ビットコイン開発者サトシ・ナカモトの正体判明?

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ビットコイン開発者サトシ・ナカモトの正体判明?

あのサトシは別人だったのか…

ノーベル賞にもノミネートされたビットコイン伝説の開発者サトシ・ナカモトの正体が、米Gizmodoの1カ月におよぶ取材で明らかになりました。

タレコミの情報の裏とりをした結果では、ひとりは豪シドニー在住ビジネスマンのCraig Steven Wrightさん、あとひとりは2013年に故人となった米国のデジタル科学捜査の専門家Dave Kleimanさんです。

初報は米ワイヤードに先を越されてしまいましたが、米Gizmodoも似た情報を追っており、数日前にはシドニーに住むWrightさんの事業パートナーとフロリダ州パームビーチに住むKleimanさんの親友にも直に取材を断行。Wrightさんが「Kleimanさんと2人でビットコインの開発に関わっていた」と言っていた、というオンレコ証言もとれたばかりでした。

**********************登場人物**************************

サトシ・ナカモト…ノーベル賞にノミネートされた、ビットコインの開発者。「サトシ・ナカモト」は偽名で、正体は不明とされてきた。Craig Steven Wright…シドニー在住のビジネスマン。米Gizmodoが、彼こそサトシ・ナカモトではないかと取材を行った人物。Dave Kleiman…アメリカのデジタル科学捜査専門家で、Wright氏の友人。2013年に亡くなっている。Andrew Sommer…シドニーの法律事務所「Clayton Utz」の弁護士。Wright氏の法律顧問を務めたことがある。Lynn…Wright氏の元妻。Romana Watts…Wright氏の現在の妻。Wright氏の会社「DeMorgan」の役員でもある。John Chesher…Wright氏が経営する会社の会計士。Ann Wrightson…Wright氏が経営する「DeMorgan」の元社員。Adam Westwood…オーストラリア税務局の役人。ビットコイン関連会社を規制し、Wright氏が目の敵にしていたらしい。Patrick Paige…Kleiman氏がパートナーを務めるアメリカの会社「Computer Forensics, LLC」の共同経営者。Carter Conrad…Paige氏と同様、「Computer Forensics, LLC」の共同経営者。Jeremy Gardner…長年ビットコイン投資を行っている人物。Shyaam Sundhar…コンピュータセキュリティの専門家。Wright氏、Kleiman氏とHDDの学術論文を共同執筆した。Ira Kleiman…Dave Kleiman氏の実の兄弟。ひとりを好む、ガードの固い人物らしい。

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米Gizmodo編集部にメールでタレコミがあったのは11月はじめ。送信主は「サトシ・ナカモトの素性を知っている。その下で働いたこともある」という匿名の人物です。

「サトシ・ナカモトをハックした。これらのファイルはすべて彼のビジネスアカウントから引き出したものだ。彼の本名はCraig Wright博士」

…というメッセージがまず届き、続いて博士のOutlookアカウントから抽出したと思しいメールファイルの山が届きました。Craig Wright博士は学位と会社をいろいろ持っているコンピュータ工学の専門家であり連続起業家です。

調べてみるとなるほど去年、Wrightさんは「世界初のビットコイン銀行」を創設する計画を明らかにしています。LinkedInにある肩書きはDeMorgan社CEO。同社のサイトには「オルタナティブ通貨、次世代バンキング、セキュリティ評価&教育関連プロダクト、シンプルなUX実現が専門分野」とあり、子会社にはビットコインウォレット会社「C01n」、ビットコイン市場「Coin-Exch」、先述のビットコイン銀行「Denariuz」、世界最高クラスのスパコンなどが名を連ねています。

編集部に送られてきたメールと文書からはもうひとりの人物、元米軍兵士のKleimanさんとの密なつきあいが伺えます。Kleimanさんは1995年のバイク事故で車いすの生活になり、アームチェア探偵ならぬ孤高のデジタル科学捜査官となりました。最後は床ずれで感染死。惨めなものでした。遺体は腐乱が進み、辺りを空の酒瓶がぐるりと囲み、弾を込めた拳銃も置かれていました。床には血便の痕。マットレスには銃痕(空薬莢はなし)。 そんな状態でしたが編集部が入手した資料を見ると、何億円にも相当するビットコインの蓄えがあり、Wrightさんのプランにも深く関与していたことがわかります。2011年のメールでKleimanさんはこう書いてます。

「Craig、あんた本当に頭イカれてると思うし、これは危ない橋だと思う。だが俺らが今やろうとしてることは正しい、そう信じてるよ」

サトシ・ナカモトの正体探しは幽霊のしっぽを掴むようなもので、ニューヨーク・タイムズ、Fast Company、ザ・ニューヨーカー…全部ことごとく失敗しています。 証拠不十分か、名指しされた本人が否定するかで。中でも史上最悪だったのが、2014年のニューズウィーク報道「The Face Behind Bitcoin」です。本名Satoshi Nakamotoなのに通称Dorianで通してるカリフォルニアのオッサンがビットコイン開発者のSatoshi Nakamotoだった!!!とやって世界中のマスコミが大騒ぎになったんですが、Dorianさんは「自分は確かにサトシ・ナカモトって名前だがあのサトシ・ナカモトではない」と否定を繰り返し、しまいには法的措置も辞さないと脅しはじめ、ニューズウィークは信用丸つぶれとなりました。

つまりサトシ・ナカモトはまだこの世界のどこかにいるんです。

Bitcoinは自由経済市場を覆すまでにはいってないですけど、クリプト・リバタリアンの思い描くユートピアはまだまだ消える気配もありません。国境を越えて利用者を広げており、2019年には世界利用500万人に達するとのアナリスト予想もあります。暗号オタクのニッチな市場と思うかもしれませんが、これだけ骨太な社会現象を企てるのはよほどの天才か、天才集団です。2009年には1コイン数円相当だったデジタル通貨がたったの4年で 1,200ドルに変わる。そのネットワーク上では世界中どこでもメール送信と同じ感覚で簡単に送金ができる。世界の金融システムをたちまち過去のものに変える枠組み。 もし仮に自分から名乗り出たらサトシ・ナカモトは、今コンピュータサイエンス界で現存する最も偉大なブレインと崇められ、絶え間ない国際監視網に置かれること必定でしょう。

Craig Wrightさんは俺様タイプの人で、量産した会社のひとつ「Panopticrypt」のサイトでは、「世界で最も権威のあるITセキュリティのエキスパート」と自己紹介しちゃってます。2013年5月のブログ記事「Morning Manifesto」では、こう世界に宣言していますよ。

俺はおまえたちが考えたこともない問題にソリューションをつくる。おまえたちの助けも、国の許可も要らない! それでおまえたちのアイディアはことごとく失敗するだろう。いくら止められても俺はつくることをやめないからだ。俺は誰かの施しで生きるのはまっぴらだし、施しは受けない。おまえたちに暴力も振るわない。ただおまえたちは違う。この俺を止めたかったら、暴力以外に術はないだろう。

2015年10月末ベガスで開かれたビットコイン投資家会議のパネルディスカッション(長年サトシと疑われているNick Szabo氏も出席した)で冒頭、Wrightさんはこう自己紹介していますよ。

Wrightさん「誰もが不可能と思っていることを、いろいろやってます」(1:30-)

司会「つまりあなたは何者なんでしょう? もっとわかるようにお願いします」

W「まあ、なんでもひと通りかじってるんですよ…法律の修士号もとったし、統計学の修士号もとった。博士号も何個か持ってます。最近では何とったか忘れてしまうぐらいです」

司会「ビットコインを知ったきっかけは?」

W「うーん…すべてに長年関わってきました。なるべく目立たないようにしてます」(2:28-)

「だからなんなんだよ!」と言われちゃうと、まあね、状況証拠ですけどね。ただハックされたメールや文書(もし本物なら)ではWrightさん、自分がサトシ・ナカモトだって2008年から何度も言ってるんです。2008年というと、あのビットコインを世に知らしめた伝説の白書が発表される遥か前です。

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あと、これは決定打だなと思ったのが、2014年1月8日に仲間3人に出したメールで、差出人がsatoshi@vistomail.comなんですよお。これは紛れもなく、コイン黎明期にサトシ・ナカモトがユーザー、開発者とのやりとりで使っていたメアド!「将来の不安」というスレではオーストラリアのArthur Sinodinos議員にビットコイン規制問題でロビー活動するプランを提起しています。

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署名のSatoshi Nakamotoの電話番号、これもWrightさんのもの。返信の欄にあるメアドもググッてみたらWrightさんのものでした。当時の法律顧問だったシドニー市内の法律事務所「Clayton Utz」のAndrew Sommerさんからの返事も宛て先はWrightさんになってます。

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ハッカーから得た資料には、オーストラリアの税務局(ATO)と弁護士を交えてビットコイン規制について話し合ったときの議事録のPDFもありました。Wrightさんはビットコイン所得を資産(税率が高い)ではなく通貨として扱うよう豪政府に働きかけていたようです。政府の介入が得られなければ、ビジネスの旨味はないということで。その会合の合間にWrightさんは、自分がサトシだと、ポロッと認めてます。

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「2009年からビットコインやってることはひた隠しにしてきたけれど、結局最後にはバレちゃうんだろうな」

テープ起こしした「Auscript」社(ロゴが出ている)に文書が本物かどうか問い合わせてみたら、会社の規約違反、国の機密情報秘匿義務違反になるから答えられない、ということでした。151209satoshi-e.jpg

Wrightさんに何度も電話取材してわかったことは、少なくともこの議事録は捏造じゃないってことです。11月の最初の電話では「(文書のことも、自分がサトシ・ナカモトかどうかについても)答えられない」とにべもなかったんですが、次の電話でメールを読み上げてみたら急に声のトーンが変わって、「どこでそんなもの入手したんだ?」、「絶対渡るわけないのに」と口走り、最初のメールのCC欄の人たちは自分のお抱え弁護士、会計士、DeMorgan Ltdの同僚だよって言ってました。あとはいくら電話してもメールしてもなしのつぶて。ツイッターアカウントも非公開モードになってしまいました。

弁護士のAndrew Sommerさんもメールと議事録についてはノーコメント(Wrightさんがクライアントだったということは認めた)。

Wrightさんの元妻Lynnさんに電話取材してみたら、そういえばBitcoinやってたけど、それは「何年も何年も昔」のことだし、最初は「ビットコイン」なんて呼んでなくて、「デジタルマネー」って呼んでたわよ、と教えてくれました。Dave Kleimanさんと友だちだったことも確認がとれました。「Daveのことは覚えてます…友だちで、なんかいろいろ話してましたね、ギークな世界の話をね。半分も聞いてなかったけど。そんな調子だからエックス(別れた妻)になっちゃったのね」。で、ずばりどうなのか、ビットコイン開発者なのかと尋ねたら、「ノーコメント。今の話で全部です」とのお答えでした。

しょうがないので取材班は自宅に突撃。現在の奥さんは氏の会社「DeMorgan」の役員のRamona Wattsさんで、Satoshi@vistomail.comのメールの宛て先にも名前が出ている人です。シドニー北部の高級住宅街のご自宅で戸口に出てくれたことは出てくれたんですが、こちらもビットコイン開発者なのかと尋ねたら、笑ってドアを閉めてしまいました。

笑ってドアを締める現夫人

Wrightさんの会計士のJohn Chesherさんもサトシのメールの宛て先で、税務署の会議に同席した人です。アパートのインターフォンで「Wrightさんからサトシ・ナカモトのアドレスでメールがきたことありませんか?」と聞いたら、「あったかも。何年も昔にね」と返答。 「Wrightさんがサトシ並みにビットコイン資産を抱え持ってると税務署に言ったことはありませんか?」と聞いたら、また「あったかもね」と言ってました。

Wrightさんの元社員で税務署の会議に同席したAnn Wrightsonさんからは、確かに会議はあったと確認がとれました。でもWrightさん夫妻とはもう没交渉でずっとハッピーだって言ってましたよ。「彼はいい人なんだけど、ビジネスでは…そうでもないっていうか。…ああはなりたくないなって思います」。試しにビットコイン発明者なのかって聞いてみたら、「彼を犯罪者にするのは嫌だし、自分で自分を犯罪者だって言うのも嫌。記者なんでしょ、ほかに答えてくれる人、見つけようよ」と言われてしまいました。

早速Wrightさんの会社「DeMorgan」にも取材を決行。社員の方がドアを開けてくれたんですが、奥の方でRamona Watts夫人が口止めし、すごすごと退散です。

サトシ・ナカモトが白書でビットコイン構想を発表した数カ月前の2008年3月28日、Wrightさんは「電子マネーの新しいかたち」についてKleimanさんに初めて相談しています。「君の助けが要るんだ。こういうことがうまくできるバージョンの自分さ」と言って。

それから数年後。ビットコインの価値が爆発的に急騰し、通貨が世界の知るところとなり、サトシ・ナカモトのオンラインアカウントが消える数カ月前、Wrightさんは心底疲れ切った様子でKleimanさんにこうこぼしてます。「もうこれ以上、サトシはやってられない。やつらも言うこと聞いてくれない。伝説のまま終わるのが一番だ」

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ハッカーが提供してくれたpdfファイルには、インド洋の悪名高いタックスヘイヴンにWrightさんとKleimanさん共同で極秘のビットコインのファンドを設立する契約書の草案(未完)もありました。契約書には、トラスト管理用のPGPキー(メールの暗号化で使う)が5つあります。一般公開のデータベースで検索してみたら、ひとつはWrightさん、もうひとつはKleimanさん、残り3つのうち2つはサトシ・ナカモトになっていました。

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「私、Dave KleimanはCraig Wright博士から1,100,111ビットコインを受け取った。譲渡時点で時価約$100,000 USD。私はトラストを創設し常時3-7人でこれを管理する。ビットコインはすべて2020年元旦付けで博士に返金するものとする。この返金は会社経営権譲渡というかたちで行う。会社とファンドはセーシェル島で保有・管理する。」

ビットコイン専門家としてメディアでお馴染みのSergio Demian Lernerさんたちの試算によれば、サトシ・ナカモトが抱える伝説のビットコイン資産は大体100万BTCですから、このセーシェル島のファンド契約書の数字とほぼ合ってます。

ただ、この契約書には草案のせいか、いろいろ妙なところもあります。まず契約書の日付けは6月9日で、その日のビットコイン相場は約$31でした。つまり100万ビットコインは3100万米ドルです。ところがここでは$100,000ぽっきりと書かれているんですよね…。

また、契約書にはWrightさんが倒産の危機に瀕していると書かれているんですが、豪州の公けの文書に当ってみたところ、Wrightさんは確かに2006年に自己破産を申請したんですが却下されており、2011年に破産申請したなどという記録はどこにも見当たりませんでした。

Kleimanさんが死んだ場合には、「死亡から15カ月後にWright博士が望めば、トラストの持ち分と会社は博士に返却される」とあります。ところがWrightさんが死んだ場合には妻のRamona Wattsさんに行くんです。そこから「オーストラリア税務局のAdam Westwood氏(ビットコイン関連会社を規制した役人としてWrightさんが目の敵にしていた)の嘘と不正を暴く経費」を差し引いて。最後のところには白書発表に使われたメール「satoshin@gmx.com」の出元については一切口外しない、という項目もあります。

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いざ2013年にKleimanさんが亡くなると、Kleimanさんがパートナーを務めるパームビーチ・カウンティの会社「Computer Forensics, LLC」の共同経営者のPatrick PaigeさんとCarter Conradさんのところには、Wrightさんからヘンなメールが続けざまに届き、「ひょっとしてサトシ・ナカモトなんじゃないの?」と疑ったといいます。

ふたりは死の数日後、Kleimanさんのパソコン仲間に訃報を流しました。ふたりによると、Kleimanさんは1995年、郡保安官事務所で働いていた頃にバイク事故に遭い、胸から下が不随になり、晩年はMRSA感染で3年近く入院生活でした。最後は医師が止めるのもきかずに自宅に戻って、数週間後に感染で心停止となって亡くなったのだといいます。

もともと座職だったのが入院でさらにひどくなり、「あいつ、パソコンはノンストップだったよ」とPaigeさん。交流関係といっても全部デジタル空間だったので、死んですぐには誰もその死のことは知らなかったのです。

訃報を流した相手のひとりがWrightさんでした。Writeさんのことは、「5年前にハードドライブのデータの上書きの仕組みについて論文を一緒に書いた仕事仲間」ぐらいのことしか知らなかったので、その数日後、WrightさんがYouTubeに追悼動画をアップロードしてるの見た時には心底驚いたそうです。動画でWrightさんはKleimanさんがTV出演したときの映像を次々流して思い出を語り、最後にはこみ上げる涙を堪えて、「Dave Kleimanという人に知り合えたことを誇りに思う。寂しくなるよ、Dave」と語っています(動画は削除されました)。

こういうこともあるんだなあ、と思って数カ月後。今度は豪州から「故人はW&K Info Defense Researchという会社とは法的関係は一切ありません」という文書が届きます。まったく心当たりのない名前だし、別に何もしなくて大丈夫そうだったので、ふたりはそのままにしておきました。

登記簿を調べてみたら、W&Kは2011年パームビーチ・カウンティで設立されており、代表はDave Kleimanさん、所在地は自宅と同じでした。2014年、Kleimanさんの死後、この会社は有限責任会社になり、代表はWrightさんの会社のひとつ「Coin-Exch」に書き換えられていました、「認可された取引業者」として。ハッカーが米ギズモードに渡してくれた税務署の議事録でもW&Kの名前は出てきます。会計士のJohn Chesherさんが「ビットコインのマイニングのためにつくった会社」で、「WrightさんとKleimanさんが共同設立した」と言ってるんざますよ。

議事録で氏はさらに、Wrightさんのビットコイン資産は膨大な金額で、Kleimanさんも同等の資産を形成中だった、と言ってます。

Craig Wrightはビットコインをマイニングしまくった。そして、つくったビットコインをセーシェル島のトラストに預けた。一部はシンガポールにも。この業務は英国内の会社が行った。Craigの資産はおよそ110万ビットコイン。 一時は市場に流通する全ビットコインの10%を掌握していた。Mr Kleimanも同等の金額になっていたはずだが、途中で他界してしまった。

ビットコイン投資歴が長いJeremy Gardnerさん(College Cryptocurrency Network共同創設者)に話を聞いてみたら、サトシひとりでそれだけの資産が形成できたとはとても思えない、「正直言って、誰もその足元にもおよばないのが現実だ」と言っていました。

「ミリオン貯め込める人間がいるとするなら、それはサトシ以外には考えられない。仮にそれに近づく人間がいたとしても(まずいない)、持ち分のかなりの部分は換金してしまっているはずだ(当初の価値の250倍を優に超えるぐらい値上がりしてるからね)」

サトシ・ナカモトが抱え持つ膨大なビットコイン資産。それは想像圏内ですが、驚くのはそれと「同等の金額」をもつ人間がもうひとりいた!っていうくだりですよね。そんなのとても隠し通せるわけがない。まあ、極秘のトラストで管理したら話は別ですが。

さて、Kleimanさん陣営のPaigeさんとConradさんの元には、Wrightさんからますます輪をかけて奇っ怪なメールが届きました。これは米ギズモード編集部も現物を見せてもらったんですが、日付けは2014年2月、死後10カ月のものです。

その中でWrightさんは、故人とはある極秘プロジェクトを一緒にやっていたんだが、その中で故人は途方もない数のビットコインを量産した、それはあまりにも膨大で「とてもメールでは送れないほどだ」と書いてます。そこでひとつ頼みがあるんだが、どうかふたりでKleimanさんのコンピュータを安全な場所に保管しておいてくれはくれないだろうか、と。ついでにハードドライブにwallet.datファイル(ビットコイン現物と所有者のアカウント情報が保管されている)があるかどうかも確かめてもらえるとありがたい、と。その後、電話でPaigeさんはWrightさんに詰め寄りました。これじゃあ何のことかさっぱり意味がわからなん、もっとその提携事業とやらの情報をくれないと困る、と。するとWrightさんは「あんた、信用していいのかな?」と意味深な前置きをし、そしてついに…

Kleimanさんこそがビットコイン発明者だ

と口を割ったのだといいます。まあ、後になって、あの暗号化通貨は集団で開発したもので、Kelimanさんもその仲間のひとりなんだよ、と言い直していたそうですが、仮にその話が本当なら、Kleimanさんは亡くなった2013年4月の時点で相当な資産を蓄えていたことになります。仮にサトシ伝説のミリオンビットコインの半分を保有していたとしても時価ざっと$65,000,000(約79億円)!

もっともWrightさんは、別にカネ目当てじゃなくて、Kleimanさんの資産がデジタル保管庫で埃被ってるんじゃもったいないので、Kleimanさん名義のしかるべき場所に移動して管理したいのだ、とPaigeさんには説明していたようですけどね(契約書が言ってることと微妙に違う)。

Paigeさんはまさか友だちがそんな大金持ちとは夢にも思ってなかったので腰を抜かすほど驚きましたが、後になって冷静になって考えてみれば腑に落ちることだらけでした。PaigeさんはいつもKleimanさんのことを天才、天才と呼んでたし、コンピュータセキュリティのことはめちゃ詳しかったので、ビットコインのプロトコルを(自力なり共同なりで)開発するだけの技能は確かにあったと思うわけですね。

ただ、腑に落ちない点もあります。別の2014年のメールでPaigeさんはWrightさんに、Kleimanさんは1回だけデジタル通貨の話をしたことがあると書いてます。 でも今月の取材では、デジタル通貨の話はただの一度もなかったと言っていて発言に揺れがあります。それにKleimanさんのことをよく知る人たちに取材してみたら、Kleimanさんは家が差し押さえられていて、3年近くの入院で医療費も馬鹿にならないほどかかってて、お金にはすごく困っていたそうなので、もしサトシならとっくの昔に換金してないとおかしい気もします。

2008年にKleimanさん、Wrightさんと学術論文を共同執筆したコンピュータセキュリティの専門家Shyaam Sundharさんにメールで取材したみたら、まさかあり得ない、どっちも考えられないって言ってました。「ふたりとは(論文テーマの)HDDの話しかしたことないよ。今の話はただの噂話だと思いたいね、CraigもDaveも僕にはひと言も教えてくれてないから」

PaigeさんとConradさんはこれ以上深入りすることをやめ、Wrightさんからの電話も止まりました。窓口はKleimanさんの遺産を管理する兄弟になったようでした。「いつかは記者さんがくると思ってた。それに任せればいいやってことにしたんだ」とふたり。

11月、米Gizmodoから取材を受けた後、PaigeさんはWrightさんにメールを出し、Kelimanさんの話を公にする気があるのかと訊ねてみました。するとWrightさんは「まだだ。今はまだあの研究の最終段階だから。記者が嗅ぎまわる前に発表できればいいのだけど」と返事が返ってきたそうです。それからまたメールがきて、「発表するときがきたら、必ずDaveの話もする」と言い足しました。

生前、Kleimanさんはアルミのケースに入ったUSBドライブをいつも肌身離さず持ち歩いていたそうです。もしビットコイン資産やサトシとの関連を裏付ける証拠があるとすれば「絶対あのドライブの中が臭い」と、Paigeさんは睨んでいます。ちなみに死後そのドライブは故人の兄弟Ira Kleimanさんが持ってったそうです。

Ira Kleimanさんに故人のハードドライブ数台を持ってるのかどうか訊ねてみたら、オンレコではノーコメントということでした。知人に取材したら「ひとりが好きで、ガードが固い人」という評判でしたが、実際、取材は電話も対面もNOで、禅問答みたいなメールとSMSを何十往復かして数日かけて取材しました。死後、Wrightさんの方から連絡があって、ふたりでビットコイン開発に関わったと説明は受けたと言ってました。ハッカーが米ギズモード編集部に提供した情報については、それを裏付ける文書を自分もほかのソース複数から入手したとのことですが、その具体的な内容とソース、そしてWrightさんの話が本当だと思うかどうか、についてはノーコメントでした。

*補:登場人物をまとめました。

UPDATE: その後Wrightさんは失踪し、上記の情報にもいろいろ不審な点が出てきました。真相は再び闇の中です。

Top image by Jim Cooke

Sam Biddle and Andy Cush - Gizmodo US, Daniel Strudwick - Australia[原文

(satomi)