420円、およそ230ドル。
- ラジュアン氏は、ミニマルな生活を通じて生産性が向上し、経済的自立を達成するのに役立っているという。
現在32歳のラジュアン氏は、日本の名古屋の小さなアパートに入居する前は、いろいろと心配していた。
コンテンツクリエイターで、パートタイムで英語も教えている彼は、それほど狭い家に住んだ経験がなかったため、どんな生活が待っているのか予想ができなかった。
靴箱のようなアパートは18平方メートルしかなく、リビングルーム兼寝室となる空間とキッチンとトイレのあいだが、間仕切りで区切られている。キッチンでは、両腕を広げれば両サイドの壁に同時に触れることもできる。

慣れるまで時間がかかったが、ミニマルな暮らしをすることが目的だったため、諦める気にはならなかった。
「そこを初めて見たとき、シンプルで意識の高い生活を求めている人にとってはとてもよくできている部屋だと気づいた」と、プライバシー保護のためにファーストネームのみの記載を希望したラジュアン氏はBusiness Insiderに語った。
日本へ
トリニダード・トバゴ出身のラジュアン氏は、大学卒業後の2016年に教員交換プログラムを通じて初めて日本へやってきた。
「当時、私は大使になることを生涯の目標としていた。大学では国際関係を学び、この交換プログラムは私の履歴書にとって大きな利点となると考えた」

しかし、日本語があまり話せなかったことも影響して、新しい土地での暮らしに慣れるのは大変だった。
「落ち着いてじっくり考えるうちに、本当は大使になることを望んでいないと気づいた。何かを追い求めたいという理由だけで、何かを追い求めていた」と彼は言う。
3年を日本で暮らしたのち、トリニダード・トバゴへ戻った。祖母ががんを患ったため、家族と暮らしたいと願ったからだ。
この時期はコロナ・パンデミックが重なり、祖母はロックダウンが始まったころに他界した。

「同じころ、友人のみんなに子供が生まれた。本当に奇妙な時期だった」とラジュアン氏は語る。「そうしたことが起こっているなか、自分はどんな人生を送りたいのかと、また考えるようになっていた」
そして、以前から興味があった映像編集の道に進むことを決めた。
「そのうち、どこにいてもクライアントが見つかるようになった」。そこで、もう一度日本へ戻ろうと決心したのである。
極小のアパートを家にする
ラジュアン氏の極小アパートの家賃は3万2420円、およそ230ドルだ。最寄りのコンビニまでは歩いて3分、地下鉄の駅までは5分でたどり着ける。
以前住んでいた富士市とは異なり、今の場所は日本人だけでなく外国人も多く暮らしている。
「初めに住んでいた富士市は田舎で、ドレッドヘアの私はとても目立っていた」と彼は言う。「それに対して、今住んでいるここでは、すぐ隣は日本人女性だが、その隣はインド人の夫婦だ」

にぎやかな東京や京都とは違って、その中間に位置する名古屋は少しのんびりしているそうだ。
東京は日本で最も人口が多い。およそ970万人が暮らしている一方で、名古屋市は233万人、京都市は146万人だ。
「東京は本当に狭く感じて、人の多さに圧倒されるが、名古屋は都会の生活と個人のスペースという意味で絶妙なバランスにあると感じる」と彼は付け加えた。
また、彼にとってはゆったりとした、意識的な生活を送るのにも最適な場所だった。
改善の手段としてのシンプルさ
日本にやってきったとき、最初に住んだ場所はトリニダード・トバゴで暮らしていた家よりもさらにミニマルだった。

トリニダード・トバゴでは、今よりもはるかに広い家に住んでいたが、個人的にはカップと皿をそれぞれふたつずつしか所有していなかった。客が来るたびに、その理由を尋ねられたそうだ。
「自分はひとりしかいないので……必要なものをふたつずつ。本当にそんな風に考えていた」とラジュアン氏は言う。
だが、そのような考え方をライフスタイルとして意識するようになったのは、トリニダード・トバゴに帰国していたころに友人に紹介されて、Netflixで『ミニマリズム(Minimalism)』というドキュメンタリーを観てからだった。
「そのようなムーブメントが存在することは知らなかったが、観たあとには共感を覚えた」とラジュアン氏は説明する。「どんな人生にしたいかと考え、純粋な意図だけにもとづいて生きていこうと思った」
そのライフスタイルには質素に生きることも含まれる。そうすることで経済的自立を手に入れるのである。そして、その手段のひとつが極小のアパートなのだ。
「私は経済的自立を目指している。これは、平穏を求めているということだ。金銭面で重荷を背負いたくない」としたうえで、同氏はこう続けた。「望めばもっと広い部屋に住むこともできたが、ここなら収入の25%以下で暮らすことができる」

言い換えれば、パートタイムの英語教師職がなくなった場合などに必要となる生活防衛資金を確実に維持できる、ということだ。
「私にとって多くの価値をもたらすものにはしっかりとお金をかけ、私にとって価値をもたらさないものにはお金を使いたくない」と彼は言った。「今のところ、仕事、友人、そして家族が何より重要。そういったことに尽くすのに、多くのお金は必要ない」
ミニマルな生活のおかげで、自分が人生から何を求めているのかがはっきりとわかっただけでなく、生産性も向上した。気が散る要素が少ないからだ。
「以前仕事をしていた場所に比べて、ここでは驚くほど生産性が高まった」とラジュアン氏は言う。「先延ばしにするとしても5分程度。それだけだ。ベッドから起きれば、コンピューターが私を見つめている」
人生に満足
ラジュアン氏と同じように、住宅選びという点も含めて生活をシンプルにしようとする人々は増えていて、大きなムーブメントになっている。
都市部における生活費の高騰により、全世界で家を所有することがますます難しくなりつつある。ミニマルな生活とは、借金なしで暮らすために小さな家で暮らすことだと考える人も少なくない。都市部を離れて小さな家に移り住む人も多い。

ラジュアン氏は支出にも気を配っている。家賃、光熱費、娯楽費などを含めた月々の支出は17万円、およそ1100ドルだ。
彼にとって、以前の出費に比べれば、大きな変化だ。
「私のやったことは、私にとってはポジティブに作用した。今ではあらゆることを意図的に行なうようになった。たとえば、旅行がしたいときも、長い時間をかけて貯金する」
ミニマルな暮らしを受け入れて得られた最大の利点は、物事の見方が変わったことだ。
「意図的な暮らしを送ることで、生活は明らかに改善する。何かを逃していると感じる不安がなくなるからだ」とラジュアン氏は言った。
そしてこう付け加えた。「私が今住んでいる場所には、高級車もたくさん走っていて、頻繁に目に入る。すてきな家もたくさんある。それなのに『それに比べて自分の生活は』などと考えたことは一度もない。むしろ、『彼らがそうしたものを手に入れられてよかった。私も今の生活ができてよかった』といった感じだ」