SIerとユーザー企業はなぜ「相互不信」に陥るのか？　業界歴40年のPMが考察：SIerはどこから来て、どこへ行くのか（1/2 ページ）

新たなソフトウェア開発技術とは？　

　新たなITシステムの開発技術は、既に述べてきたようにオブジェクト指向型開発だと筆者は考えている。代表的なオブジェクト指向型開発は、マイクロサービスアーキテクチャによるソフトウェア開発だ。クラウドでの開発においてはデファクトスタンダード化が進んでいる。

モノリスシステムの問題点

　それに対して、今まで日本でソフトウェア開発の主流になってきたのがモノリスシステムだ。モノリスとは「一枚岩」を指す言葉だ。有名な映画『2001年宇宙の旅』（1968年、スタンリー・キューブリック監督）には、自らに触れた生物に急激な進化を引き起こす巨大な黒い板「モノリス」が登場する。

　現在の主流なITシステムのアーキテクチャでは、数多くのサブシステムが1つのデータベース（DB）を参照、あるいは更新している（図1）。

モノリスシステムとは（出典：筆者作成）

　参照、更新後は、データベースのデータの塊（かたまり）の一部がトランザクションとしてまとめられる。トランザクションを通じて他システムに接続することによって、多くのITシステムがリアルタイム、あるいはバッチの形式でデータベースを中心とした大きな密結合システムを形成している。この密結合のITシステムを「モノリスシステム」と呼ぶ。

　では、このモノリスシステムの何が問題なのか。

　ソフトウェア開発において、何らかの変更を実施した際にはその変更がどこまで影響を及ぼすかを明らかにするために「影響範囲調査」を実施する。データベースにデータ項目が追加されると、システムA、システムB、システムC、システムDにも影響が及ぶ（図2）。さらにその影響は、バッチデータとしてその他のシステムにも影響を与える。つまり、図には載っていない他システムでも修正が必要になる。

図2　モノリスシステムの構造問題（出典：筆者作成）

　こうした場合、一般的には「総合テスト」と言われる大規模なテストが必要になる。当然、総合テストを実施するテスト環境も大規模になるため、ユーザー企業は通常1つのテスト環境しか用意できない。案件単位で実施するのはコストも期間もかかって効率が悪いため、複数案件をまとめて総合テストを実施することになる。

　結果的に、定期的なITシステムのリリースは、多くても年に2回程度しか実施できなくなる。図2のように影響調査範囲から漏れたシステムがある場合（この図ではAシステム）は大きなシステムトラブルが発生してしまう。そのため、影響調査範囲は変更の影響が及ぶと想定される範囲よりもより広範囲にする必要がある。また、ミスは許されないためテストの実施は慎重に進められるため、期間とコストがかかることになる。