まず、Squirrelの特徴について神尾氏は、Squirrelの作者、Alberto Demichelis氏にゲーム開発経験があり、alloc/free(メモリ管理機構)の置き換えが可能など、気が利いていること。ソースコードが6000行ほどで万一致命的なバグがあったときでも自分たちでなんとかできそうな規模であること、グローバル変数の初期化を「=」でさせない(うっかりミスを減らせる)、コメントがC++と同じ形式で書けること、マルチスレッドが安全に書けることなどを紹介。
さらに、例外処理が用意されていてスクリプトのエラーを補足できることや、getroottableによってシンボルが定義済みかどうかを調べたり、クラスの名前をスクリプトから取得したり、定義済みfunctionを解放できるなど、開発効率やメモリ効率を高める機能についても解説をおこないました。
「小さな王様と約束の国」での具体的な実装については北出氏が紹介。スクリプトの本作での使い方として、メインループもスクリプトで記述する構成になっていることを紹介、「それはさすがに極端だと思うが…」と述べてはいましたが、「小さな王様と約束の国」が実際にリリースされ、同じくSquirrelを採用した北米向け作品「My Life as a Darklord」も開発されていることから十分実用的なことがわかります。「My Life as a Darklord」では、「小さな王様と約束の国」で開発したソースコードのうち、C++ソースの94%、Squirrelスクリプトソースの30%が流用できたとのことです。C++ソースはなるべく流用する方針だったとのことですが、94%がそのままというのはかなり高いのではないでしょうか。
制作においては、関数やクラスの追加のたびにおこなうバインド(C++とSquirrelでデータをやりとりするための定型コード作成)作業が面倒なため、XMLとnutを変換するコンバータを作ったことや、ツールでC++ヘッダからバインドコードを自動生成させるといった、定型作業の負荷を減らす工夫が紹介されました。
スクリプトによる制作では、多くのエラーがランタイムエラーとして発生するため、ランタイムエラーを減らすためにネーミングルールを統一したり、例外をキャッチしたときにスタックダンプを出力するコードを入れておく必要があったとのこと。
ほとんどをスクリプトで書いたためメモリ管理をVMにまかせることができ、レアバグが起きにくいというメリットがあったものの、スクリプトを動作させていくと消費メモリが増えていくためメモリの監視は重要だとしています。消費メモリについてはガベージコレクション(GC)によって回復しますが、1フレーム(1/60秒)で処理が終わらない場合はフレーム落ちとなるためGCを動かすタイミングにも注意が必要です。
質疑応答では、「全部Squirrelでやるにあたって、勝算はどれくらいあったか?」との質問に対し、「初期デザイン作業において、プロトタイピングをしてトライしてみないといけなかった。いろいろ要素をつけたり消したりするのはCではやってられなかったと思う」と回答、初期段階から得られる生産性の高さを評価していたのが印象に残るセッションでした。