この記事は、パーソル総合研究所が1月9日に掲載した「仕事と私生活の切り分けが組織にもたらすメリット」に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などはすべて掲載当時のものです。
働く個人が充実した人生を送るためには、仕事と私生活を適切に切り分けることが重要だ。仕事と私生活の境界をコントロールできれば、より満足度の高い人生を実現する一助となることは想像に難くない。
では、従業員が仕事と私生活を切り分けることは、果たして組織にとってもメリットをもたらすのだろうか。
企業は往々にして、従業員が仕事と私生活を切り分けることで、仕事へのコミットメントが下がるといったネガティブな側面を懸念しがちである。確かに、かつては長時間労働が成果に直結し、性別役割分業によって男性の「滅私奉公」が合理的とされる時代もあった。
しかし、終身雇用が保証されず、時間と成果が直結しない仕事が増え、共働き家庭が増加する現代では、ワーク・ライフ・バランスの重要性がますます高まっている。このような状況下で従業員が仕事と私生活を切り分けることは、組織にとってマイナスではなく、むしろ従業員のモチベーションや組織へのコミットメントを向上させ、組織全体の成長を促進すると考えられる。
本コラムでは、パーソル総合研究所が実施した「仕事と私生活の境界マネジメントに関する定量調査」の結果を基に、仕事と私生活の切り分けが組織に与える影響について考察していく。
仕事と私生活の切り分けによる組織にとってのメリットに触れる前に、まずは、個人にとってのメリットを確認しよう。
「仕事と私生活をうまく切り分けられている」「働く時間を自らコントロールできている」「仕事のストレスを私生活にもちこんでいない」など、従業員が仕事と私生活の境界を適切にコントロールできると、本人にとってどのような効果が期待できるだろうか。
境界をコントロールできている人(※1)は、できていない人と比べて人生への満足度が高く、はたらくことを通じて幸せを感じる「はたらく幸せ」もより強く実感している(図表1)。つまり、仕事と私生活の境界をコントロールすることは、より幸せな生活や充実した人生(ウェルビーイング)に結びついているといえる。
(※1)仕事と私生活で時間や気持ちの切り分けができている状態(境界コントロール実感)は、Kossek (2016)における境界コントロールの概念や日本の正社員に対して実施したヒアリングを参考にして図表2の項目で測定した。
さらに深堀って、多くの人が抱える「時間不足」について考えてみたい。仕事と私生活を両立させ、充実した人生を送りたいと考えていても、日々の忙しさにその実現を妨げられることが多い。「もっと時間があれば、人生がより充実するのに」と感じる人も少なくない。
特に、仕事や家事、育児をこなすワーキングマザーにとって、時間不足の悩みは深刻である。実際、中学生以下の子どもを持つ正社員の女性の約6割が「毎日時間に追われている」と感じていることが同調査で明らかになっている。
しかし、たとえ時間不足を感じていても、仕事と私生活の境界を適切にコントロールできている人は、人生の満足度が高い。つまり、単に時間不足を解消することよりも、仕事と私生活の境界を適切に管理することが、人生の満足度を高めるためにより効果的であるといえる。
次に、仕事と私生活の切り分けによる組織にとってのメリットを見てみよう。
仕事と私生活の境界をコントロールできている人は、「今の勤務先で継続して働きたい」という意欲(継続就業意向)や「自発的に貢献したい」という意識(自発的貢献意欲)が高く、バーンアウト(燃え尽き)傾向が低い。
このことから、企業が従業員の境界コントロールを支援することは、従業員のモチベーションやコミットメントを高め、組織全体のパフォーマンス向上に寄与すると考えられる。
また、従業員が幸せを感じることが、こうした継続就業意向やモチベーションの源泉になるとすれば、先述した個人のメリットも企業にとってのメリットにつながるものといえよう。
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