ソニー・コンピュータエンタテインメント(現:ソニー・インタラクティブエンタテインメント)が誇る携帯ゲーム機「PlayStation Portable(PSP)」。
本デバイス向けに様々な企業からゲームが発売されましたが、いわゆるファーストパーティーと呼ばれる立場のソニーも既存・新規IPタイトルとしてPSP向けに『どこでもいっしょ(リメイク版)』『ロコロコ』『パタポン』『無限回廊』などをリリースしていました。
同社が提供するサブスクリプション「PlayStation Plus」のプレミアプラン向けサービス「クラシックスカタログ」では、多くのPSPタイトルがPlayStation4/5で遊ぶことが可能です。
しかし、そんな中でこれまでも、そしてこれからもカタログに追加されないであろうソニー製PSPタイトルが一つあります。…その名は『バイトヘル2000』。
本作はバンド「電気グルーヴ」のメンバーであり、俳優・声優のピエール瀧氏がディレクションをつとめたミニゲーム集です。同バンドがプロデュースしたゲーム『グルーヴ地獄V』の続編的な作品であり、“くだらないのに、やめられない。”というキャッチコピーの通り、どこか笑える、中々に中毒性のある“バカゲー”が40種類も収録されています。
後にダウンロード版だけでなく、ミニゲームをいくつかセットにして分割したバラ売り版もリリースされましたが、ピエール瀧氏が麻薬取締法違反の容疑で逮捕された影響か、いずれも販売停止されてしまいました。
同氏のゲームが発売されていた背景には、電気グルーヴがソニー・ミュージックアーティスツと契約していたことも考えられますが、上記一件から解約されています。
今では新規ユーザーはPSPで物理媒体であるUMD版でしか遊べない作品となってしまった『バイトヘル2000』。ゲームの復活は絶望的かつ公式サイトも閲覧不可能な本作ですが、ミニゲーム自体のクオリティは高く、『人喰いの大鷲トリコ』『Last Labyrinth』『モンスターファーム』に携わった渡邉哲也氏がゲームデザイナーを務めているなど注目すべき点もあります。
PlayStation Storeから消え、作品として古いせいか公式サイトも残っていない本作。事情が事情とはいえ、“ゲーム史に残る一作ではあったのではないか”、そんな思いを込めて本記事では、筆者の独断と偏見で選別したミニゲームを4種類+α紹介していきます。
なお、本記事掲載の画像はPSP実機の外部出力機能を使い、キャプチャーボードで記録したものです。
本当に市民はこいつでいいのか「酔いどれ市長」世界を救え
本作に収録された数々のミニゲームにおいて、“バカゲー”という側面で筆者がイチオシなのが「酔いどれ市長」です。本ミニゲームはチーバシティの市長として、ハサミでセレモニーのテープカットを行う内容となっています。
ハサミでテープを切るだけなら簡単…と言いたいところですが、問題となるのがこの市長の酒癖の悪さです。セレモニーという重要場面に酔っぱらった状態で登場し、ハサミをテープに持っていこうとするも、千鳥足で照準が合わせられません。
そこでプレイヤーは、ぐでんぐでんに酔った市長の挙動を上手く制御し、テープカットを成功させていくことに。この時点で既にバカバカしいのですが、最初は小学校のプール落成式から駅の新線開通式とランクアップしていき、イージス艦進水式と規模が拡大します。
何故かテープカットの度、画面右下に表示されるビールのマークが増加&酔いの状態も悪化するため、“市長が悪びれもせず酒を飲み続けている”ほか、“全て同日に行われている可能性”も示唆されているなど、ツッコミどころ満載です。
また、最終ステージではチーバシティ防衛軍の地下要塞で核戦争を回避するためボタンを押すという、泥酔状態の人間に任せていいとはとても思えないシチュエーションに発展。本ミニゲームは短いながらもゲーム性とドラマ性を両立した、“バカゲー”としての完成度で際立っていると筆者は考えます。
まさかのクラシックが原作「魔王」縦スクロールACTゲーム化した挑戦作
古今東西、アニメ化やドラマ化など、様々な作品が原作とは別メディアで再解釈されるのは今に始まったことではありませんが、本ミニゲームは“クラッシック音楽「魔王」そのものをゲーム化”した挑戦作です。
「魔王」とは、オーストリアの作曲家シューベルトによる歌曲です。ドイツの文学者ゲーテの詩を歌詞としており、日本では中学校の授業で知った人が多いかもしれません。
歌詞は概ね、“息子を抱いて、宿に向かって馬を駆けらせる父親。子は自身を連れ去ろうとする魔王の存在を訴えるが、父親は否定する。しかし、宿へ着いた頃に息子は息絶えていた。”というストーリーとなっています。
本ミニゲームはそんな「魔王」を歌詞に沿って縦スクロールACT化。プレイヤーは馬を操作し、障害物や魔王が繰り出す幻影を避け、息子の体力が無くなる前に宿へたどり着かなければいけません。
BGMには原作「魔王」の邦訳版を採用しており、少しずつやつれていく我が子の顔が表示されるUIなど、“真剣な気合の入れよう”が一周回って面白い、他ミニゲームとは別ベクトルの“バカゲー”となっています。
ゲームとしては障害物を含めたステージ構成が固定されているため、練習すればするほどクリアに近づくことができる設計です。しかし、筆者個人としては不満が一点だけ存在。本ミニゲームは後半から障害物が増え、魔王の妨害が激しくなるのですが、途中から木の葉のような幻影が縦横無尽に飛び交い、我が子の体力を削ってきます。
あまりの頻度に『ロックマン2』の「ウッドマン」でも潜んでいるのかとツッコミを入れたくなるほどです。これが障害物の多さと合わさって、回避不可能なダメージを受けることも多々あり、終盤は少し理不尽さを感じてしまいます。
鬼畜…否、魔王のような難度を誇る本ミニゲームですが、その分、先に進めた際の達成感も格別です。
幕間―ハズレとドウグ
記事の途中ですが、『バイトヘル2000』にはミニゲーム以外の魅力もあるため、この機会にご紹介。本作は収録されたミニゲームを“バイト”という体でプレイし、そのクリア状況などに応じて報酬を貰えます。
貰った報酬はゲーム内の「ガチャガチャ」を引くのに使うことができ、排出されるアイテムは「バイト」「ハズレ」「ドウグ」の3種類です。基本的に“新しい「バイト」=ミニゲーム”が当たりといえますが、それ以外にも楽しい工夫が凝らされています。
例えば「ハズレ」は作中のミニゲームに縁のある品から全く関係のない品まで、妙に力の入った説明付きで何と448種類も存在。ヤンキーが校正プログラムの一環で模写させられた「魔王の楽譜」や、キンケシ…にそっくりな「マッスルマン消しゴム」など、クスリとしてしまうアイテムが沢山用意されています。
一方「ドウグ」については、実際に役立つソフトから使い道に困るツールまで実装されており、水着姿の男女が数分間コメントしながらポーズをとったりする「ラーメンタイマー」、世界中の時刻を同時に比較できる「世界時計デラックス」、王様ゲームのバツゲームを代わりに決める「王様ゲーム支援ツール~大臣~」等など、アイデアに富んだラインナップです。
開始して即ボス戦!横STG「ボスキャラの敵」思わぬ罠に泣きを見る
「ボスキャラの敵」とは、その名の通り、いきなりボス戦から始まる形式の横シューティング(STG)のミニゲームです。内容はいたってシンプル、自機であるスペースシップを操作して、ボスキャラの弱点を攻撃して倒す、そして次のボスキャラへ…という流れをクリアまで繰り返すことになります。
本ミニゲームは随所に往年の横STGパロディが見られ、『R-TYPE』ライクなボスも登場します。また、ゲーム部分をみると、敵の弾幕が激しい一方、自機の当たり判定が大きいため、“臨機応変に敵の弾を避ける”というよりは、“パターンを覚え、安全地帯を探す”タイプの攻略が基本的に有効です。意外と無理に見えて、やり込めば何とかなる作りで何度も挑戦したくなります。
ちなみに、筆者は今回のプレイで当時できなかった2体目のボス討伐を達成したものの、その後出現したパワーアップアイテム…に見える“Pマークのボス”に即撃破され撤退。本作の遊び心にやられた…!
単体でゲーム化!?「デモ行進」PS5にも面影残る大行列アクション
大勢が行列を作り、主張や意思表示を行うデモ行進。「デモ行進」は、2024年の日本でも見られる、本活動をミニゲーム化したものとなっています。
ルールはいたってシンプル、デモの集会を成功させるため、建物から人を勧誘し、出来るだけ多くの参加者を中央の公園に集めるゲームです。参加者が増えるほど行列が長くなりますが、建物の周囲には機動隊が巡回。参加者が触れれば行列が弾圧され解散、プレイヤーが触れれば即逮捕でゲームオーバーになってしまいます。
本ミニゲームは制限時間のなか、いかに機動隊を避け、ハイスコア(最大参加人数)を獲得できるかが肝となっており、遠くの建物ほど参加者を多く獲得できたり、機動隊にも巡回パターンが2通りあったりと、中々に中毒性のある楽しさです。
他の収録作と比べ、“おバカさ”が欠けるように思える本ミニゲームですが、同じくピエール瀧氏と渡邉哲也氏が携わったPlayStation3向け大行列アクション『The Last Guy』の原型と見られる作品でもあります。
『The Last Guy』とは、航空写真を使った浅草やロンドンといったステージにて、世界レスキュー連合に任命されたプレイヤーがゾンビから人々を導き、救うゲームです。
基礎システムは「デモ行進」とほぼ同一ですが、宣伝されている開発担当が「ヒンダスタン・エレクトロニクスカンパニー」なる恐らく実在しない会社になっており、インタビュー動画まで用意されているなど、おふざけ全開(海外ではSCEジャパンスタジオ開発と記載)。
「デモ行進」単体で見ると、“バカゲー”度は他ミニゲームに見劣りするかもしれませんが、“別のバカゲーにバトンを繋げた”という点は注目に値するでしょう。
なお『The Last Guy』は、PlayStation5向け無料ゲーム『ASTRO's PLAYROOM』に同名のトロフィーが存在し、解放条件も『The Last Guy』を彷彿されるものに。大元がPSP時代の「デモ行進」と考えると、感慨深いものがあります。
ちなみに、本ミニゲームで行われたデモの理由は、公式関連サイト曰く“「虎縞パンツ着用強制反対」とかがテーマだったかな…?”とのことです。
終わる前に触れておきたいミニゲームを一気に紹介
これで本記事は以上…と言いたいところですが、流石に4/40種類の紹介では少なすぎるため、筆者として最低限、“これには触れておきたい!”と感じるミニゲームを一気に紹介します。
「みんなのGOLF場ボール拾い」
ソニー発売のゴルフゲーム『みんなのGOLF』…と関係があるような無いような、ゴルフ場のロストボールを拾い続けるだけのミニゲームです。
PSP向けに『みんなのGOLF場』なるシリーズも展開されているため、こちらの方が関係ある…かもしれません。
「ジャンケン世界大会」
ただジャンケンの世界大会を勝ち抜くだけのゲーム。プロフィールや過去の戦績から相手の手を読んで戦っていく必要があり、無駄に壮大な演出もあって熱くなってしまいます。なお、“世界大会”の優勝賞金は1,000円です。
「授業中」
広げた手の指と指の間をキリで突いていく度胸試しゲームです。キリはやり過ぎ…と思われるも、海外では「Five Finger Fillet」等の名で知られるナイフを使った類似の度胸試しが存在し、『レッド・デッド・リデンプション』シリーズにもミニゲームで登場。流石の教師でも、授業中にこんなことをしている人がいたら注意できなさそう。
「ひよこ鑑定」
ヒヨコをオス、メス、天国(死にヒヨコ)で振り分けていくゲーム。技術を要することでも知られている“ヒヨコ鑑定士”ですが、本ミニゲームのヒヨコはリボンの有無で性別をアピールしてくる簡単仕様です。
筆者はプレイするうち、手が勝手にヒヨコを仕分けるフロー状態になるため、なんだか少し“いけないこと”をしている気持ちになります。なお、死にヒヨコは天国に仕分ける必要がありますが、間違って生きているヒヨコを送らないよう注意。
「交通量調査2」
道路の通行人をカウントするだけのミニゲーム。『グルーヴ地獄V』実装のミニゲームの続編でもあります。ドゥームガイ…にそっくりな誰かが登場しますが、公式関連サイトを見る限り、公園で昼間から泥酔している鬼軍曹キャラらしいです。
「ハッピースナイパーG」
指令を受け、標的の人物を幸せ弾で狙撃するゲームです。指令には髪型や服装が書かれており、似ている人を撃たないよう注意する必要があります。
タイトル画面にはコードネームに13が付いてそうな、有名スナイパーによく似た誰かが登場。「HAPPY汁」なる、本当に人体に安全なのか怪しい何かを装填した銃を構えています。
スライムならぬ「スラ仏(ほとけ)」と戦い続けるRPGや、暴走するファンを投げまくる爽快ACTなど、まだまだ紹介したい作品はありますが、本特集は以上です。
前述のとおり復刻の可能性は低いものの、他作品では味わいにくい、独特の魅力があるため、筆者個人としては本作の置かれた状況に納得しつつも、一抹の寂しさを感じます。
執筆時点で本作の中古市場価格は1,000円前後と、まだオススメできる範囲。残りのミニゲームも含め、興味のある方は手に取ってみてはいかがでしょうか。
※UPDATE(2024/09/08 17:50):見出しの誤字等を修正しました。コメント欄でのご指摘ありがとうございます。