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スーヌさん
スーヌ
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娘は父を超えたかったのか、それとも父に受け入れられたかったのか
 時代は江戸末期から明治にかけて。
 稀代の画家河鍋暁斎に娘がいて、その名をとよ、長じて暁翠となる彼女は物心つく前から絵筆と紙を与えられ、暁斎の娘として迷う間もなく画家としての人生を歩んできました。
 父の死後、とよは兄、周三郎と共に父の画風を守ろうと制作に励みますが, 時代は変わって西洋画が画壇の主流となり、日本画も、暁斎の作風も時代遅れの遺物のように扱れていくのでした。
 しかしとよが気にしているのはそんな世間のうわついた風潮などではなく、これまでずっと努力してきたにも関わらず、自分の絵の腕前が父の領域に届いていないことでした。
 兄は流石に父の作品と見まごうばかりの絵を描けるようになっています。しかし自分はその兄にも及ばない。
 しかもとよの葛藤は芸術に関するものだけではなかったのです。
 皮肉屋の兄に、父は葛飾北斎のように自分のそばに女弟子を置きたかっただけだなどと言われてとよは動揺します
 父にとって自分は何だったのか、代替可能な女弟子の一人だったのか、それともかけがえのない娘だったのか。
 そもそも父親らしい所など一片もなかった暁斎であり、娘と父を繋げていたのは絵だけでした。良い絵を描くことだけが父に認められる唯一の方法だったのです。
 一方兄の周三郎にとっては父とはいつか超えていかねばならない障壁のようなものであって、とよのような葛藤は感じなかったでしょう。
 とよは絵の中から父に呼びかけているのです。父は自分を愛していたのか、自分は父に愛されるのにふさわしい存在だったのか。
 とよの問いに答えはあるのか、しかし絵とは、芸術とは、己の持たざるのものを己の中に見つけ出そうとする行為ではないでしょうか。そして芸術家を真に芸術家たらしめるのは、こうした葛藤なのではないでしょうか
 娘と父親の関係を深く描いた傑作だと思います。
でも全体としてはそんなくよくよと思い煩う内容ではなく、江戸っ子らしく気風のいいとよ姐さんが激動の時代をたくましく生き抜いていく痛快な物語です。
 ですがその背後にこのような心理が見えるので物語に深みが与えられているのです。
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スーヌ
スーヌ さん本が好き!1級(書評数:33 件)

50代男性 実は書店員だが業務で書評を書く機会はない。

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