子どもを対象にした性暴力は、何度も繰り返されることが多いのが特徴だ。
1人の子どもに執着して何度も加害する人もいれば、1000人を超える子どもに加害行為をしたと話す人もいるという。「やめたくてもやめられない」というのが彼らの言い分だ。
なぜ、加害行為をやめられないというのだろうのか。子どもに性加害を繰り返す人たちに聞き取りをした、大森榎本クリニック精神保健福祉部長(精神保健福祉士・社会福祉士)の斉藤章佳さんに話を聞いた。
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「やらない自信がない」
先生、僕はずっと刑務所に入っていたほうがいいと思うんです。ここには子どもがいません。だから子どものことを考える時間もほとんどありません。
でも、外に戻れば子どもがいますよね? 僕は小さな女の子を見ると頭が真っ白になって気づけば後をつけてしまうんです、どうやったらこの子とふたりきりになれるだろう、どうやったら触れられるだろうって、無意識のうちに考えながら。
だから、ここから出たら絶対またやります。やらないという自信がまったくないんです。
これは、47歳の受刑者が、ある地方刑務所で面会した斉藤さんに語った内容だ。受刑者が「出所したらまた同じことをしてしまうのではないか」と不安を訴えてくるのは典型的な例だという。
斉藤さんは加害者臨床を専門とし、性犯罪を繰り返す人を対象にした再犯防止プログラムのディレクターをしている。問題行動や認知の歪みを自覚するための認知行動療法やグループセッション、薬物療法などを通して、再犯せずにやめ続けることで社会に適応していくことを目指すプログラムだ。
だが、再犯防止プログラムへの参加が定着しづらいのが、子どもに性加害を繰り返してきた人たちの特徴だ、と斉藤さんはいう。
「子どもへの性暴力は、衝動性と反復性において、ほかの性犯罪とは別格といえます」
「ある加害者は『子どもを見た瞬間に吸い込まれるように引き込まれてしまう』と表現しました。気づいたら加害行為に及んでいた、と」
「小児科」の看板など、道を歩いていて「小児」という文字を見ただけで反応してしまう加害者もいる。
「彼らにとって、子どもという"記号"はそれほど強烈なのです」
「子どもは生きがい」という加害者
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子どもは無垢で汚れていない存在だと神聖視し、自分好みに「開発する」欲求に駆られる。圧倒的な立場の差を利用して思うままにし、"飼育欲"や支配欲を満たす。守られるべき弱者に、最もしてはいけないことをしているという背徳感に浸るーー。
「子どもへの性加害は、ほかの何とも比べられないほど強烈な刺激」「子どもは生きがい」などと表現する加害者もいるという。
子どもと関わる仕事に
子どもへの強い執着は、子どもと身近に接する環境に身を置く動機になる。また、そうした環境が加害行為の引き金になってしまうこともある。
斉藤さんの近著『「小児性愛」という病』によると、小児性加害者117人に初診時の職業を聞いたところ、16%が「子どもに指導的な立場で関わる仕事(教員、塾講師、スポーツインストラクターなど)」についていたことがわかった。
初診時に逮捕後ですでに職を失っていた人は「無職(26%)」に分類されているため、子どもに関わる仕事を経験したことがある加害者は「厳密にいうと全体の約3割になる」という。
「職業を通して行動化するというのは、ほかの接触型の性犯罪にはあまり見られない、子どもへの性加害の特徴です」
「子どもと接点の多い職業を意図的に選び、加害行為をしやすい環境を自ら整えている人がいるのも事実です。つまり、自らの性嗜好を職業選択の基準にしているといえます」
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担任をしていた女子児童7人に学校内で性的暴行やわいせつ行為を繰り返したとして12月23日、千葉市立小学校の教員だった男(36)に、強制性交、強制わいせつ、児童買春・ポルノ禁止法違反の罪で懲役14年の判決が言い渡された。
文部科学省の調査によると、2017年度にわいせつ行為(強制性交や強制わいせつ、買春、痴漢など)で懲戒処分などを受けた教職員は210人(男性206人、女性4人)。そのうち97人が自校の児童・生徒を対象にしていた。
授業中、休み時間、放課後、部活動、学校行事など、学校内や学校活動内とみられる場面で加害したと認定された教職員は約3割いた。
失うものがあってもやめられない
加害行為をした人たちは、職場で懲戒免職、停職、減給などの処分を受けるほか、刑事告訴されることもある。仕事、家庭、友人を失い、信頼をなくし、経済的な損失も大きい。
それでもなお、出所して子どもの姿を見ると「吸い込まれる」のだという。加害行為をやめたいのにやめられないことに悩み、薄着の子どもたちが多く出歩く夏休みの時期には、子どもの姿を見ないようにするために引きこもる人もいるという。
「子どもを見ると、触りたい、性行為をしたい、といった衝動の制御ができなくなる自分が怖い。普通の大人はそうは見えないのに、自分はなぜ子どもを性の対象として見てしまうのか。そうやって自責の念にかられる者もいます」(斉藤さん)
依存症に近い強迫観念
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子どもへの性的嗜好を持続的にもつ人、子どもに性加害を繰り返す人は、国際的な診断基準で「小児性愛障害(DSM-5)」に該当する。
「触らなきゃ損だ」くらいの強い思いを抑えられない(強迫的)、心が衝き動かされるまま行動する(衝動的)、飽きることなく貪るように加害行為を繰り返す(貪欲的)など、性的嗜好行動(性依存症)としての側面もあると斉藤さんは分析している。
「被害者にとっては、加害者が病気だからといって受けたダメージが軽くなるわけではありません。加害者が病気を言い訳にして行為責任を放棄することのないような、アプローチや関わりが必要になってきます」
「ただ、病気は治療をすることによって、二度と行動化しないよう再犯防止スキルや性衝動のコントロール方法の習得につなげることになります。専門外来での診断は言い訳をさせるためではなく、治療教育によって行動変容を促すためなのです」
「自分のほうがマシ」と蔑まれる
榎本クリニックでは2018年、日本で初めて子どもへの性加害を繰り返す人に特化した再犯防止プログラムを始めた。2006年からもともとあった再犯防止プログラムから小児性加害者がドロップアウトすることが明らかに多かったからだ。
小児性加害者は、ほかの性加害者から「自分たちのほうがマシ」などと蔑まれがちで、グループセッションで過去の加害行為について話したり振り返ったりすることのハードルが高かった、と斉藤さんは指摘する。
「ペドフィリア(小児性愛障害)は自身の性嗜好を言語化して誰かと共有することができず、排除され孤立してきました。さらに性犯罪者のグループの中でも排除され、自身がしたことについて正直に語ることもできません」
「だからといって許されることではありませんが、こうした孤独感や劣等感、不全感やイライラ、自暴自棄などの心の動きが、性犯罪の内的なトリガー(引き金)となりえるのは事実です」
加害者を知るということ
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アメリカでは、ニュージャージー州で1994年、7歳の女の子が2度の逮捕歴のある男にレイプされて殺された事件を機に、性犯罪の前歴者の情報を公開する「メーガン法」が成立した。
日本でも大阪府が2012年、18歳未満の子どもに強制わいせつなどの罪を犯してから5年以内の元受刑者に、住所、生年月日、連絡先、罪名などを届けるよう義務付ける条例を全国で初めて施行。福岡県も2019年1月、同様の条例案を可決した。
それぞれ元受刑者に再犯防止プログラムの受講や治療を促す内容も盛り込んでいるが、毎日新聞によると、大阪府でカウンセリングなどの支援を受けた元受刑者は4割にとどまるという。
小学2年生の女の子が下校途中に殺害され、線路上に遺棄される事件があった新潟県では、県議会が2018年、性犯罪者にGPS端末を装着して監視するシステム導入の検討を国に求める意見書を、賛成多数で可決した。
性犯罪の前歴者を「監視」することについては、再犯防止の効果を含め、議論は道半ばではある。
加害行為が発覚していないケースもあることを考えると、子どもに性的嗜好をもち、強迫的かつ衝動的に加害行動に移す可能性がある人は、子どもの身近にも確実に存在している。
「受け入れがたいことかもしれませんが、受刑者もいつかは社会に戻ってきます。自らの性嗜好を自覚し、適切な治療や教育を受けて、加害行動をしない状態を保ちながら、社会の中で共存していかないといけないのです」
そのためには、加害者の行動特性を知ること、加害しやすい環境を知ること、加害行動の引き金になりうる可能性は何かを知ることが重要だ、と斉藤さん。
次回の記事では、加害行為を「これは純愛だ」「性教育だ」などと正当化する、小児性加害者の「認知の歪み」について取り上げます。