障害者の芸術文化事業や支援などに取り組む社会福祉法人の男性理事長から性暴力やハラスメントの被害を受けたとして、元職員の女性2人が法人と理事長に対して損害賠償など計約4070万円を求める訴訟を、東京地裁に起こした。
原告の2人は11月16日の会見で「私はただ普通に働きたかっただけ」などと、その胸中を語った。
11月13日付で提訴されたのは、障害者や高齢者の支援事業や、障害者アートのミュージアムなどを運営する社会福祉法人グローと、この法人の理事長で内閣府や厚労省の委員も歴任した北岡賢剛氏。
北岡理事長は障害者アートの第一人者としても知られ、2018年には障害者自立更生等厚生労働大臣表彰を受けているほか、内閣府の障害者政策委員会も務めている。
訴状と原告側の会見によると、原告の2人は、北岡理事長が2020年9月まで理事を務めていた社会福祉法人愛成会と、理事長を務める社会福祉法人グローの職員だった。
2人はそれぞれ、飲み会の後にホテルの一室で服を脱がされたり、胸や性器を触られたりする性暴力の被害を受けたとしている。また、移動中のタクシー車内で体を触られたり、セクハラと捉えられるメールが送られたりしたことなどが多数あったとしている。
原告側は、北岡氏が両法人で「日常的に、懇親会などでは女性を蔑視する発言や下品な発言」を繰り返していたと主張。「その地位を利用して女性が断りづらい状況に追い込んでのセクハラが多かった」として、これが2人に対する環境型セクハラに当たるとしている。
原告側代理人の笹本潤弁護士は会見で、「ほかの役員が北岡氏の擁護にまわり、法人内で救済はされなかった。Aさんは二次加害的な発言を受けることもあったほか、Bさんは退職せざるを得なかった」と話した。
「仕事なので仕方ないと」
Aさんは会見で「ハラスメントは常態化していました」と語り、訴訟の経緯をこう説明した。
「(ハラスメントが始まった)10年前には、男性社会で働くには、多少のハラスメントにあってもしょうがないと思っていました。転職してもこの社会環境では逃げ場がないと思い、我慢をしてきました。しかし暴力を放置していくと、それはどんどん弱い立場の人に向かってしまいます。被害にあっても声を出せない社会環境が少しでも変わるよう、訴えていきたい」
また、Bさんも「北岡氏は飲み会が好きだった。『俺は理事長だ』ということもあり、誘われて断れる職員はほとんどいなかった」と話した。相次いでいた被害について幹部に相談をしても、「北岡さんは偉大なことをしているから」と言われることがあったという。
「いまだに身体に胸があるのが気持ち悪くなることがあり、PTSDの被害にも苦しんでいます。仕事なのでこういう環境にも慣れていかなければと思ったが、性被害のトラウマやたびたびの電話で精神的に追い込まれてしまいました。私はただ普通に働きたかっただけなのに、なぜそれができなかったのか……」
笹本弁護士は「日本の社会福祉法人の多くでは、権力の強い理事会を男性が、職員は女性が多数を占めている。そうした構造的な問題も明らかにしていきたい」と述べた。
また、2人を支援する有志メンバーはこの日、「職場での性暴力やハラスメント行為は、人の尊厳を奪い、普通に仕事をすることを困難にさせる重大な暴力行為です」とする声明を発表。
「この社会の価値観が良い方向に更新され、社会福祉の働く場に限らず、すべての人が職場で性暴力やハラスメントの被害に遭わずに、安全に安心して仕事ができる社会を強く望みます」としている。
社会福祉法人グローはBuzzFeed Newsの取材に対し、「係争中であるということは認識しておりまして、現時点ではお答えさせていただくことはできません」とコメントした。