米Qualcommの次期フラグシッププロセッサの名称が「Snapdragon 845」となることは以前のレポートで紹介した通りだが、今回はこの中身についてもう少し詳しく見ていく。
Snapdragon 845を一言でいえば「順当進化」だ。
前モデルの835発表から1年、少しずつパフォーマンス面での機能強化が図られている。CPUコアは835時代の「Kryo 280」から「Kryo 385」となり、4×4のbig.LITTLE構成という点は変化していない。big側コアの最大動作クロック周波数は2.8GHzとなり前モデル比で25〜30%アップ、LITTLE側コアの最大動作クロック周波数は1.8GHzで15%アップとなる。
どのコアが利用されるかはソフトウェア側の判断で決まるため、通常利用時のパフォーマンスや省電力性はOSがいかにチューニングされているかにかかっている。ただ、ピークパフォーマンスの面でみれば835との比較で3割ほどの向上があるとみていいだろう。
そして845における前モデルとの最大の相違点はL3キャッシュの搭載だ。L2キャッシュまではコア単位に割り当てられているが、2MBのL3キャッシュは全てのコアで共有する構成となっている。835ではbigコアには2MBのL2キャッシュ、LITTLEコアには1MBのL2キャッシュという割り当てだったが、845ではサイズは不明ながらL2キャッシュを残しつつ、さらにL3キャッシュを用意している。
キャッシュの役割はメインメモリへのアクセスを低減してレスポンスを向上させることだが、単純に考えるとコアごとに適切な容量のキャッシュを割り振った方が効率よく思える。だが実際には、複数のスレッドが稼働状況に合わせてbigとLITTLEを含むさまざまなコアに適時割り当てられて動作することになるため、コア間で必要な情報を共有して協調動作した方がパフォーマンスは向上しやすいというのが、Kryo 385で採用されたDynamIQを使ったキャッシュ共有の考え方だ。
また近年のプロセッサでは異なる複数の機能コアを内在して、個々の処理のパフォーマンスや省電力性を高める「ヘテロジニアスコア」の仕組みを採用する傾向があるが、その傾向は毎年さらに強くなっている。Snapdragon 845ではCPUコアのKryo 385、GPUコアのAdreno 630、DSPのHexagon 685、センサー処理ユニットのSpectra 280 ISPを搭載している。Adrenoにはさらに動画のエンコードやデコード処理に特化した専用ユニットが含まれるなど細分化されており、これら全てが合わさる形でSnapdragonを構成している。
さらに、Snapdragon 845全体に対して「システムキャッシュ」が3MBほど割り当てられている。前述のKryo 835のL3キャッシュとは異なり、こちらはプロセッサ全体のメモリアクセス低減によるパフォーマンスの最適化だ。ヘテロジニアスコアの性質を反映した構造だが、全体に省電力性を落とさずにパフォーマンスブーストを狙った工夫がみられる。
プロセッサにおけるもう1つのトレンドとして、AppleのA11 BionicやHuaweiのKirin 970のように、いわゆるAIのディープラーニング処理に最適化されたプロセッサコアの内蔵が挙げられる。このトレンドに対するチップベンダー各社の対応はまちまちだが、SnapdragonについてはKryo+Adreno+Hexagonの3つとベクトル演算ユニットを組み合わせて計算を高速化している。
845におけるこの構造は835から変化ないが、全体に前モデル比で個々のコアのパフォーマンスが向上しているため、Qualcommによれば従来比3倍の機能向上が見込めるとしている。TensorFlow、TensorFlow Lite、Caffe、Caffe2、ONNXといった各種DNN(Deep Neural Network)ライブラリをサポートしている点も特徴で、このあたりはさまざまなエンドユーザーが利用することを想定した汎用(はんよう)プロセッサならではといえる。
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