「なんだかインターネットがおかしい。最近のインターネットのムードに違和感がある。なんでこんなふうになっちゃったんだろう?」
「僕たちのインターネット史」(亜紀書房)は、こんな書き出しで始まっている。
1980年代のパソコン通信時代から、インターネットの黎明期、そしてSNS全盛となった現在まで、インターネットがどんな風に“語られてきたか”をひもとく本だ。
「なんだかインターネットがおかしい」。こう思ってる人は結構多いかもしれない。
著者は、黎明期からネットユーザーとしてその変遷を見つめてきたばるぼらさんとさやわかさん。共著で本を出すのは初めてだ。
2人と一緒に、その根源を考えた。
あの頃、インターネットはどう語られていたか
――「なんでこんなふうになっちゃったんだろう?」。冒頭の一文からパンチがあってドキドキしました。
ばるぼら:ありがとうございます(笑)。
最初からそんな好戦的な姿勢で作り始めたわけじゃなくて「自分たちが1冊かけて考えてきた過程をまとめるなら」と最後に書いたんですけどね。今のインターネットに違和感がある人は少なくないんじゃないかな、と。
さやわか:インターネットの歴史の本っていろいろありますが、どうしても著者視点の思い出話というか「それはあなたの感想でしょ?」ってなりがちじゃないですか。
それはそれで面白いんですけど、議論のベースになる「あの頃、インターネットはどう語られていたか」を改めてまとめておきたいと思ったんです。なので、インターネットの本なのに、書籍や雑誌など紙媒体の話ばかりしているちょっと変な内容になりました。
僕ら2人とも「今のインターネットが当たり前なんだ、これが当然」ていう人が嫌いなんですよ。ネットの世界はもともとそうだよ、という人に「いやいや、別にそうじゃない時もありましたけど?」「こう捉えられていたこともありましたけど?」と事実を突きつけたい。
だから、すごく嫌味な本なんです。とにかく実際に語られている内容を見せて「ほら、違うでしょ?」と言っていくという。
ばるぼら:そういう嫌らしい責任を分け合うために共著なんです(笑)。シェアの精神です。
さやわか:インターネットだからね。
――嫌味、というのは?
ばるぼら:今って、基本的には現状肯定から入る世の中じゃないですか。この本ではそんなことしません!「どうしてこうなっちゃったんだろう?」を延々と話しています。そんな簡単にはのっかんねーぞ、と。
さやわか:かといって「昔がよかった」と言いたいわけではなくて「現状が“当然”ではないよ」「もっと違う未来があったんじゃないか」を考えたいんですよね。
描いていた理想と変わってしまったとしたらどこがきっかけなんだろう、を知る素地になればと思っています。
「普通の人の普通」はもう飽きた
――インターネットの30年を振り返って、改めてカルチャーの潮目になった点はどこだと思いましたか?
ばるぼら:やっぱり、ブログじゃないですかね。
さやわか:うん、そうですよね。普通の人が普通のことを「今どこにいます」「何食べてます」くらいで簡単に発信できるようになった。
それまで情報をパブリッシュするためには、雑誌とかWebサイトとかある程度エネルギーを使って環境を作らなくてはならなかったのに、誰でもすぐにできるようになった。それはすごく大きいと思います。
――でも、裾野が広がったことで当然いいところもあるわけですよね? むしろインターネットの思想としては正しいような。
さやわか:エンジニア的な思想だと、インフラとして「誰でも無料で使える」ことはプラスですからね。ブログも最初はよかったんですよ、「普通の人の普通」が珍しかった時は。
でも、これだけあふれてくると……そろそろもういいかなと思ってきません? 端的に、現実ではなかなか出会わない変なものこそインターネットで見たいんですよね。
ばるぼら:ワタシはなんとかして変なものが見たいので、Facebookでノルウェー語とかチェコ語とかまったく読めない言語のニュースサイトをめちゃくちゃフォローしてます。それをひたすら翻訳で読む。
――な、涙ぐましい努力……。
ばるぼら:そう、今や変なものにたどり着くコストが高いんですよ。現実世界と同じルールで「よい」ものを見てもつまらないなって。
「人気があるもの」に興味がない
さやわか:多分ばるぼらさんもそうだと思うんですけど「人気があるもの」に興味がないんです。
TwitterもInstagramもそうですけど、トレンドワードとか注目のポストとか「今みんなが見てるもの」が目立つじゃないですか。
そうじゃなくて、人気がなくても“自分が”面白いものが知りたいんですよ。シェアが多いとかどうでもいいんですよ!
「みんなが見てるものを、みんな見たいだろう」っていうのがよくない。
ばるぼら:「面白い」の概念の前提が違うというか、人じゃなくてコンテンツに興味があるんですよね。みんなが同じものを見なくていいのがインターネットだったはずなのに……。
さやわか:本の中でばるぼらさんが「やっぱり従量課金ですよ!」って言っているんですが、僕はそれがすごく面白かったです。
「情報がタダという前提がおかしい、課金制にして発信するハードルを作ればきっとくだらないことを言わなくなる」っていう。
「タダだと思ってるからダメなんだ!」っていうのは、今の流れと逆行する新しい発想だと思いました。
――過激思想すぎません!?
ばるぼら:例えばLINEに1通10円かかれば、みんなすごく悩んで送るようになると思いますよ! そしたら僕らはいかに時間を有効に使えていたことか。
さやわか:コンテンツじゃなくてコミュニケーションの連続に価値があるようになってしまったのがSNS時代ですよね。
だから、どこかで見覚えがある、薄く共感できるものばっかりになってしまう。中国には「いいね!工場」もあるしね。
「タダでいいね!とか言ってんじゃねえ!」
――「いいね!工場」ってなんですか?
さやわか:お金を払ったユーザーのポストに対して大量にいいねを押していく工場です。ズラーーッと1万台のスマホが並んでて、物理的に押していくっていう……。
「みんなどんどん『いいね!』しよう!」の行き着く先がこれなんですよ。すごいですよね。
ばるぼら:人間の感情って、本来ノーコストで表現しちゃいけなかったのかもしれない……。いいね!にもお金必要だったらよかったんですかね?「タダでいいね!とか言ってんじゃねえ!」とかいって。
さやわか:確かに10円必要だったらみんな本気で考えて押すと思う。上司のつまらない投稿に社交辞令で「いいね!」しなくなるよ。「1回いいね!すると30秒通信速度が遅くなります」とか。
ばるぼら:そう考えると、そもそも通信速度が速くなったのがダメだった……?
さやわか:そうだね、ギガも大事に使ってもらわないと。
――普通は技術の発展として捉えられるものがことごとく否定されていく……。
さやわか:まぁ、ビジネスの場としてインターネットを捉えている人は、こういう話ふざけんなって感じだと思いますよ。だって気軽に「いいね!」できるから人が集まるし、通信速度が速いと便利になってハッピー! って考え方なわけですし。
でも、僕らが言ってることは、そもそも「人がただ集まっているだけでいいとかないんじゃね?」なんですよ。
インターネットは誰かの表現や主張そのものに対して「面白い」とか「これが好き」とか言っていく場所なはずだったんじゃないかと。これが世代の断絶なのか、嗜好の問題なのかわからないですけど。
――例えば、カップル動画や自撮り、「インスタ映え」重視の風潮など、下の世代の動向はどうですか? 文化の断絶ではあると思うのですが。
ばるぼら:それは“面白い”です。知らない世界だから。
さやわか:うん、面白い。目が大きく加工されたプリクラや自撮り、いいですよね。
ばるぼら:そういう現実の生活範囲内にはいない人の日常を垣間見て、「こういう人たちもいるんだ!」と気付けるのはインターネットならではですよね。
なので、流行ってるものが嫌なわけじゃないんですよ。多様性があってほしいんです、1万RT超えのネコ動画とかもういい! 全部ネコはネコだから! わかったから!
現実のネームバリューを持ち込むな
――最近「これは相容れないな」「思想が違う」ってWebサービス、ありますか?
ばるぼら:そうだな……「VALU」ですね。
さやわか:あれね〜〜!!
ばるぼら:突き詰めると結局同じで、インターネットで「いい」って何なのか?って話で。コンテンツを一切生み出してなくてもネームバリューがあればいいわけですよね。その価値観をインターネットに持ってきても仕方ないんじゃないかって思うんですけど。
さやわか:「SNS×クラウドファンディング」みたいに言われていますけど、「金を集める人が偉い」と「人に価値がある」の掛け合わせだから最悪ですよね。
現実世界で有名だったり、お金を稼いでいたりするからいいわけじゃなくて、ネットならではの面白いことできる人が評価されるべきだと思うんですよ。
起業家もいていい、稼ぐ人がいていいんだけど、それしかないのは「つまらない」。多様性のなさだと思います、つまらなさって、結局。
ばるぼら:インターネットは「なんでもある」世界が作れるのが理想だったわけですよね。それはいつから崩れちゃったんだろうなぁとは思っています。
――とはいえ、SNSが中心のこの時代の中でインターネットは“面白く”なりえるんでしょうか。
ばるぼら:いや、これだけ言ってきてあれですけど(笑)ずっと面白いんですよ、インターネットは。でも、みんなが面白がっているものは面白くない。「不人気検索」とかがほしい。
さやわか:お前らがマイナー志向なんだよ、と言われても「いや、それもあっていいじゃん」という話なんですよ。何かひとつに収束していくのが面白くないと思う。間違っているわけじゃないんですけど……でも、面白くないねって。
ばるぼら:僕らにとっては面白くないけど君たちの存在は尊重するよ、だから僕らが面白いものも増えてくれ! という。
――聞けば聞くほど、なかなか難儀な主張ですね。
さやわか:……なので、すごく嫌味な本なんですよ!(笑)