「もうアカンね。つぶれる」
日本維新の会では今、12月に発足したばかりの吉村代表、前原共同代表、若手ぞろいの3役という新執行部に対し、馬場前代表の周辺で不満が渦巻いている。背景にあるのは5カ月間にわたった「権力闘争」だ。その裏側をのぞき見る。

“馬場系”と“吉村系”の対立

臨時国会で維新は、政府の補正予算案に賛成した。さらに2025年度予算についても、前原誠司共同代表は、賛成する「必要条件」に言及して協力を匂わせた。与党がまとめた「予算編成大綱」には、維新の要望である「教育無償化」と「社会保険料の負担減」が盛り込まれた。

ところが「盛り込んだ」とする中身が、党内に波紋を広げた。「教育無償化」については、「求める声があることも念頭に」の一節が加わったのみで、「現役世代等の社会保険料負担軽減を図る」との一節は、維新との協議前から入っていたという。

党内には「こんな大綱で喜んでいる執行部は、もうつぶれるのではないか」と、痛烈に批判する議員たちがいる。また、遠藤敬前国対委員長が、漆間譲司新国対委員長を連れ各党へあいさつ回りをすると、「そんなことまでしてやる必要があるのか」との声もあがった。いずれも馬場伸幸前代表に近い議員からの声だ。

日本維新の会の臨時党大会に臨む馬場伸幸前代表(左)と吉村洋文代表(2024年12月1日)
日本維新の会の臨時党大会に臨む馬場伸幸前代表(左)と吉村洋文代表(2024年12月1日)
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本稿では、こうした議員を“馬場系”と呼び、逆に吉村洋文代表ら新執行部に近い議員は“吉村系”と呼ぶことにする。

維新は過去に分裂の歴史があるが、大阪府内選出の議員はいつも一枚岩だった。だが今回は、大阪の議員が“馬場系”と“吉村系”に分かれている。ある吉村系議員は取材に対し、「大阪維新はこのままだと分裂する。何とか食い止めなければ」と危機感を募らせる。

「馬場おろし」大阪での作戦会議

吉村系議員らは以前から、馬場氏と藤田文武幹事長(当時)の「高額飲食」に不満を募らせていた。「干されるから言えない。従順になるしかない」との声も漏れ、「強権」とも映った対応が不満に拍車をかけていた。

政治資金規正法の対応巡り経緯説明し陳謝(2024年6月26日 左:馬場伸幸前代表 右:藤田文武前幹事長)
政治資金規正法の対応巡り経緯説明し陳謝(2024年6月26日 左:馬場伸幸前代表 右:藤田文武前幹事長)

空気が一変したのは、6月26日の党内説明会だった。自民党との間で、政策活動費を廃止せず残した上で領収書の公開を10年後とする合意をした馬場執行部に、吉村氏と吉村系議員らが噛みついた。馬場氏が「今それを言うてるんやんけ!」などと声を荒らげる場面もあったが、“中立系”議員からも異論が続出し、政策活動費廃止への方針転換を余儀なくされた。

衆院選が近づくと、「馬場代表を代えなければ戦えない」と、党内に危機感が広がった。9月18日、猪瀬直樹参院幹事長が大阪に向かう。吉村氏のほか、大阪選出の浅田均参院会長、東徹参院議員(当時)も同席し、非維新系の大阪・大東市長が進める、健康寿命を伸ばす取り組みの勉強会をした。市長が帰った後、夜の会合で「馬場おろし」の話題になったという。

しかし党規約の仕組み上、「衆院選が終わらないと代表を代える手段がない」との結論に達したため、「高額飲食」を追及する方針に転換した。その1週間後、9月25日の幹部会合で浅田氏と猪瀬氏は、「政策活動費がどのように使われてきたか、チェックする党内チームが必要だ」と、馬場氏に迫ったのだ。

この直後、筆者はある吉村系議員に、「謀反を起こすのか。前原さんも同じ考え方か」と聞いてみた。その議員は、「考える方向性はだいたい一緒だが、前原さんは党の“顔”になる人。巻き込んだらかわいそうだ」と語った。今思えば、吉村新体制で国会議員団の代表に前原氏が就くことを、暗示していたようにも感じる。

「クーデター」勃発 荒れる会合

10月27日の衆院選で、維新は比例代表で約300万票を失い、6議席の減となった。ただ、代表だった馬場氏は、大阪での全勝や、京都、滋賀、広島、福岡の小選挙区での勝利を強調し、辞任を否定した。

報道陣を前にしての幹部会合で代表と選対本部長の退陣要求に踏み切った浅田均氏(2024年10月30日)
報道陣を前にしての幹部会合で代表と選対本部長の退陣要求に踏み切った浅田均氏(2024年10月30日)

ここでまた浅田氏が動き出す。10月30日の幹部会合で、「あれだけ負けたのに誰も責任を取らない。代表と選対本部長(=幹事長)くらいは、辞意を表すべきだ」と、報道陣を前にしての退陣要求に踏み切った。目の前で起きた「クーデター」に、速報原稿を打つ手が震えた。

報道陣が退出し会合が非公開となった後、さらに激しい応酬があった。出席者によると、猪瀬氏も「即退陣すべきだ」と要求し、馬場氏が「特別国会はすぐ迫っている。こんな時に辞められない。国会スケジュールを知らないのか」と反論した。

藤田氏も「規約も知らない人がそういうことを言うのは、いかがなものか」などと反撃したという。維新の党規約では、衆院選・参院選・統一地方選の後に、代表選を行うかどうかを特別党員(国会議員・地方議員・首長・候補者)に諮る仕組みになっている。

党内に衝撃「馬場の目にも涙」

投票の結果、代表選を行うことが決まった11月6日、馬場氏はSNSで不出馬を表明した。馬場系議員からは、「実は馬場さんは、衆院選の直後には辞めると決めていた」という美談も流れた。

最後の会見で馬場氏の目には涙が浮かんでいた(2024年11月29日)
最後の会見で馬場氏の目には涙が浮かんでいた(2024年11月29日)

11月29日、馬場氏最後の会見で、「実績と反省点」を質問してみた。馬場氏は「できることは一生懸命やってきた。みんなが支えてくれた…」と語ったところで、その目に光るものが浮かんだ。衆院で11議席しかなかった維新の「冬の時代」に話が及ぶと、何度もハンカチで涙を拭った。

普段は明るい馬場氏の涙に、「そこまでの思いで仕事に取り組んでいたのか」「もらい泣きして会見動画をまともに見られない」などと、馬場系議員のみならず、党内に感動の輪のようなものが広がった。

だが、吉村氏に対する圧倒的な期待感は変わらなかった。代表選では4人が争い、約8割の支持を得た吉村氏が、新代表に選ばれた。

結束なるか 前原氏の手腕は

吉村氏は大阪府知事なので、国会にはいない。それに代わる国会の顔として、前原氏が共同代表に就任した。幹事長、政調会長、総務会長、国対委員長はみな若手議員になった。

すると新執行部が物事を決めるたびに、馬場系議員が裏で批判する状況が続いた。政府の補正予算案に賛成したときには、報道陣の目の前で、馬場系の浦野靖人衆院議員から「口約束で決めるほど、我が党の賛否は軽いのか」と、厳しい批判が飛び出した。

両院議員総会後に囲みインタビューに臨む前原共同代表(2024年12月12日)
両院議員総会後に囲みインタビューに臨む前原共同代表(2024年12月12日)

前原氏は、調査研究広報滞在費(旧文通費)の改革や、政策活動費の廃止について、事あるごとに「馬場前代表や旧執行部のご努力のおかげ」と繰り返す。馬場系議員らとの決定的な対立を避けたい思惑が見える。

馬場系と吉村系に分かれていると言っても、所属議員には、どちらにも属さない“中立系”が多い。前原氏は代表選で、吉村陣営の会合に出席していたが、それまで2人に特段の関係性があったわけではない。むしろ馬場氏の方とは、昼夜問わず何度も語り合った仲だから、前原氏も“中立系”と呼べるかもしれない。

前原氏はその立場を生かし、党内をひとつにまとめ上げることができるのか。様々な党の代表職を何度も務めた、国会議員生活31年のベテランの手腕に、全てが懸かっている。
(フジテレビ政治部 鈴木祐輔<関西テレビ>)

鈴木祐輔
鈴木祐輔

2001年関西テレビ入社。制作局、経理局を経て報道局へ。
2012年には行政キャップとして大阪市長だった橋下徹氏や日本維新の会の結党を取材。
大阪府警キャップ、編集長などを経験し、現在は東京駐在記者として、フジテレビ政治部で野党担当。

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総理大臣、官房長官の動向をフォローする官邸クラブ。平河クラブは自民党、公明党を、野党クラブは、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会など野党勢を取材。内閣府担当は、少子化問題から、宇宙、化学問題まで、多岐に渡る分野を、細かくフォローする。外務省クラブは、日々刻々と変化する、外交問題を取材、人事院も取材対象となっている。政界から財界、官界まで、政治部の取材分野は広いと言えます。