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サトノカルナバルの「遺伝子型CC」の意味と解釈【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】

2024年7月12日 06時00分

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◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」
 函館2歳Sで人気を集めそうなサトノカルナバルは、この競走では異色のローテだ。例年、ほとんど函館デビュー組で占められるレースだが、同馬は東京芝1400メートル戦で勝った。後続を7馬身ぶっちぎった。堀師はこの路線選択を「遺伝子検査CC型を把握するために慎重に対処してきました」と、説明している。

獣医師記者・若原隆宏

 「CC型」というのは「ミオスタチン(Mst)遺伝子多型」の遺伝子型だ。Mstは筋肉の過剰増生を抑制するタンパク質で、多くのほ乳類が共通して持つ。この遺伝子が壊れると、多くの動物は見るからにマッチョな体形になる。
 牛ではベルジアンブルーという品種が有名で、効率的に赤身肉を得ることが出来る。
 馬(2n=64)ではこの遺伝子は第18常染色体上にある。Mstが正常に働く野生型遺伝子では「T」となっている塩基が「C」に置き換わっている変異型がある。変異型は言ってしまえばMstが壊れている。
 染色体は2本1組なので、2本そろってMstが正常に働く「TT型」、片方壊れている「CT型」、両方壊れている「CC型」がある。表現形は、この順にスラリとした体形から筋肉質な体形になりがちだ。
 遺伝子型と競走成績を比べた統計調査からTT型は長距離に、CC型は短距離にCT型はその中間に適性の中心が置かれる傾向が明らかになっている。
 ただし、あくまでこれは統計的に「そうした傾向が認められる」ということにすぎない。Mst遺伝子が距離適性につながるのは、個体が筋肉質になる程度に関与するからだ。個体の筋肉量を左右する遺伝子はほかにもあるし、距離適性に関与する遺伝要因は気性、心肺機能、速筋・遅筋の割合など、多様だ。MstがCC型でも、必ずしも短距離馬とは決まらない。
 サトノカルナバルはトモは非常に豊かだが、現状の体形はむしろスラリとしている。新馬戦時点の馬体重494キロは、今や突出した大型馬というわけでもない。走行フォームも背中のバネを利かせたタイプに見える。新馬戦で騎乗したレーンは「スプリンターだ」とスピードを高く評価したというし、力が突き抜けていて、ここを勝ち切る可能性も小さくはないだろう。
 ただ「Mst遺伝子CC型」ということだけをもって、この馬の距離適性の中心がスプリントだと断じることはできない。

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