無接点充電の国際標準規格団体、WPC(ワイヤレスパワーコンソーシアム)が12月2日に記者説明会を開催し、ワイヤレス充電の現状と今後の展望を説明した。WPCはワイヤレス充電標準規格「Qi(チー)」の普及促進を目的として設立された団体。現在はケータイ、家電、バッテリー、半導体などの分野から67社がメンバーに参加している。日本企業からも三洋電機をはじめ、複数のメンバーが加盟している。
WPC会長のメンノ・トレファーズ(Menno Treffers)氏は「業界標準の技術を採用することで、ワイヤレス充電は巨大市場に成長する。標準化しなければ単なるニッチな製品になり、年間100万台程度の販売に終わるが、標準化してあらゆる家庭で商品が使われれば、1億台は軽く超えるだろう」と期待を寄せる。
Qiは最大5Wの低電力向け規格書が2010年7月23日に完成しており、WPCのWebサイトから誰でも無料でダウンロードできる。三洋電機や海外メーカーが開発した最初の認定製品も完成しつつあり、会場ではいくつかの製品が披露された。ワイヤレス充電は消費者にとってはもちろん、ホテルやカフェに設置するなど、企業にとっても魅力的な機器になるだろう。ここでも「標準化」が重要になる。「Qiの充電機器に互換性があれば競合が進む。競合が盛んになれば、価格も下がる。そうなれば消費者がもっと使いたくなる」とトレファーズ氏は相乗効果に期待する。
トレファーズ氏は、ワイヤレス充電の今後は以下のステップを踏むとみている。
ワイヤレス充電は机に充電器を置いて使用するイメージがあるが、例えば3.の単独製品ではリビングに置くインテリア製品、4.の大規模システムではオフィス家具、自動車、電車、ホテルの客室などに設置するシーンも想定している。「ワイヤレス充電は机に置くだけでなく“見えないもの”になるだろう」とトレファーズ氏は話す。もちろんコンシューマー向けにも販売していく。
三洋電機はWPC準拠のケータイ向けバッテリーや充電器を開発しており、日本でワイヤレス充電を普及させるための大きな役割を担っている。同社 モバイルエナジーカンパニー 充電システム事業部 事業部長の遠矢正一氏は「三洋電機は総合家電メーカーから環境・エナジー先進メーカーに生まれ変わった。その流れで充電環境を改善する商品群を作ろうとなり、本業にプラスアルファする形でスタートした」とワイヤレス充電器開発の経緯を話す。
ワイヤレス充電器を開発するにあたって同社が重視したのが「平らな台に載せるだけで充電できること」。そうした充電器を設計開発チームとデザインチームが一体となって取り組み、デザイン展にコンセプトモデルを出展するなど、外部にも徐々に浸透させていった。こうした同社の取り組みがWPC側の目にも留まり、WPC立ち上げ時に要請を受けて参加することを決めたという。
「WPCの世界基準に共鳴した」と遠矢氏は話すが、1つだけ条件を出したというのが「端末をフリーポジションで充電できること」。ワイヤレスで充電ができても、端末をセットする位置が決まっていては、せっかくの利便性が損なわれる。どこに置いても充電できることが重要――。この考えはWPCとも共通しており、三洋電機の加入はスムーズに決まったようだ。「ケータイをそっと置いても、ポンと投げても充電できるくらいのレベルを目指したい」と遠矢氏は意気込む。
ワイヤレス充電はレシーバー(端末)とトランスミッター(充電器)で成り立つ。レシーバーについて三洋電機はケータイとスマートフォンをメインターゲットに据える。ワイヤレス充電ではバッテリーと充電器の送電コイルで磁力を合わせる「磁気結合」によって発電して充電をする。コイルが加わることでバッテリーのサイズが圧迫されてしまうが、同社はコイルの薄型化にも取り組み、既存のバッテリーパックのサイズを変えない方向で開発を進めている。ちなみに、試作版のバッテリー容量は800mAh。スマートフォンへの搭載を考えるともの足りないが、「コイルを薄くすれば、バッテリー容量の低下も抑えられる」(遠矢氏)ので、大容量バッテリーの登場にも期待できる。
現在は5ワットの低電力バッテリーと充電器の開発に注力しているが、今後は120ワットの中電力、1キロワットの高電力技術を生かした製品の開発も視野に入れ、オフィスやカフェ、電車、自動車など“社会インフラ”になることを目指す。「三洋電機は20年ほど充電器ビジネスを進めている。2011年をキックオフにして、2015年くらいには充電の概念が大きく変わる。やればやるほど便利でエコなものだと強く伝えていきたい」(遠矢氏)
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