改正風営法下で、「小箱」と呼ばれる小規模なクラブやミュージックバーへの取り締まりが強まっている。4月6日夜から7日未明にかけて、東京・渋谷や六本木の複数の店舗に警察の一斉立ち入りが行われた。危機感を募らせた店側は業界団体を設立。法律の運用改善や立地規制の緩和などを求めていく考えだ。
10店舗に立ち入り
11日夕方、渋谷のクラブ「TRUMP TOKYO」に、小箱やミュージックバーの経営者ら約30人が集まり、「ミュージックバー協会(MBA)」の発足が発表された。
MBAによると、警察の立ち入りを受けたのは、渋谷や六本木などの少なくとも10店舗。数人の警察官が店を訪れ、改正法で創設された「特定遊興飲食店」の許可を取るように求められたという。
「このまま許可を取らなければ、青山蜂みたいになりますよ」
うち1店舗の店長は、スーツ姿の警官からそう警告された。青山蜂とは、今年1月末に風営法違反(特定遊興飲食の無許可営業)の疑いで全国初の摘発を受け、経営者ら3人が逮捕されたクラブのことだ。
特定遊興飲食店とは
戦後長らく、風営法では、客にダンスや飲食をさせる営業が「風俗営業」として扱われてきた。
無許可営業には2年以下の懲役か200万円以下の罰金が科され、仮に許可を取ったとしても、営業時間は原則午前0時まで。深夜営業のクラブはすべて「違法」とみなされてきた。
2010年以降、警察の取り締まりの強化で閉店に追い込まれるクラブが続出。利用者やミュージシャン、経営者らによる法改正運動が巻き起こり、2016年に改正法が施行、法律から「ダンス」の文字は消えた。
ただし、深夜のダンス営業が全面解禁されたわけではなく、改正法では新たに特定遊興飲食店として許可を取得することが義務づけられた。営業可能な地域は繁華街などごく一部に限られ、エリアからこぼれてしまう店も少なくない。
ダンスフロアもないのに…
この日の会合に集まった店も、下記のように立場は様々だ。
・許可を取得済み、ないし検討中の店
・エリア外で許可が取れない店
・許可は取れるが、特定遊興飲食店に該当しない可能性がある店
警察庁の解釈運用基準は「営業者側の積極的な行為によって客に遊び興じさせる場合」を規制対象とし、具体例として「客にダンスをさせる場所を設けるとともに、音楽や照明の演出等を行い、不特定の客にダンスをさせる行為」を挙げている。
店内にダンスフロアなどの遊興スペースがない場合、そもそも特定遊興飲食店に該当しない可能性もある。
警察に呼び出された経営者の一人は「遊興スペースがないのに、許可を取る必要があるのか。酔っ払って体を多少動かしている人がいただけで、取り締まるのは行き過ぎ。このままでは小さなお店は潰れてしまう」と訴えた。
「クラブカルチャーに重大な影響」
六本木のショットバー「GERONIMO東京」の代表で、MBAの代表理事に就任した田中雅史さんはこうあいさつした。
「青山蜂の件も含め摘発が本格的になってきており、状況は差し迫っている。個人の意見だけでは行政も議員も動いてくれないので、ちゃんとした業界団体をつくって声をあげていきたい」
MBAでは自主規制ルールを策定し、近隣住民と協調しながら健全な営業を続けていくことを目指す。風営法の運用をめぐり、行政・政治にも積極的に働き掛けていくという。
会合には、大阪のクラブNOON風営法裁判の弁護団長として無罪判決を勝ち取った西川研一弁護士も出席。警察の指導にどう対応すべきか、といった店舗側の相談に答えた。
西川弁護士は「警察が一斉立ち入りした店のなかには、特定遊興飲食店に該当するのか疑わしいところもある。十把一絡げの指導による萎縮効果は大きい。捜査当局はクラブカルチャーに対する重大な影響があることを自覚して、慎重に対応してほしい」と指摘している。
UPDATE
BuzzFeed Newsは立ち入りの規模や狙いについて、警視庁に取材を申し込んだ。4月23日付で以下の通り回答があったので追記する。
《個別案件については、お答えを控えさせていただきます。なお、当庁の実施する立ち入りは、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律、および同法施行条例に規定する各種義務の履行を確保し、もって善良の風俗と清浄な風俗環境を保持するとともに、少年の健全育成に障害を及ぼす行為を防止することを目的としております》
BuzzFeed Newsでは、ナイトカルチャーや風営法の問題について、継続的に報道しています。
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