金星へ飛び立つ「あかつき」と初音ミクパネルを見てきた(2/2 ページ)
金星探査機「あかつき」に、ミクのイラストとミクファン1万4000人のメッセージが載る。企画の発案者が、あかつきの実機やパネルの現状をリポートする。
パネルはメタルフォトという技術によって作られたものです。図案は直接アルミ板に印刷するのではありません。アルミ板には多数の微細なくぼみが開けられ、そこに感光性銀乳剤が塗布されています。ネガフィルムを使って露光・現像すると発色し、後処理を行うと非常に耐久性の強い物が出来上がります。印刷がかすれたり変質したりしにくいので、航空宇宙系ではパネルなどに使われています。しかし特殊技術ではなく、金属銘板などで広く見かける物です。もちろんあかつきに搭載しても大丈夫ですよ。
――パネルのサンプル品を見ると、ものすごい精密感ですね! 我が家の写真用プリンタで印刷したものとは比較にならないです。あかつきにはいつ載るのでしょうか。
フライト用のパネルは2月中旬にはできあがり、ベーキング(宇宙に上がってからガスなどを発生しないようにする加熱処理)などの処理をします。すぐに機体に取り付けられて、3月上旬には衛星の開発完了審査、3月中旬に種子島への輸送が行われることになっています。
最終準備に入っている金星探査機あかつき
取材当日、あかつきは相模原キャンパス内の飛翔体環境試験棟にいた。実は筆者にとって、衛星のフライトモデル実物を見たのは初めての経験である。自分が関わったパネルがあれに乗るかと思うと、感動もひとしおである。
――あれがあかつきですか!迫力ありますね!
今は最終的な調整の段階ですね。太陽電池パネルは外されています。燃料を充てんすると500キロくらいあります。メッセージパネルは衛星の下部に取り付けられますよ。
――一面サーマルブランケット(金色のフィルム)が貼ってありますね。衛星の中はどのような感じですか。
左図にある通り、エンジンと燃料タンク、観測装置などでぎっしりです。他の衛星では中が比較的空いているものもありますが、あかつきはパンパンになっています。パネルを閉じるときに、配線を挟み込まないように注意を払っていますよ。
あかつきの計画開始時には、H-IIロケットではなくてM-Vロケットで打ち上げる予定でした。このため、M-V(直径2.2メートル)のフェアリング内に搭載できるよう、小型化されています。
――もっと近くで見たいですね。このクリーンルームには入れるのでしょうか?
すみません、さすがにそれは(笑)。じつはフライトモデルには、ここの研究員であっても気軽に触ることはできないのです。衛星メーカの技術者のうち、さらにフライトモデル取り扱いの専門訓練を受けた人しか触ってはいけないことになっています。また、何か作業をする場合は、すべて記録を取って文書化しています。他の宇宙機関でも同じです。
この部屋の中には、衛星搭載機器のテスト治具がすべてそろっています。また、クリーンルーム外から衛星へリモートアクセスすることもできます。真空環境や振動などを試験するための別のクリーンルームもあります。
――それにしても本物は美しいですね。
そうですね、なんともいえない機能美がありますね。プロジェクトの最初から長年関わってきて、いよいよ形が見えてくると実に感慨深いです。フライトモデルができあがってお披露目をすると、関係者の間でも「これか!」と感嘆の声が上がったりします。ロケットの方も、実物の質量感やその打ち上げの迫力は頭の中の想像とは随分違いますね。
関係者であっても、今見ているこの衛星が本当に1億キロの彼方まで飛んでいってデータを送ってくるということは、なんだか信じ難い気持ちがしますよ。是非とも成功させたいですね!
実物が持つすごみ
筆者がこの訪問を通して感銘を受けたことが2つある。1つ目は、実物の持つすごみだ。写真や想像画と違って、実物には「これが本当に宇宙に行くんだ!」と想像を喚起する力がある。あかつきをはじめ宇宙機の見学はタイミングさえ合えば不可能ではないので、是非JAXAや米航空宇宙局(NASA)を訪ねることをお勧めしたい。JAXAの宇宙機は広報を通じて見学を申し込めるし、屋外展示や模型は、現場に直接行ってゲートで手続きすれば見学できる。
2つ目は「科学技術は勝手に1人歩きしているのではなく、熱意ある人達が進めているのだ」ということである。あかつきが金星に行くという報道は無機質なものだ。しかし金星ミクのパネルが1万3849人の結集であるなら、それが載るあかつきやロケットはそれ以上の力の結集だということに思いを馳せると、なんとも素晴らしいことだと思う。できれば今後、あかつきが飛び立つ様子などもリポートしたい。
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