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DBさん
DB
レビュアー:
芸事一筋にかけた人生の話
出版前の本の書評を書こうというイベントにお誘い頂きまして、初の電子書籍で読みました。
たまにはこういう読書も新たな世界に出会えるので楽しい。

歌舞伎の話という情報のみで読み始めました。
だが始まりは九州の極道一家の正月祝いから始まる。
ヤクザの親分の一人息子の喜久雄が物語の主人公です。
中学生くらいか、まだ声変わりしてない少年が宴会の余興として「関の扉」の薄墨を舞う。
それが彼の生涯をかけた舞台の初めだとも知らず。

ここで一気に芸の道を志すのかと思っていたのですが、一転してヤクザの抗争と刃傷沙汰となる。
庭の白い雪が血に染まり、父親の権五郎は舎弟扱いしていた男に射殺された。
喜久雄の周辺で状況が目まぐるしく動いていく中で、ミミズクの刺青を背中に入れて父親の死を想う。
それは道半ばにして倒れざる負えなかった男の無念を引き受けてしまったかのようだった。
舞台と血の色と無念さが作品の中でずっと流れ続けていた。

紆余曲折あり喜久雄は上方歌舞伎の役者である花井半二郎の家へ引き取られていった。
そこで半二郎の息子の俊介と共に、歌舞伎役者としての稽古を積んでいく。
修行の厳しさは以前ドキュメンタリーで見たことのある歌舞伎役者の稽古風景そのままだったが、それでも痣だらけになりながらも楽しんで学んでいく主人公の姿が印象に残ります。
俊ぼん喜久ちゃんと呼び合いながら兄弟のように育っていくのも微笑ましい。
彼らがそろって「道成寺」を踊るくらいまでは厳しいながらもほのぼのとした空気が漂っている。

それが変わってしまったのは、半二郎の代役に息子の俊介を差し置いて喜久雄が指名されたことがきっかけだった。
自らの血筋ゆえに苦悩する俊介と、その血筋を持たないがゆえに煩悶する喜久雄の道は分かれていった。
失踪した俊介の代わりに三代目半二郎を襲名した喜久雄だったが、今度は先輩役者たちの嫌がらせで舞台に立つことがかなわなくなっていった。
映画や新劇と手を出してみるが、自らを傷つけながら進んでいく険しい道のりだ。

たとえタイトルからエンディングが予想できたとしても読んで楽しかった。
人生のドラマを効果的に彩っていくのが歌舞伎の舞台であり、美しい衣装が華をそえる。
歌舞伎をちゃんと見たことがないのですが、それでも舞い踊る姿が想像できるような描写だった。
読み終えて感じたのは、人生をどれだけ濃密に生きるかということだった。
極道の父親も、主人公も、彼の師匠も、そしてライバルだった師匠の息子も。
それぞれが時には迷いながらも自分の道を突き進んでいく姿が一番心に残った。
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DB
DB さん本が好き!1級(書評数:1781 件)

好きなジャンルは歴史、幻想、SF、科学です。あまり読まないのは恋愛物と流行り物。興味がないのはハウツー本と経済書。読んだ本を自分の好みというフィルターにかけて紹介していきますので、どうぞよろしくお願いします。

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