「ハリウッドで働く人たちも自分と同じ人間なんだ」
海外でも公開が始まり大ヒットとなっている、『スター・ウォーズ・ストーリー』シリーズの最新作『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』。今回はその劇中に登場するミレニアム・ファルコンなどの3Dモデリングを担当した3Dモデラーの成田昌隆さんにインタビューしてきました。
気になる今作のミレニアム・ファルコンのことはもちろん、46歳で転職しプロの3Dモデラーになった経緯、そこから『スター・ウォーズ』に関わることになった経緯など、いろいろと語っていただきました。
ミレニアム・ファルコンには、戦艦大和の艦橋のパーツが貼り付けられている
──今作ではどんなものの3Dモデルを作られたのですか?
成田昌隆(以下、成田):今回のメインはミレニアム・ファルコンですが、ほかにも建造中のスター・デストロイヤーとか、帝国軍の新型機のTIEガンシップ、AT・ハウラー、2台のスピーダーと1台のスキッフ・バイクなどを担当しています。また、惑星コレリアの街(ハン・ソロの故郷)やフォート・イプソの街も作っていますね。
──ミレニアム・ファルコンはどのようにして作ったのでしょう?
成田:『エピソード4』のオリジナルのミレニアム・ファルコンはキットバッシング(注:既存のプラモデル等のキットのパーツを切り貼りして作ること)で1.7mのモデルが作られたので、今作ではCGで同じようにプラモデルのパーツを再現し、それを貼り付けて作り上げました。たとえば、今回は戦艦大和の艦橋のパーツが貼り付けられているところもあります。オリジナルと同じ制作手法を取ることで『スター・ウォーズ』の世界観を再現しているんです。
今作で登場するのは、みんなが知ってるファルコンの10年前の機体ということもあって、オリジナルの『スター・ウォーズ』のコンセプトを担当したラルフ・マクォーリーのアートをベースに、アートディレクターのジェームズ・クラインがデザインしました。
コンセプト自体はマクウォーリーのアートに近いもので、かなりツルっとしていたのですが、実際に3Dモデルにしてみると物足りないということになって、試行錯誤を繰り返しながら、いろいろなパーツを足して現在の形になりました。 このビフォア(BEFORE)、アフター(AFTER)の写真は日々どうやってデザインを決めていくかの一例を示しています。
──モデルを作るに当たって、事前に映画のどこに登場するかみたいな情報って貰えるんですか?
成田:モデルを制作するのはプロダクションの初期段階なので、劇中にどうやって登場するかはわかりません。なので作ったあとで、「ここがアップになるからディティールをもっと作り込んでくれ」みたいなことは頻繁に起こります。
──ミレニアム・ファルコンの製作期間は何日ぐらいでしたか?
成田:だいたい120日間ですね。これだけかけたのは自分の経験では最長です。予告編で写っているのは僕がやったものの1/4くらいのパーツしか見えていないので、あと何をやったかは、本編を見てのお楽しみということで(笑)。
ハン・ソロの若い時のストーリーだけでなく、ミレニアム・ファルコンをどうやって手に入れて、どのように形が変わったのかというのが明らかになりますので……。
──じゃあもしかして、映画に登場するミレニアム・ファルコンのバリエーションは、まだ明らかになってないものもあるってことですかね?
成田:それはご想像におまかせします(笑)。
──そういったバリエーション的なもの含め、『スター・ウォーズ』はオモチャでの展開が切っても切れない関係の映画だと思いますが、モデリングする上でオモチャで売ることを念頭にいれたりしているものなのでしょうか?
成田:映画での見栄えを第一に作っているので、僕のほうでは一切考えていません。あと、スケジュールの関係で、オモチャ会社にデータを渡すのは通常完成前になってしまうので、どうしてもオモチャに不整合や不具合は出ます。
評価されたのは「プラモデルを作るスキルがあるから」
──こういった3Dモデリングってひとつのモデルをだいたい何人くらいで担当するものなのでしょう?
成田:『フォースの覚醒』のミレニアム・ファルコンは僕を含め主に2人で作りましたが、今作のミレニアム・ファルコンは僕ひとりで担当しています。
3Dモデリングの場合、分担するということは稀でひとつのアセットはひとりが担当します。どうしてもモデラーの色が出るので、分担は難しいんですよ。『スター・ウォーズ』の場合、それぞれのモデラーが自分のスター・ウォーズ観をもっているので、特に難しくなります。
──成田さんはプラモデルが趣味とのことですが、3Dモデリングをするにあたってまず実際に作ってみるようなアナログの作業はされるのでしょうか?
成田:僕はやっていませんが、アートディレクターがコンセプトを固めるためにモックアップを作ったりしています。それを監督が見て意見を交換して、コンセプトが完成します。
ただ、スーパーバイザーが僕を評価している理由として「プラモデルを作るスキルがあるから」と言ってくれています。模型を作ることによって観察力が磨かれますし、実際に手で触れることによって2次元の図面を見てそれを立体として捉える空間把握能力みたいなものも身に付くんです。特に『スター・ウォーズ』はオリジナルのミレニアム・ファルコンが模型で作られたものなので、それも大事にしているのだと思います。
20年以上働いた証券会社をやめて、46歳で転職した
──成田さんは46歳で転職して3Dモデラーになったということでも有名ですが、何がきっかけで3Dモデラーになられたのですが?
成田:子供の頃から映画が好きで、テレビの『~洋画劇場』を見て育ち、洋画への憧れがありました。ただ僕は1963年生まれの万博世代で、まだまだ外国は遠くて僕のまったくわからない言葉で作られている世界だと感じていたんです。なので、子供の頃はハリウッドで働くなど夢のまた夢でした。
結局証券会社に就職して20年以上働いたんですが、後半は駐在という形でアメリカに住む機会があり、ある時ハリウッドで働く人たちも自分と同じ人間なんだと感じて、「じゃあ僕も作れないわけないな」とちょっと強気な考えが頭に浮かんだんです(笑)。
特に影響を受けたのが『トイ・ストーリー』で、CGでも映画が作れるんだというのは衝撃的でしたね。証券会社ではIT部門にいてコンピューターは得意だったので、それを生かして独学で余暇を全部使って3年間CGを勉強しました。
結果、当時『シュレック』などを手がけていた会社から声がかかって面接を受けたりしたんですが、転職のためのグリーンカードを取得中に父親がガンで急逝して、それがショックで夢をふわふわと追ってる自分が嫌になってCGを一切やめちゃったんです。
それからアメリカで8年証券会社で働き続けたんですが、リーマン・ショックを前に証券業界の雲行きが怪しくなって日本に帰らなきゃいけないという雰囲気がが出てきました。息子と娘はアメリカで生まれ育っていたというのもあって、いまさら簡単に帰るわけにもいかず悩んでいたんです。
そんな時、CGをやってた頃に知り合った日本人に再会して、彼の職場のドリームワークスを見せてもらう機会があり、「自分がやりたいことはやっぱりこれしかないな」と思ったんです。それをきっかけに証券会社を辞め、CGを学校で勉強し直してから、46歳で転職したんです。
──CGを始める前には、いわゆる絵画みたいなアート系のことはやっていたんでしょうか?
成田:一切やってないですね。ただ、子供の頃から絵を描くのは大好きだったので、『鉄人28号』なんかのキャラクターを模写していました。本物に似ていないと許せない性格で一生懸命描いていたんですが、もしかするとこういったところが、今の仕事につながっているのかもしれませんね。
プラモデルで得た観察力がいまの仕事に役立っている
──では今の仕事をする上で一番役立ったことって何でしょうか?
成田:プラモデルですね(笑)。特に『スター・ウォーズ』の仕事をする上では役に立っていると思います。
プラモデルは小学生から中学生くらいまでの間に本当に熱心にやっていたんですが、高校生になってやめてしまっていました。でも、CGの勉強をやめた後に時間が急に余ってしまって、子供も5歳になったんでプラモデルを教えようと思って再開したら自分がハマっちゃったんですよ。それから4年かけてアメリカのコンテストで優勝するまでになりました。こうして得た観察力が今の仕事に役立っていると思います。
──ちなみに一番好きなプラモデルはなんですか?
成田:難しいですけどやっぱり船が好きですね。大和とか、帝国海軍の戦艦や空母が好きです。
──転職した時は、自分の作品集的な物を持っていって面接を受けるというような形だったんですか?
成田:そうですね。日本だと学歴とか資格、経験で判断されることが多いですが、この業界はアメリカだと年齢も聞かないで単純にアウトプットで評価されるので、僕のような人でも働けるんです。
履歴書は関係なくって、自分が何を作れるかをビデオにまとめて送って、いいものが作れそうだったらトライアルで雇ってもらえて、続けられそうだったらそのままだし、ダメだったら即首です。見込みがなければ社内教育もされません。
──そして現在は、『スター・ウォーズ』を生み出した世界最大級のVFX会社のILM(インダストリアル・ライト&マジック)で働いていらっしゃいますが、やはり当初から目標にしていた会社だったのでしょうか?
成田:『スター・ウォーズ』は子供の頃から憧れの映画でしたが、ILMに入れたのは実は行き場がなかったからなんです。
以前いたデジタル・ドメインというVFX制作スタジオでは『アイアンマン3』のリードモデラーを担当させてもらったりと順調にいってたんですが、ハリウッドの映画制作の構造変化があって、多くの作品がVFXをアメリカ国外で作るようになり、結局そのあおりを受けてデジタル・ドメインは倒産してしまったんですよ。
そんな中で、ILMは世界最強のVFXスタジオとしてかなりの体力があり、まだ健在でした。経験4年目の自分にしては敷居が高すぎると思っていたのですが、本当にどうしようもなくなって、応募してみたら1カ月半の期限付きのフリーランスとして運よく仕事を得ることが出来たんです。さらに幸運なことに、たまたま自分の上司が『フォースの覚醒』のスーパーバイザーをやることになっていて、僕を気に入ってくれて使ってくれたんです。それからILMにずっといることになりました。
たとえ怪物でも生物学/解剖学的構造としておかしいものを作ると違和感が出る
──成田さんは『アイアンマン3』や『スター・ウォーズ』シリーズでは、建物やビークル、アーマーなどを担当されていますが、『ウォークラフト』などではクリーチャーも担当されていますよね。それぞれどんなところを重視していますか?
成田:ILMでは無生物系のハードサーフェイスと生物系のオーガニックを専門に担当する2種類のモデラーがいます。私はハードサーフェイス専門なので『ウォークラフト』では本当はソードとかの武器の担当でした。
でも僕はデビュー作が2010年の『エルム街の悪夢』だったこともあって、スーパーバイザーに作品を見てもらって、オークのサブヒーローキャラクターのモデリングを担当させてもらったんです。
オーガニックは造形力がとにかく重要で、特に顔は難しいです。たとえ怪物でも生物学/解剖学的構造としておかしいものを作るとすぐに違和感が露呈します。
ハードサーフェイスも基本は同じで「ここに燃料タンクがあって、ここにつながってるんだな」みたいな理論武装をして作らないと不自然なものになります。いずれも現実にはないものを作るのですが、いかにもありそうに見える納得感はそういった仕組みの積み重ねなんです。
大人になってからやりたくなったことでも、努力とちょっとばかりの運で仕事にできなくはないし、最終的には『スター・ウォーズ』にも関われるかもしれないという熱いお話。
ここは成田さんが作ったモデルのディティールに注目するためにも、なるべくデカいスクリーンで見たくなってきますね。
ファンとしては、小説やゲームなどの派生作品では登場してきながらも、今まで映画には登場してこなかったハン・ソロの故郷である惑星コレリアがついに見られるというのは楽しみ。成田さんが作られた工業地帯が劇中ではどんな形で使われるのか、ワクワクしてきますね!
映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』は2018年6月29日公開!
Image: © Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved
Source: 映画『ハン・ソロ』公式サイト
(傭兵ペンギン)