特集:GQ INTELLIGENCE 2014 情報術があなたを変える!
日本の政治、経済、哲学からアイドルまで佐藤 優、孫崎 亨、國分功一郎、荻上チキ、中森明夫……さまざまな分野のインテリジェンス猛者たちが総登場!
文: サトータケシ 写真: 淺田 創(secession)
マスメディアのトップに流れる無難な情報をうのみにしては、通説に踊らされるだけ。いかにその裏をとらえることができるかが、インテリジェンスの鍵となる。そこで、経済、生態系、芸能の論客に本当の焦点となるキーワードを聞いた。
2014年に覆すべき誤った経済の常識
近著『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか』(幻冬舎新書)で、荻上チキ氏は日本の現状を「タイムリミットを間近に控えた時限爆弾が、あちこちにゴロゴロと転がっている」と表現している。特に2014年に経済問題を見る目を変えられるか否かが日本の命運を決めるという。その問題を正しく認識、解決するために、日本人が抱きがちな誤った経済の常識を荻上氏が鋭く指摘する。
消費税も年金も、世代間対立の問題ではない。
2014年には消費税が上がります。そこで、30代の方には、そもそもなぜ消費税を上げるのかを知っておいてほしいと思います。まず、税や社会保障の問題を、単純な世代間対立の問題ととらえないでほしい。高齢者は払うより多くをもらっていて、われわれ若年層は払うだけ損じゃないかという感覚が蔓延しています。世代間の不公平は当然ありますが、それを単なる老人バッシングにつなげても意味がない。そもそも社会保障は、広く包摂するための議論ですから、恨み節から出発するとろくなことにはなりません。
世代間対立の問題にしてしまうと、高齢者から削って若者に配るという話になりがちです。でも「もっている若者」もいれば「もっていないお年寄り」もいる。「都会から地方へ」「若者から高齢者へ」ではなく、富むものから貧しき者へ、が基本です。福祉・介護をカットした結果、貧困化が家族介護を経由して若者に世襲されることもありますし、いずれは若者も年をとります。
重要なのは代替プランです。税と再分配のトータルな再構築です。消費税にも、どうやって貧しい人に効率よく還元できるかという論点がありますし、景気への悪影響をどう緩和するのかの議論も必要です。単純な高齢者バッシングをおこなうことは、「困っている人」の切断を加速し、特定分野の緊縮路線のみを肯定することになってしまいます。
貧困層に再分配するのはレバレッジの高い投資だ。
『夜の経済学』という本で、飯田泰之という経済学者とさまざまな統計調査をしています。ここで、生活保護に対してケチをつけやすいのは誰かという統計をとりました。結果は、より安定的で、かつより収入の高い人ほど再分配に反対している傾向にあることがわかりました。そもそも「貧困のヤバさ」が想像できていない可能性があります。
貧困な人に必要なのは、努力を求めるような説教ではなく、早期の投資です。
一例をあげますと、たとえば2013年に児童虐待による社会的損失は年間1兆6000億円だという試算が発表されました。うち、児童擁護施設などの直接費用は1000億円、残りの1兆5000億円以上は生活保護受給費や反社会的行為による間接費用です。統計からも貧困と虐待は密接な関係がありますから、貧困をなくすことで社会の生産性が上がり、経済成長にもつながり、結果として犯罪や医療リスクは減る。つまり再分配することは、民主的な社会の実現という理念上重要であるだけでなく、自分の生活を豊かにするための保険でもあり、将来の社会への投資にもなるんだ、ということを理解してほしいと思います。
生まれながら努力できる環境を与えられている人は、努力で貧困から脱することができるとか、スキルアップすればいいと考えがちです。職業訓練を過剰評価したりとか。一度でいいから、「もし自分が、貧困生活を続けてきた50代、60代の人の家庭教師をやってみたら、本当に成功できるか」を想像してみてほしい。万引きに抵抗感を感じないとか、中学生が援助交際をするという問題も、日本では道徳の問題で語られがちです。でも実はそこに、貧困や階級や経済の問題が潜んでいる。2014年も格差や貧困がクローズアップされるでしょうが、この問題を見抜く目を養ってほしいと思います。
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成長を諦めてスローライフ、この考えが格差を広げる。
最後に、意識の高い方がしばしば人がおっしゃる、「日本はもう成長しないからだんだん減っていく資産でのんびりうまくやっていこう」、という論調にはご注意ください。こういう意見をファッションとして格好いいと思っておっしゃっているのかもしれませんが、はっきりと有害なんですね。特に若者は気を付けなくてはいけない。本当にそういった社会になると、それはいま持っている人が徹底的に強くなる社会にしかなりません。そして、いま持っていない人が段々と衰弱していくことを肯定することになります。パイが少なくなるということは配るパイも少なくなるし、企業活動のスケールも小さくなります。格差がさらに広がり、犯罪も増え、虐待とかDVも増えます。成長を抜きに再分配はできない。そのことを、この20年で嫌というほど知るべきです。
経済成長がこれ以上見込めない社会であっても、工夫をすれば幸せで安定した社会になり得るというのは、既に逃げ切れる人とかインテリ層のリアリティなのかなという感じがします。漠然とした美辞麗句に流されることなく、「その言葉を徹底すると、誰が得するのか」を考えるようにしてほしいなと思います。
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