スクウェア・エニックスの『サガ』シリーズ最新作となる、『サガ エメラルド ビヨンド』がついに発表された。
スクウェア・エニックス河津秋敏氏が製作総指揮を務める作品として最後に発売されたのは、『サガ スカーレット グレイス 緋色の野望』(2018年8月発売)だ。そのオリジナル版である『サガ スカーレット グレイス』が発売されたのは2016年12月。つまり、河津氏の完全新作としては、7~8年ぶりのリリースとなるわけだ。
『サガ エメラルド ビヨンド』は2024年発売予定で、対応ハードはNintendo Switch、PS5、PS4、PC(Steam)、iOS、Android。ディレクターは河津氏、プロデューサーは市川雅統氏、楽曲は伊藤賢治氏、キャラクターデザインは倉持諭氏が担当している。
本作の特徴は、17もの世界(ワールド)が存在していること。プレイヤーは6人5組の主人公の中から、プレイする主人公を選択し、“連接領域”なる場所を足掛かりに、17の世界へ赴くことになる。その際、プレイの道標となるのは、緑色の波動“エメラルドヴィジョン”。この緑色の波動を追っていく中で、プレイヤーはさまざまな選択を迫られ、物語が変化していくのだという。
本記事では、河津氏、倉持氏と、市川氏のインタビューをお届け。『サガ エメラルド ビヨンド』の主人公やゲームシステム、気になる発売時期などについて、たっぷりとお話をうかがった。
河津秋敏氏(かわづ あきとし)
『サガ』シリーズ総合ディレクター。言わずと知れた『サガ』シリーズの生みの親。『サガ エメラルド ビヨンド』ではディレクターを務める。
市川雅統氏(いちかわ まさのり)
『サガ』シリーズプロデューサー。『ロマンシング サガ リ・ユニバース』や舞台作品、佐賀県とのコラボなどを手掛けつつ、今回『サガ エメラルド ビヨンド』でもプロデューサーを担当。
倉持 諭氏(くらもち さとし)
スクウェア・エニックス所属のアーティスト。『ロマンシング サガ リ・ユニバース』や『インペリアル サガ エクリプス』でもアートを担当。『サガ エメラルド ビヨンド』ではキャラクターデザインやイメージビジュアル全般を手掛ける。
『サガ エメラルド ビヨンド』の企画は7年前から始まっていた
――『サガ スカーレット グレイス 緋色の野望』発売から5年……ついに、『サガ』シリーズの最新作が発表となりました。今回の企画は、いつごろから動き出していたのでしょうか?
河津企画を始めたのはオリジナル版の『サガ スカーレット グレイス』(以下、『サガスカ』)が終わった後です。2017年に、『緋色の野望』の作業が始まる段階で、こちらの企画もスタートしていました。
市川そう考えると、長いですね。
倉持河津さんの中に構想はずっとあったと思うんですが、ある時急に、メールが飛んできて。「ちょっと、こういう絵を描いてくれ」と。それを見て、「あっ、始まったんだな」と思いました。
――そのときはまだ、新作のタイトルなどは知らされていなかった?
倉持全然です。全貌はまったくわからないまま、「こういう絵が欲しい」と言われて、何もわからない状態で、勘で描きました(笑)。
河津そのときはまだ、プロジェクトは立ち上がっていなかったので。『緋色の野望』の作業だけをやっていてもつまんないから、つぎはこういうことをやろうかなとプランニングしていたんです。バトルはこうしたいとか、イベントはこうしたいとか。ネタ出しの段階ですね。
――そのとき、河津さんはどんな絵を描いてほしいと言っていたのですか?
倉持ええと、“階段の上に、男性かも女性かもわからない人物が立っている”。……以上です。
市川知らなかった(笑)。そんなところから始まったんだ?
倉持河津さんから届くテキストはいつも短いので、そうすると、自然とこちらも考えるようになるんですね。これはどういう意味だろう、というのをすごく考えて考えて、1枚の絵にしました。
河津そんな内容でしたっけ(笑)。倉持さんに頼んだこと自体は覚えてるんですけど。
倉持そのキャラクターのセリフも、ひと言あった気がします。「お前のような王家の出の者が、なぜここに」……という感じでした。
市川あっ、あった! その絵、見たことある!!
――その初期に描いた階段の絵は、ゲーム本編に何かしら活かされているのですか?
倉持連接領域のビジュアルに、わりと反映されています。扉がいっぱいあるところとか。
河津倉持さんが最初に描いたイメージに、プログラム的なところも近くなりましたね。最初はああいう形になると思っていなかったんですが、やはりイメージがあるとプログラマーもやりやすいのですかね。
――いまのお話を踏まえると、『サガ エメラルド ビヨンド』の企画は、連接領域というものの存在からスタートしていたのでしょうか。
河津プレイヤーが、3Dの画面上でキャラクターを操作するシーンを入れたいというところが最初にあったんです。前作で物足りないところだったので、それは入れなきゃなと。そういう3Dのシーンがあって、2Dのワールドをつないでいく……みたいなのが、最初の構想からありました。
――連接領域は3Dで表現されているんですね。そこからそれぞれの世界に行くと、『サガスカ』のように、世界が2Dで描画されていると。そういった構想が7年前にあって、いよいよプロジェクトが動き出したというわけですね。
市川そうですね、まずはプリプロダクション(※本格的な開発に入る前に、プロトタイプの制作を行うこと)がありました。
河津でも、プリプロダクションからも長かったですね。
市川プリプロダクションから数えても、開発には5年くらいかかっていますからね。2018年に『緋色の野望』が出て、その年に『ロマンシング サガ リ・ユニバース』(以下、『ロマサガRS』)も出て、舞台などもあったりする中で、『サガ エメラルド ビヨンド』も動き出したんですけど、すぐにコロナ禍になってしまって。
倉持連接領域を作っていたころは、みんなでひとつの画面を見て開発できていたんですけどね。あのころはみんなで集まれて楽しかったです。そういえば、開発が始まったころ、デザイナーだけの飲み会があったんですよ。そこに河津さんがいらっしゃって、そこで初めて御堂綱紀の存在を聞いたんです。今回の主人公のひとりは日本人だ! って。ただ、僕はそのときけっこう酔っぱらっていて、翌日、話の内容を覚えてなかったんですよ(笑)。それで「昨日、河津さん大事なこと言ってた?」とみんなに聞いたら、「えっ、あんなに大事なことを言ってたのに!」と呆れられて……そこから綱(※主人公のひとり、御堂綱紀の愛称)を描き始めました。
――その段階で、河津さんはスタッフのみんなに主人公のことを説明していなかったのですか?
河津プランナーたちはもちろん知っていて、日本のようなワールドが出ることも決まっていましたけどね。今回のキャラクターや物語は、綱紀を中心に決まっていきましたし。彼が連接領域に行って、いろいろなワールドに行くという流れがまずあるので。……その飲み会、ずいぶん前だよね?
市川チームの結束を強めようと思って、開発初期に、職種ごとに飲み会をしたんです。プランナーとかプログラマーとか。
倉持アメイヤのデザインを河津さんに見せたのも、飲み会でした。飲み会の前に、河津さんから「主人公のひとりは魔女っ子だ」ということを聞いて、みんなでいろいろな魔女をデザインして、プリントアウトして持っていったんですよ。ただ、緊張があったので、プレゼンに対する河津さんの反応は、後日改めてスタッフにヒアリングしました。
――そんな飲み会を経て決まっていったのが、今回のキャラクターたちだと。
市川本当にものすごい数のキャラクターがいるので、よく全員分のデザインが完成したなと思います。
河津バトルに参加するキャラクター数は、『サガスカ』よりちょっと少ないんですけど。
市川NPCも含めると、キャラクターのバリエーションがすごいんですよ。キャラが立っていて、種族もいろいろあって。
河津今回はヘンなのがいっぱいいるので。最近、そういう(種族が多い)ゲームがないですからね。
削れるだけ削った後、改めてビデオゲームに必要なものを考えた
――ワールド内の移動やバトルに関するシステムは、『サガスカ』のシステムをベースにしているように見えますが、河津さんとしても、『サガスカ』のシステムでまだまだできることがあると思っていた、ということでしょうか。
河津そうですね。ビデオゲームは記号化されているものなので、そこに立ち返る形で前作を作って、ワールドの見た目とかを記号化したんですけど。やはり“キャラクターを操作する”、“プレイヤーが画面の中のものを動かす”ということにビデオゲームのおもしろさがあるので、つぎはプレイヤーがそこをリッチに体験できるようにしたいなと。それで3Dの連接領域を入れてみたり、ワールド内の動きにバリエーションを持たせてみたりしています。
――『サガスカ』のインタビューでは、ゲームの余分な要素をそぎ落として、RPGに必要なものを残したゲームデザインにした……とおっしゃっていたと思います。そんな前作を経たことで、改めて強化すべきポイントが見えてきたということでしょうか。
河津「RPGにはこれだけがあればいい」と言って、削れるだけ削ったのが前作なのですが、ビデオゲームとして見ると足りない要素があったので、それを足し直して提示しているのが『サガ エメラルド ビヨンド』です。
――では、ヘンな種族がいっぱい出てくるというのも、前作を踏まえた結果?
河津スタッフに『サガ』らしさは何かを聞くと、亜人とかが出てくるところ、という意見があったりもしましたし、ユーザーからもそういった声があったので。種族が増えると、当然モデリングやモーションのコストは上がるんですけど、デザイナーもみんな賛成してくれたので、「やりましょう」となりました。
――『サガ』らしさについては、やはりスタッフそれぞれに考えがある?
河津前作は、わりと『サガ』に関わったことがある人に声をかけてチームに入ってもらったんですけど、今回は本当にいろいろな人が(チームに)います。『サガ』をプレイしたことがなくて、「難しい」というイメージだけがある人もいれば、もちろん、すごくやり込んでいる人もいて。「『サガ』はこうじゃなきゃいけない」と持論を披露されて、「いや、そんなところは別に目指していないけど」と返したりするんですけど(笑)。
倉持僕も含めて、やっぱり憧れを抱いているスタッフは多いので。実際に開発に参加すると、「あ、けっこう現場のノリや勢いで決めちゃうんだな」と驚くことはありましたね。もちろん、河津さんが統括しているのでそんなにブレるということはないと思うんですが、おもしろい案に対しては「いいじゃん」って言ってくれたりするので。
市川そういえば、新しいスタッフが多かったこともあって、最初に決起集会をしました。そのとき、河津さんがRPGについて話していたことをよく覚えています。Apple IIのころからRPGの手法というものはあまり変わっていないんだけど、その中で新しいことをしたいというのが『サガ』なんですよ……という。それで自分たちが何を目指すのか、というのをチームみんなで話したり。ワールドについてもずっとブレストしていて、「こんなギミックを入れたい」、「遊びを入れたい」と言っているのを聞いて、ワクワクしました。(河津さんがゲームデザインを担当する)『サガ』シリーズの新作にゼロから関わるのはほぼ初めてで、新鮮でしたね。『サガスカ』は、企画が立ち上がった時点では、自分はまだ関わっていなかったので。
チームの中の人間が、最初のユーザー。まずはそこを驚かせる
――ワールドについては、まずはみんなでアイデアをたくさん出し合ったのでしょうか。
河津いったんみんなにワーッと案を出してもらいました。
――『サガ フロンティア』(以下、『サガフロ』)の開発スタイルを彷彿とさせるお話ですね。
河津スタッフが多かったので、『サガフロ』に近い形になるかなとは思っていましたね。みんなのアイデアを聞いて、「じゃあ、やれば」というと、(内容が)バラバラになっていっちゃうんですけど、まあそれはそれでおもしろいんで。ワールドのアイデア自体はみんなで考えて、シナリオは自分が書きました。
――サブクエストのシナリオも、河津さんが書かれた?
河津各ワールドの担当がエピソードを考えていて、その担当の考えが色濃く残っているところもあれば、自分がけっこう改造したところもあります。各スタッフのノリはけっこう活かすようにしていますね。「この味は自分じゃ出せないな~」と思うキャラクターがいたりします。
――ワールドは全部で17個あるということで、かなり多いですよね。
河津本当はもう少しあったのですが、作品全体を作りこむためのスケジュールも考えて、いくつかは削りました。本当はあとふたつくらい削れ、という意見もあったんですけど、「いや、17個ないと成り立たない」と主張して。
市川私はどちらかというと、「削れ」と言う側だったんですけど……でもねえ、削りたくないじゃないですか。「どうして河津さんは俺にこれを言わせるんだ」と思いましたよ。
河津誰かがそう言わないと、チームが納得しませんから。
――ワールドと主人公は、同時並行で作っていったんですか?
河津そうですね。ワールドと、そこに登場するキャラクターはセットで考えているので。
――『サガスカ』のとき、「主人公の職業がどれもエッジが効いているな……」と思ったんですが、今回も負けず劣らず個性的だなと思います。キャラクターについては、どんなところから着想を得たのですか?
河津今回、わりとふつうな気がしますけどね。
市川まあ、『サガ』には魔女っ子とかはあまりいませんでしたから。
倉持綱紀に関しては、僕はびっくりして。河津さんから「本当にふつうの男の子」と聞いていたのに、セリフ見たら関西弁しゃべってて。もう衝撃でした。
河津綱紀は最初から、京都の人、お公家さんのような家系ということを決めていたので。標準語をしゃべると、ぜんぜんおもしろくなくなっちゃう。
市川チームメンバーには、仕様がだんだんと伝わってくるんですよ。「主人公のひとり、どうやらメカらしいよ」とか。
河津プランナーはもちろん知ってますが、みんなニヤニヤして、自分からは言わないようにしてましたね。別に「言うな」とは言ってないんですけど。
倉持どこかから漏れ伝わってきて、ざわつくんですよ。
――でも、キャラクターデザインをする身としては、早く知りたいですよね?
倉持いえ、全部わかってしまうと、逆にちょっとおもしろくなかったりするんですよ。やはり自分で“考える”ことが大切なので。あまり詳しく聞きすぎてしまうと、「自分が考えていたデザインとは違うな……」となって、本当はやりたかったデザインができなくなってしまう可能性もありますし。まあ、たまに「もうちょっと早く言ってください」と思うことはありますが(笑)。
河津「わかっていたら、こうしたのに」とは、デザイナーにはつねに言われてます(笑)。
倉持ただ、それを先読みして、よりいいものを提案できたときに、褒めていただけることがまれにあるんです。「今日のアレ、よかったよ」と、ボソッといいながら河津さんが通り過ぎたりして、「よし!」と。だから、よりよいものを提案しようと考えるようになりますね。
河津チームの中の人間が、最初のユーザーなんですよ。まずはそこをビックリさせなきゃいけない。「ふーん」って流されるようなアイデアじゃ、基本的にダメなんです。「おもしろいけど、マジでやるんですか」といって、みんながすぐ作業に落として考え始める、そういう反応になったときがいちばんいいですね。そこにクリエイティブが生じてくるので。
主人公は6人5組。クグツ使い、魔女、吸血鬼、歌姫メカ、新米巡査ペア
――主人公について、もう少し詳しく教えてください。最初にできたのが、まずはワールド“ミヤコ市”で暮らす綱紀なのですよね。河津さんは京都がお好きなのですか?
河津いえ、特別京都が好きだというわけではないんですが、必然的にそうなりました。「いつか関西弁のキャラクターを作ってやろう」と思っていたとかではないです。
――綱紀は“クグツ”使いとのことですが、クグツは本作初登場となる種族ですよね。
河津クグツはなかなかいいデザインですよ。
倉持クグツは動物のお面をかぶっているのですが、うちのアートチームの高橋紗梨さんがデザインしました。
※高橋氏の“高”の字は、正しくは“はしごだか”です。
――ほかの主人公は、どう決まっていったのでしょうか?
河津魔女っ子出したいとか、前作ではバルマンテとアーサーというバディものを描いたので、今度は女性ふたり組にしてみようとか。ダークヒーローをやってみたいとか……そういうネタは自分の中にあったし、みんなからもアイデアが出てきたので。主人公のラインアップは、あまり悩まずに、ほぼほぼ最初に決まりましたね。
――ボーニーとフォルミナは、ふたりで主人公というのは珍しいですよね。
河津システム上、どちらかを主人公にしてしまうと、もう片方がオマケになってしまうので。そうすると前作と同じになってしまうので、今回はふたりとも主人公にしました。
――ふたりは新米巡査ペアとのことですが、河津さん、警察を描くのがお好きですよね? 『サガフロ』のIRPOしかり。
河津いやいや、そんなことないです(笑)。警察の知り合いとかいないですし。設定として使いやすいだけで。警察モノのドラマはすごく多いですが、それだけ架空の警察というのは作りやすいんですよ。実際の警察はまったく別モノだと思いますが。
倉持最初に「女性ふたり組の警察だ」と聞いて、アートチームのみんなと話し合ったんですが……「たぶん、このふたりのワールドは中国風だと思う!」となったんですよ。それで、チャイナ服を着た、左右対称の双子みたいなキャラクターをデザインして河津さんに持っていったら、「違います」と。そのときはさすがに、「先に言ってほしかったな……」と思いました(笑)。
――(笑)。続いてアメイヤについて伺いますが……まさか河津さんが魔女っ子を書く日が来るとは思っていなかったです。しかもアメイヤは、ふだんは小学6年生として暮らしているとか。
河津もっと年齢が低い魔女っ子もいますけど、あまり年齢を下げてしまうとお話が作りにくいので。
――魔女っ子を書こうと思ったのは、娘さんの影響だったり……?
河津それは全然関係ないです(笑)。前作を作っていたころ、ちょうど魔法少女ものとかが流行っていたと思うので。そういうイメージが若干あったかもしれません。
――シウグナスは、女性人気が出そうな気がします。
河津シウグナスは、パーティーメンバーも全員男です。もう、イケメン揃いにしようと最初から決めていたので。
市川シウグナスは、イケメンたちを仲間にしていくんですよ。それぞれの仲間と友情のようなものが芽生えていって、自分的にはめちゃめちゃアツい話じゃないか! って思いましたね。
倉持最初は、長髪で露出が多めのデザインを考えていたんですが、河津さんの反応は「うーん」という感じで。結果、採用されたものは高橋紗梨さんがデザインしたんですけど、デザインへのアプローチが僕とは違っていておもしろかったですね。たとえば、シウグナスは前髪がクロスしているんですが、僕であれば描かないようなデザインなので。女性スタッフから「カッコいい」という声が挙がっているので、なるほど、やはり女性に響くデザインなんだなと。
――シウグナスは、バトルにおいても“吸血鬼”という種族の特徴を持って戦うのでしょうか。
河津はい。吸血鬼は彼ひとりだけです。バンバン血を吸って戦ってもいいし、「それはちょっと……」と思うなら一切血を吸わなくてもいいし。それはプレイヤーにお任せです。
――ええ~、シナリオにも影響がありそうで悩みます……。
河津いえ、血を吸わないと、単にバトルが辛くなるだけです。美学を貫きたい人は貫いていただいていいので。まあ「これじゃ勝てない」と思ったら、容赦なく吸いまくってください。
――そういえば、“クグツ使い”や“魔女”も、それぞれ種族として設定されているのですか?
河津いえ、そのふたつは厳密には種族ではないですが、それぞれの物語を特徴づけるものになっています。
――では、主人公の中で種族が特殊なのは、あとはディーヴァ ナンバー5ですね。
河津そうですね、メカなので。
倉持開発チーム内では“歌姫”と呼んでいます。
――素敵な人型ボディがありますが、たぶんこのボディは、序盤で早々に奪われるんですよね……。
河津はい、序盤で早々に奪います。申し訳ないです。ああー、もうちょっと人型ボディで活躍させておけばよかったな、と後から思いました(笑)。デザインとかモーションとか素敵なので。プレイヤーにもそう言われるということはわかっているんですが、いまさら変えられませんでした。
――過去作のメカとは、印象がちょっと違いますね。言動がメカメカしくないというか。
河津意識的に、メカっぽく描かないようにしています。まあこれはメカに限りませんが、そのワールドでは、その種族が存在していることが“当たり前”なので。人間目線で描くと、変わった種族を“変わった”ように作りがちですが、いまどきのゲームなので、そうしないようにしています。
――クグツやメカ以外にも、変わった種族が存在しているのでしょうか?
河津『サガ』シリーズ伝統の、ヘンな、人間じゃないやつがいろいろいます。
倉持そういった種族には、本当にデザインに制限がないんですよ。たとえば、足が6本くらいあってもいいわけで……。
河津そうすると、モデラーとかモーション担当が「(作業がたいへんになるから)ダメ」っていうんですけど(笑)。
倉持本当に変わったキャラクターが出てくるんですよ。白血球とか。
――えっ、白血球? 白血球ですか?
倉持詳細は楽しみにしていただきたいんですけど……。
河津もはや亜人とかでもないです。白血球。
市川開発していると、「白血球のシナリオが~」とか聞こえてくるんですよ。えっ、白血球が仲間になんの? って。
河津そのへんはもう割り切ってます(笑)。
倉持アイテム発注に関しても、「がん細胞が云々……」という会話が聞こえてくるんですよ。「浸食されてる感じのデザインがいいね」とか。何の話をしているのかと思いますよね(笑)。
周回前提のゲームデザイン。どの主人公を選んでも、最低2周は楽しめる
――フリーシナリオについて伺います。本作は“『サガ』シリーズでもっとも変化する物語”が楽しめるとのことですが……。
市川今回、選んだ主人公によって、受ける印象が本当にぜんぜん違うんですよ。前作でも、バルマンテ編とタリア編の内容はぜんぜん違いましたけど、世界から受ける印象は同じでしたよね。今回は、同じワールドに行っても、主人公によって印象がぜんぜん違っておもしろくて。これまでの『サガ』シリーズにはない新しさだと思います。さらに、ほかのスタッフと同じ主人公を選んでテストプレイしていても、進みかたがぜんぜん違うんですよ。
河津気にしなくていいです。緑色の線に沿って進めていれば、必ず最後に行きつくので。
――『サガスカ』のときも、シナリオがどこで分岐しているのかわかりませんでしたが、今回もさらに分岐がわからないシナリオになっている?
河津いえ、分岐自体は、見ればすぐにわかるようになっています。『サガスカ』とは真逆の考えかたで作っています。プレイ自体はしやすいです。
市川エメラルドヴィジョンがあるので、どこに行けばいいか、はわかります。バトルも、見た目は『サガスカ』に近いですが、かなり遊びやすくなっていますね。
――エメラルドヴィジョンは、しょっちゅう見えるものなのですか?
河津つねに見えています。見えるままにプレイしてもらえれば進めますので。ただ、“プレイヤーが主体的に自分で選ぶ”というところには気をつけました。そもそも、ほかのゲームであっても、ゲーム開発の設計上は、イベントとイベントを結ぶものはあるわけです。開発機材でゲームイベントを調整する際、イベントとイベントを線で結んで編集したりするので。ゲームをプレイする際は、ただその線が見えなくなっているだけ。「じゃあ、いっそのこと、それを見せちゃえばいいじゃん」というのが今回のゲームです。それ用のUIを作って、なんでそのUIになっているのか、ちゃんと理由を作ろう、と。そうしないとプレイヤーが冷めてしまうから。それでエメラルドヴィジョンというものが生まれました。
――なるほど。エメラルドヴィジョンありきで、この世界の設定が構築されていったのですね。
河津綱は生まれたときからエメラルドヴィジョンが視えるキャラクターですし、ほかの主人公も、それぞれ理由があって視えるようになります。ほかの人には視えません。“マップにマークが出ることで、イベントの発生の有無がわかる”といった単純な仕様ではなくて、あの世界で、主人公たちにはエメラルドヴィジョンが視えているんです。
――それにしても、「どうせ開発中の画面では線で結ばれているものなんだから、プレイヤーにもその線を見せちゃえばいい」というのが、河津さんらしいなと思います。ふつう、思いついてもなかなか実行に移さないアイデアですよね。
市川行く先がわかってしまうと、成立しないゲームもありそうじゃないですか。でも、実際にプレイしてみると、むしろエメラルドヴィジョンがないと困るくらいで。線が見えていても、探索しているというプレイ感覚は失われませんね。
――どの線を選んでいくかでシナリオが変わっていくということは、本作は周回前提で作られているのでしょうか?
河津周回してもらうつもりで作っています。当然、全主人公をプレイしてほしいですし、同じ主人公でも、何周も遊べることを意識して作っています。
――ということは、1周あたりのボリュームはけっこうコンパクトになっている?
河津最近のゲームはとにかく長いのが多くて、自分でも「クリアーまで2ヵ月くらいかかっちゃいそうだな……」と思ったりするんですよね。でも昔は「この週末3日間でクリアーするぞ!」という感じだったじゃないですか。その感覚をもう一度生み出したくて、1プレイはコンパクトにしています。ただ、トータルはすごいボリュームになりますね。
――週末を費やせば、ひとりクリアーできるくらいでしょうか。
河津いえ、週末を使うなら、もっといけると思いますよ。
市川主人公によってプレイ時間は相当違います。プレイ時間が長めの主人公もいます。
河津綱は比較的短めに作ってありますが。
――やはり最初にプレイしてほしい主人公は御堂綱紀なのでしょうか?
河津そうですね。チュートリアルみたいな存在でもあるので。
――全部遊びつくしたい場合、何周すればいいのでしょうか。5周では足りないですよね。
河津すべての主人公は、最低でも2周はできるように作ってあります。最低でも。綱は4周以上できます。アメイヤもエンディングがたくさんあって、全部見るのはなかなかたいへんかと。どのエンディングにどうたどり着くかは、プレイヤー次第ですね。
市川プレイが終わらないRPGなんです。テストプレイを何百時間もしていますが、ぜんぜん全貌が見えている気がしないんですよ(笑)。
――それ、『サガスカ』のときも同じことを聞いた気がします(笑)。
『サガ エメラルド ビヨンド』は、すべてが見えている状態で選んでいくゲーム
――本作のタイトル『サガ エメラルド ビヨンド』について伺います。やはりエメラルドヴィジョンが重要な存在であるゆえの、このタイトルなのですよね。
河津前作を作っている最中から、「つぎもタイトルに色をつけよう」とは思っていました。じゃあ何色にしようか、緑か。緑の言いかたとしては“エメラルド”がいいと考えていたので、『緋色の野望』が出るころには、早々に市川さんに「つぎはエメラルドだ」と伝えていましたね。
市川最初は違うタイトル名だったのですが、いろいろ話して『サガ エメラルド ビヨンド』になりました。
河津このタイトルを考えていた時点で、なんらかのヴィジョンが視えて、線を選んで進んでいくUIというのは決まっていました。それを、単なるUIにしないで、世界観として実現するというのは先ほどお話しした通りで。見た目とシステム、世界観をセットで考えていましたね。それにともなって、綱の設定も自分の中ではできていました。
――本当に、もうかなり前からゲームの根本は考えられていたんですね。そこから5~6年が経ったということで……。
河津いやー、想定以上に長くなってしまって。本当は2年くらい前に終わっているはずだったんですけど。でも、稲垣くん(アートディレクターの稲垣喜光氏)は最初から「5年かかります」と言ってましたね。結果、本当にそうなっちゃった(笑)。コロナ禍でプロジェクトがずるずる延びてしまったところもあるんですけど……でも、4~5年やった分のプラスアルファは乗っかっていると思います。
――稲垣さんは『サガスカ』から続投ですね。ちなみに、バトルディレクターはどなたが担当されているのですか?
河津『キングダム ハーツIII』をやっていた柴田(柴田伯一氏)です。じつは柴田は、『アンリミテッド:サガ』のときに新入社員だったんですよね。『キングダム ハーツIII』が終わって東京に戻ってくることになったので(※『キングダム ハーツIII』の開発は、スクウェア・エニックスの大阪チームが中心となって行っていた)、「じゃあやれば」と。最初はチェックだけ……みたいな感じだったんですけど、けっきょく彼がバトルを全部作り直しました。まあ、開発期間が延びたのは彼のせいでもあります(笑)。
――(笑)。では、『サガスカ』とはだいぶ触り心地の違うバトルになっているのですね。
河津そうですね。前作では“連携”ではなくて“連撃”というシステムを採用していましたが、今回は『サガ』シリーズ伝統の“連携”になっています。連携の範囲が見えるようになっていて、プレイヤーがどう連携を作り立てていくかが遊びの中心になるという。前作では、敵が1体しかいないとき、連撃がぜんぜん出せないという問題があったので、そこをどう解決するかというアプローチをして、いまの形になりました。あとは、いろいろな種族がいて、種族固有のルールがいっぱいあるので、そこのバランスも取りつつ作られたのが今回のバトルシステムです。
――タイムラインバトルは、いろいろなものが見える状態で戦略を組み立てていくものですが、今回はエメラルドヴィジョンによってイベントのつながりも見えるようになりました。本作は、いろいろなものが見える中で選択をしていくゲームなんですね。
河津わかっていないと選べないので。わかっていて選んだとしても、やっぱり「ああ~」となったりしますが。今回、じつはイベントに巻き戻し機能があるんですよ。「あっ、いま大事なこと言ってた」と思ったら、巻き戻して見られますし、選択肢も選び直せます。選んだ瞬間にバトルに入っちゃった場合は、戻れないんですけど。これも割と最初から考えていた機能です。巻き戻しを入れるか、イベントをもう一回見れるか、テキストを全部どこかに保存しておいて読めるようにするか、どれかは採用したくて。じゃあ、巻き戻しが入っているゲームはなかなかないから、やってみようと。実際、ユーザーがどういう風にこの機能を使ってくれるかはわかりませんけどね。ゲーム実況をする人がどう使うかとか、何が起きるか楽しみです。
発売は、2024年のわりと早い時期?
――音楽は、伊藤賢治さんが担当されているのですよね。
河津作曲は全部イトケンです。
――では、今回も河津さんからけっこうダメ出しを……?
河津そうですね。こうじゃないとか、アレンジ段階で「これ違う」とか、いろいろ細かいことは言いました。
――今回は『サガフロ』並みに、ワールドごとに文化が違うようなので、作曲も苦労されたのではないかと思います。
市川そうですね、『サガ エメラルド ビヨンド』のほうは、けっこう指示がきびしかったようで……その代わりというと語弊がありますが、『ロマサガRS』では自由にやってもらうことを意識しました。『ロマサガRS』に関しては、そのほうがいいのかなと思いまして。たとえば、『ロマサガRS』の新曲では三味線の音色を取り入れたりしているのですが、そういったチャレンジが、『サガ エメラルド ビヨンド』の音楽にもいい影響を及ぼしているといいなと。
河津今回、いままでやっていなかった形の歌モノもあって、曲数も多かったですね。バトルの曲の数がちょっと多いです。今回は『サガスカ』と違って、主人公ごとにバトル曲を用意したわけではないんですけど。
――倉持さんも、『サガ エメラルド ビヨンド』と『ロマサガRS』の作業を掛け持ちされていますが、プロジェクトごとの違いをどんなところで感じますか?
倉持『ロマサガRS』はわりとしっかりした発注書が届きますが、『サガ エメラルド ビヨンド』に関しては、河津さんといっしょに考えて描くという感じですね。やはり明確な発注書がない分、難しいこともあって……。そこで悩んでいるときに、『ロマサガRS』のイメージビジュアルの発注が来たら、それはもう思いっきり筆が乗るままに描かせてもらって、自分の中でバランスを取ったりしましたね。
――『サガ エメラルド ビヨンド』では、倉持さんを中心とするスクウェア・エニックスのアートチームがデザインを担当されているようですが、小林智美さんや直良有祐さんといったシリーズ作でおなじみの皆さんは、今回は参加していないのでしょうか?
河津今回はしていないですね。
――ちなみに、アートチームは何人くらいいるのですか?
倉持背景専門のスタッフや、外注の方も含めると、アート担当者は10人くらいいます。猫をいっぱい描いている人とか。
市川アメイヤ編では、猫を集めるんですよ。
――えっ、猫を集める?
河津集める猫とは別で、バトルに参加する猫もいます。
市川猫、本当にいっぱい出てくるんですよ。河津さん、猫が好きだったのかな? と思うくらい。
河津猫と犬、どちらが好きかというと猫が好きですね。
――クグツにメカに白血球に、猫まで参戦するんですね。画面写真を見ると、仲間たちはみんな、アクが強そうですし、キャラクターに関する続報が楽しみです。 ところで、『サガ エメラルド ビヨンド』は、来年発売予定とのことですが……?
市川来年の、わりと早い時期に出ると思います。
河津ようやく、目途が立ちました。ようやく先日、ひと通りの要素が入って。その段階は3月には終わっているはずだったんですけど。
市川『サガスカ』は、『SAGA2015(仮題)』として発表して、2015年に出なかったんですけど(※『サガスカ』が発売されたのは2016年12月だった)、今回はそういうことはない! とお伝えしておきます。開発も終盤に入っていて、いまは他言語対応をしているところなので。本当に、みんな力を込めて作っていて、手応えを感じているスタッフも多いと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
倉持キャラクターのデザイン自体は終わっていて、ここまで長かったな……と思いますが、まだまだやることはあります。これから販促物ですとか、キービジュアルですとか、皆さんを楽しませるものを描いていきます。もうひと踏ん張りですね。たくさん描きたいと思います!
河津ずいぶん長くお待たせしちゃいましたけど、ようやく新作が日の目を見ますので、よろしくお願いします。いろいろなプラットフォームで遊べるようにしますので、ご自分の好きなもので遊んでいただければなと思います。本当に、じっくり遊べるので。手軽でありつつ、長く遊べるものになっていますので、よろしくお願いします。