誤解を恐れずにいえば、Apple Watchが発表されてからのこの1年は、少々「華々しすぎる」ものだった。2014年9月9日に発表されたApple Watchは、第1世代のモデルながら高い質感と優れたデザインを持ち、IT業界だけでなくファッション業界も注目。2015年4月24日のApple Watch発売では、世界中の多くのメディアがApple Watchを取り上げて世間の耳目を集めた。過去のAppleの歴史をひもといても、新カテゴリーの第1世代モデルがここまで“フィーバーした”のは初めてだろう。
しかしその一方で、Apple Watchに対する熱狂と期待は少し行きすぎた面があったと思う。iPhoneやiPadによってAppleの“モノ作りのレベル”が高くなっていたこともあり、ハードウェア的な完成度、特にデザインと質感のレベルにおいては第1世代を感じさせないクオリティの高いものだった。他方で、ソフトウェア的に見ればやはり第1世代であり、その目指すべき方向性やUIデザインは優れてはいるものの、watch OSそのものは発展途上の感が否めなかったのだ。
だが、その状況も変わりそうだ。
Appleは予定よりも少し遅れて、Apple Watch向けの新OS「watchOS 2」を公開した。watchOS 2では多数の機能追加・改修が行われており、文字どおり中身が一新されることになる。
筆者はこのwatchOS 2をいち早くテストする機会を得た。今回の新バージョンの主要機能を見ながら、あらためてApple Watchの魅力と可能性を考えてみたいと思う。
watchOS 2で最も重要なアップデートは、ネイティブアプリケーションへの対応だろう。これまでもApple Watch向けに作られたサードパーティ製アプリをインストールすることはできたが、それは連携されたiPhone上で動作するApple対応アプリのインタフェースという位置づけであり、アプリの実行自体はiPhone側が担当。さらに利用できる機能にも大幅な制限があった。
しかしwatchOS 2では、いよいよApple Watch上でアプリの単独動作が可能になり、アプリの実行速度が大幅に向上したほか、心拍センサーやマイクなど各種デバイス類も利用できるようになった。
さらにwatchOS 2では、サードパーティ製アプリが、文字盤上で情報表示をする「コンプリケーション」機能にも対応。これまでApple Watch純正アプリしか文字盤を利用できなかったが、今後は通知だけでなく、コンプリケーションを用いてアプリ側からの情報を常時表示することができるようになる。
今回、筆者が試用した期間はwatchOS 2リリース前であり、残念ながらネイティブ化したアプリを試すことはできなかった。しかしネイティブアプリを作るためのソフトウェア開発キットはすでに配布ずみであり、「watchOS 2のリリース後から、一気に既存アプリのアップデートや新アプリのリリースが始まる」(アプリ開発会社幹部)という。
翻ってみれば、2007年に発売された初代iPhoneと初代iOSもサードパーティ製アプリの追加はできず、パイロットモデル的な色彩が強かった。iPhoneでサードパーティ製アプリが解禁されて、日本を含むグローバルでの販売となったのは第2世代のiPhoneおよびiOS 2.0からである。そう考えれば、watchOS 2から始まるネイティブアプリ解禁こそが、Apple Watchにとって本当の意味でのスタートラインだといってもいいだろう。
watchOS 2で追加された機能のうち、筆者がいちばん重宝したのが「タイムトラベル機能」だ。これはデジタルクラウンの動きにあわせて、文字盤上の情報が時間経過に合わせて変わるというもの。タイムトラベルで時間を進めれば未来の情報が表示され、逆に時間を戻せば過去の情報をさかのぼって確認することができる。
このタイムトラベルでいちばん分かりやすいのが、スケジュール機能だろう。これまでも文字盤上のコンプリケーションとして次の予定を確認することはできたが、さらにその先の予定や過去の予定を確認するには、予定部分をタップして予定表アプリを立ち上げなければならなかった。
しかしタイムトラベルを使えば、Digital Crownを回すだけで、先々の予定から過去の予定までを素早く確認できる。ビジネスシーンでは移動の合間や会議中のふとしたタイミングに、ちょっとしたスケジュールの確認をしたいという場面は多々ある。その際にアプリやグランスを立ち上げずに、素早く前後の予定を確認できるタイムトラベル機能はとても便利だった。
ほかにもタイムトラベルでは、天気情報やニュースなども時間の移動によって変化する。今後、コンプリケーション機能を用いてさまざまなアプリが文字盤上に情報を載せられるようになれば、タイムトラベルの活用範囲も広がっていくだろう。
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