電子ってふたつに分離できるんだね

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電子ってふたつに分離できるんだね

ずっと電子は素粒子(構成パーツや下部構造を持たない最小の単位)と思われてきましたが、なんとふたつのパーツに分かれることが実験で確認され、物理学者の粒子の基礎認識に見直しが迫られていますですよ。

実験では電子がふたつの別々のパーツに分かれ、それぞれ電子の異なる特性を帯びていることが分かりました。

まず1個目は「スピノン(spinon)」で、電子がコンパスの軸みたいな挙動を示す原因となるスピンの属性を持っています。

そして2個目は「オービトン(orbiton)」。電子が原子核周辺を動き続ける原因となる軌道のモーメント(軌道角運動量)の属性を持っています。

実験を行った研究員のひとり、ヨルン・ヴァンデン・ブリンク(Jeroen van den Brink)さんは「Nature」今週号掲載の実験報告でこう説明していますよ。

ある特定のマテリアル(物質)の中で電子の分離が理論上起こり得ることは前から知られていたが、独立したスピノンとオービトンに分かれることを裏付ける実験的証拠はこれまで無かった。今回我々は具体的にどこを探せばそれが見つかるか解明した。今回見つかったような新たな粒子は、今後もっと他のたくさんのマテリアルの中にも見つけられるだろう。

因みに実験で分離が確認されたのは銅酸化物のSr2CuO3(準一次元モット絶縁体の銅酸ストロンチウム)。中の粒子が前か後ろどちらか一方向にしか動けない縛りのかかってる、ちょっと異色なマテリアルですね。電子分離はマテリアル中の粒子のエネルギーとモメンタム(運動量)を測るX線を使って計測しました。(追:銅酸ストロンチウムで共鳴非弾性X線散乱をさせ、さらに電子軌道の自由度[オービトン]が分かれることを観測した。オービトンがスピノンから飛び出してきて明確な準粒子として結晶格子を伝播したことを解明した、という意味だそうです。source:園部様)

電子の分離は起こり得るんですが、2つに分かれたパーツは分離後も、分離が起こるマテリアルから外に逃れることはできない、とのこと。まあ、それでもこれは我々の超電導の認識を塗り替える発見だし、ゆくゆく高温超電導をぐんと現実に近づけてくれる可能性まで秘めた進展には違いありません。量子コンピューティング実現の未来は、きっとこうした研究の延長線上にあるんでしょうね。

[Nature via PhysOrg]

Image by David Hilf

JAMIE CONDLIFFE(原文/satomi)