Appleはデータプライバシーを再構築できるか?:今日の惨状を明らかにした日本語電子冊子が登場(1/3 ページ)
ユーザーのデータプライバシーについて、積極的な取り組みを続けているApple。その新たな一手を林信行氏が読み解く。
街を歩いている。男が寄ってくる。語りかけてくる。
「あなた、予約サイトでレストランを予約していたけれど今夜はデートですよね。それならこの先に花屋があるので、お花でもいかがですか?」
あなたは無視するが、男は食い下がってくる。
「実はお酒、好きですよね。レストランの後、こちらのBarがオススメなんですけれど……」
断っても断っても男はあきらめない。
「そういえば先週、京都にいたでしょう。次回、こちらのお宿はいかが?」
この瞬間も行われている異常な行為
それにしても、この男は、なぜ私の行動をここまで細かく知っているのか。
現実の世界で起きたらさぞ気持ちが悪く受け入れ難いことが、ネットでは毎日起きている。あなたが何か行動を起こすと、数分の1秒に何十あるいは何百件と行われている。あなたがどこかのWebサイトを開いた、どこかに行った、何かを買ったといった情報が即座にAd Auctionという個人情報の競売にかけられる。個人情報を入り口に、あなたから盗みを働こうとしているならず者から、あなたにモノを売りつけようとしている広告主たちが、その情報に手を伸ばしている。
スマートフォンは、親密な友達との内輪のパーティーから、家族写真、旅行の記録、機密情報を含む仕事の重要メールなど、あなたの大事な秘密も全て預かる信頼できる人生の相棒でなければならない。
しかし、誰かがこれをのぞき見すれば「宝の山」になるじゃないかと気が付いてしまった。そうやって、ちょっとずつ情報を盗み見て、利益を得る間に、「こうすれば、もっとお金が取れるぞ」という競争が始まり、歯止めが効かなくなっていた。
その流れに一石を投じたのが、ここ数年のAppleによる「プライバシー重視」の姿勢だ。
スティーブ・ジョブズ氏は2007年発表のiPhoneの開発途上から、常に身近に置き、個人の最もプライベートな部分を扱う機器だけに、それを守ることが重要という考えを示していたと言われ、iPadが発表された2010年には、こんな言葉も残している。
「人々は賢いと信じています。中には、他の人たちよりも多くのデータを共有したがる人もいるでしょう。だから彼らに聞くべきなんです。毎回、聞くべきです。聞かれるのが嫌になるまで聞くべきです。そして彼らのデータで自分たちが何をしようとしているのか、正確に説明すべきです」(All Things Digital Conferenceより)
この言葉は、日本語版の配布が始まった電子冊子「あなたのデータの一日/公園で。父と娘のストーリー」の冒頭にも引用されている。これは今日のデジタル社会がどのような状況か、健全な父娘の何事もない日常の中にも、どれだけ多くの個人情報の搾取が行われているかを、物語形式で紹介したデジタル時代におけるプライバシー意識を啓もうするデジタル小冊子だ。2021年1月に英語版が発行されたが、今回、情報アップデートに合わせて日本語版が作られ、Apple公式ホームページの「プライバシー」に関するページで配布が始まった。
絵本のような絵の多い冊子で、物語の部分だけならたったの3ページに過ぎない。これは情報社会を生きる人々の一般教養として、誰もが一度眼を通しておくべきだし、学校などでも教材として活用する価値がある内容になっている。
最近では日本のIT企業でも、こうしたネット上での情報リテラシー教育の教材作りをスポンサードしている会社もある。しかし、世界で最もプライバシーに配慮できている会社の提供している情報なら、スポンサーに対して、そんたくがないことは明白だ。
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