「W42SA」(8月28日の記事参照)は、一見すると普通のコンパクトなWIN端末。しかし、その中にはユニークな機能が搭載されている。ダイヤルキー部分に書いた手書き文字が、テキストとして入力される機能だ。
これは「スムースタッチ」と名付けられた機能の1つ。ほかにもダイヤルキー部分をなぞってタップすることで画面のスクロールや選択操作を行う「スクロール&タップ」、手書きの図形を暗証番号の代わりに使える「スムースロック」、キーに触れるとカメラのオートフォーカスが働く「オートフォーカス」の3つが用意される。
「これまでにない、分かりやすい操作性を実現できないか」──。スムースタッチを搭載したいきさつについて、こう説明するのは鳥取三洋電機のマルチメディアビジネスユニット モバイル通信技術部で主任企画員を務める川口弥文氏だ。スムースタッチでどんなことができるのか、どこが便利になるのかを聞いた。
スムースタッチは、キーパットと基板の間に、静電シートを入れることで実現した機能。川口氏は、実装に当たって難しかった点が大きく2つあったと振り返る。
1つは静電シートをどう固定するかだ。「静電シートをしっかり固定しないと正しい読み取りができず、だからといって両面テープのようなものでガチガチに固定してしまうと、キーのクリック感や厚みに影響が出る。試作を繰り返しながら、どんな固定の方法ならうまくいくのかを細かく検証し、いちばんいい手法を採用している」
もう1つは認識の精度だ。手書きの入力は人によって速度が異なるため、例えば「は」と入力する途中で時間があいた場合には、「し」なのか「は」に続く途中なのかを端末側で見極めなければならない。「一画、一画の時間をどう持たせるかが課題だった。多くのモニターに試してもらいながら検証し、文字を確定するまでの時間を『速い』『普通』『遅い』の3段階から選べるようにすることで解決している」
開いたときに出っ張りのないヒンジも、実は文字入力のしやすさに一役買っているという。「開いたときにヒンジ部分に段差がないため、十字キーやソフトキーをヒンジの近くに持ってきても打ちやすさを損なわずに済む。このキー類を上に上げたことで、ダイヤルキー部分の面積をより大きくでき、それが文字入力用のスムースタッチエリアを大きくすることにもつながっている」
手書き入力は、ひらがなとカタカナ、英数字、一部の記号の認識に対応し、手書き入力設定をオンにしておけば文字を入力するほぼすべてのシーンで手書きによる入力を行える。ジェスチャー設定をオンにすれば、上下左右のカーソル移動や改行、文字種切り替え、文字の削除なども手書きででき、PDAなどの手書きに慣れている人でも便利に使える。「文字入力時の十字キーとソフトキー、決定キー、クリアキーの操作を手書に対応させている」(川口氏)。また手書き入力をオフにしていても、文字を入力するシーンでサブメニューを押すと、手書きのオン/オフを切り替えられるので、テンキー操作が面倒な入力時のみ手書きにするという使い方も可能だ。
手書き入力に注目が集まるW42SAだが、「文字入力だけをやりたくてスムースタッチを搭載したのではない」と川口氏。分かりやすく直観的なUIを模索する中で出てきたのがスムースタッチだといい、この機能が生きる利用シーンを精査するのにも時間をかけたと話す。その結果搭載されたのが「スクロール&タップ」「スムースロック」「オートフォーカス」の3つの機能だ。
スクロール&タップは、通常は十字キーや決定キーで行うスクロールや決定操作を、指をすべらせてタップする操作に置き換えたものだ。「例えば電話帳を調べるとき、横に指をすべらせれば列が、縦にすべらせれば行がスクロールし、任意の相手が出てきたらタップで発信までできる。カレンダーも、スクロールとタップで日付を選び、そのまま手書きでスケジュールを書くところまでできる」。メールやWeb、PCサイトビューアなどのように情報量が多く、スクロールに手間がかかるようなシーンで役立つ機能だ。
スムースロックは、ロックの解除を手書きの図形で行えるようにするもの。通常、ロックを解除するには、4〜8ケタの暗証番号を入力する必要があるが、これを図形と書き順で解除できるようにしている。「例えばハートマークを登録した場合、書き順が異なるとロックは解除されず、四角を登録した場合でも、画数や書き順が異なると解除されないなど、登録パターンは無限にある」。認識精度は、「難」と「易」の2段階から選択可能で、セキュリティをどれだけ優先するのかに応じて選べる。
オートフォーカスは、ダイヤルキーに触れると働き、キーを押し込むとシャッターが切れる。操作を直観的に行えるのに加え、オートフォーカスが働き、シャッターが切れるまでのタイムラグを軽減する役割も果たしている。
携帯電話は多機能化が進む半面、小型化も求められ、その中でどのように使いやすくするかが課題となっている。それに対する鳥取三洋の答えがスムースタッチといえるだろう。このUIがユーザーにどのように受け入れられるのかに注目したい。
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