「ベルギービールにベルギーチョコレート、ベルギーワッフル。東京にはこれらの専門店が数多くあるのに、なぜベルギーフライドポテトの店はないのだろう?」。
約20年前、ベルギーから日本に移住した実業家のロブ・ヴァン・ナイレン氏は疑問に思った。東京には各国のレストランがある。食べられない料理を探すほうが難しいくらいだ。それなのに、どうしてベルギーフライドポテトの専門店はないのか……。
ベルギーでフライドポテトは“国民食”と言っていい。国内には大小さまざまなフライドポテト販売店が5500店舗以上も存在し、ほとんどの家庭に専用のフライヤー(揚げ物の調理器具)があるという。国際連合食糧農業機関(FAO)の統計データによると、ベルギーでの一人当たりのじゃがいも年間消費量は約76キログラムで、日本(約21キロ)の3倍以上だ。
ついには、このフライドポテトを世界文化遺産に登録しようとする動きも本格化している。フライドポテトはベルギーが発祥として、既に同国のフランダース政府が無形文化遺産として登録しており、2015年中にはベルギー連邦政府が認定機関である国連教育科学文化機関(ユネスコ)に申請する予定である。
冒頭の話に戻そう。2000年ごろ、ベルギーワッフルショップなどを展開する「マネケン」の事業開発に携わっていたナイレン氏は、小規模の店舗であればフライドポテトの専門店を東京に出店できるのではと考えた。そこで当時、在日ベルギー大使館の料理長だった友人のバルト・サブロン氏とともに「フライドポテトの店を作るべきだ」と事あるたびに情熱を語り合った。
しかし、実現に向けた課題は山積みだった。外国人だけで日本で新たなビジネスをするのは難しく、特に外食産業はハードルが高かった。「世界で一番の美食都市は東京だと思う。例えば、牛丼やカレーなどのファストフードにしても、あの価格帯で高いレベルの美味しさを提供するのは他国ではないだろう」とナイレン氏は話す。
1店舗だけの個人経営であれば、何とか東京でも生き残れるかもしれないが、事業としてフライドポテトを成功させたかった。そのためには資金が必要だし、何よりも日本の外食市場をよく理解する日本人パートナーが必須だと感じていた。
思い描いた夢はあったものの、ビジネスとして現実的にはすぐに難しく、そうしている間にサブロン氏はベルギーへ帰国してしまったのである。
時は流れ、2013年8月。プライベートで来日したサブロン氏とナイレン氏は久々に再会し、東京・池袋でお酒を酌み交わしているうちに、フライドポテト専門店を立ち上げるという情熱が沸々とよみがえってきた。「まさに今しかない!」。その直後からビジネスパートナーを探し始めて数カ月後、ついに賛同を得たパートナーが見つかったのである。
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