Microsoftは4月29日(現地時間)から、米カリフォルニア州サンフランシスコで開発者会議「Build 2015」を開催中だ。同社らしく、その基調講演はソフトウェアやサービスを実際に作っているエンジニアに向けたメッセージが中心だったが、講演全体を通して俯瞰(ふかん)すると、「MicrosoftがWindowsをどうしたいか」という示唆に富んだ内容だったとも言える。
しかし、美しいストーリーが描かれる一方で、Microsoftが理想とする世界へと向かうには、いくつもの大きなハードルを越えなければならないようだ。掲げている目標が大きいだけに、登るべき坂もまた急だろう。
昨年までのBuild(あるいはそれ以前のProfessional Developers Conference)に参加していて毎回感じさせられるのは、Microsoftが「コンピュータ向けのアプリケーション開発者向けにツール、ソリューションを提供する会社」として、これまで成長してきたということだ。
今回の基調講演もサティア・ナデラCEOは「40年前、Microsoftは2人のソフトウェアエンジニアによって設立され、常に開発者のための環境と道具を提供してきた」と話を始めた。お約束のスタートではあるが、これが彼らの基本形なのだ。
自社開発のWindowsタブレット「Surface」シリーズを持っているとは言え、彼らのビジネスはハードウェアを売ることではない。当たり前のことだが、AppleとMicrosoftというパーソナルコンピューティング分野の巨人を比較する際に、議論の中で忘れ去られがちなことでもある。
MicrosoftがWindowsで存在感を示し続けて来れたのは、ソフトウェアやサービスを組み合わせたアプリケーションを構築するうえで、重要な存在であり続けてきたからだ。そして、モバイル分野では奪われた存在感を取り戻す際にも、カギとなるのは同じく開発者をどう巻き込んでいくかという開発コミュニティ作りにある。
Buildで多くのエンジニアを引きつけ、PCからスマートフォンへとパーソナルコンピューティングの主流が変化した現代において、再びWindowsの価値は高まる。その利用者の大多数が「パソコン」でWindowsを使っていることを考えれば、現在のPCユーザーの未来を担っているのが彼らとも言える。
Microsoftが、Windowsブランドの復権をかけているのは「ユニバーサルアプリ(Universal Windows Application)」と呼ばれる、アプリケーション構築の枠組みだ。
ユニバーサルアプリとは、Windows Phone、ミニタブレット、タブレット、PC、Xbox、サーバ、組み込み用コンピュータなど、あらゆる分野のWindowsプラットフォームで動作する万能型のアプリケーション形式のことだ。ナデラ氏は「Raspberry Pi(教育用のミニワンボードPC)からホログラフィックコンピュータ(Microsoft HoloLensなど)まで」と表現していたが、およそWindowsが動作するすべてのコンピュータで動作させることができる。
もっとも、「一度コードを書けば、どんなWindowsプラットフォームでも動きますよ」ということなのだが、そうそう簡単な話ではない。
昨年もユニバーサルアプリに関する言及はあったが、今日に至るまであまり普及はしていない。Windows 10が登場していない現在、異なるハードウェアプラットフォームの共通化が十分に進んでいないこともある。しかし、一番の理由はユニバーサルアプリの特性を生かそうと思うと、ユーザーインタフェースに関しては、それぞれの画面ごとに設計し直しが必要になるからだ。
例えば、PC向けのWindows 10は、タブレットとしての動作とPCとしての動作で振る舞いが変化するようになっている。Windows 10搭載のミニタブレットをクレードルに置き、外部ディスプレイやキーボード、マウスと接続されると、そのままデスクトップモードへと移行する……といった動作だ。
今回の基調講演ではさらに、Windows Phone+Windows 10 for phones and tablets上で動作するユニバーサルアプリがデスクトップPCのようにも使えるようになる、というデモが加えられた。
Windows Phone上でモバイル版のExcelを起動しておき、そのままアダプタ経由でディスプレイに接続すると、ディスプレイ上にはPC向け画面とそっくりの画面が表示されていた。Bluetoothキーボードを接続し、その手前にWindows Phoneを置くと端末のタッチパネル付きディスプレイをPCのタッチパッドのように使うこともできる。
Microsoftは、1つのアプリケーションを開発するだけで、PCからスマートフォン、Xboxなど、あらゆる画面で動かせる「万能性」を提供し、開発者にWindows 10が魅力的な市場を構築するのだと訴求した。しかし、そのためにMicrosoftはOfficeのユーザーインタフェース開発を、相当長い時間かけて各画面サイズごとに最適化してきたはずだ。
実用的なアプリケーションであるとともに、Microsoftが提供する技術の広告塔的な役割も果たしているOfficeならば、画面サイズや動作デバイスごとに緻密に作り込んだユニバーサルアプリを開発することも可能だ。しかしそれを当たり前のものにするには「ユニバーサル化が金になる(ビジネスとして成立する)」ことを納得させ、実際に金になるプラットフォームにしなければならない。
現時点でクラウドを活用したアプリケーションを作る場合、開発者はまずモバイル環境を意識する。そしてiOSやAndroid向けのアプリを中心に設計を行い、下手をすればPC向けはWebインタフェースだけでもいい……と考えてしまう。それはMicrosoftとして避けなければならない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.