3つのキーワードで読み解く! 「WWDC23」から見えた2024年のAppleプラットフォーム(1/5 ページ)
2023年5月に開催されたAppleの「WWDC23」。話題は「初の空間コンピュータ」として発表された「Apple Vision Pro」に行きがちだが、Appleのプラットフォームを支える、既存OSのバージョンアップも見逃せないポイントが多い。
Appleの開発者向け会議「WWDC23」では、空間コンピューティングデバイス「Apple Vision Pro」が大きな注目を集めた。注目度があまりにも高いため、より身近な機器に訪れる進化が、やや見過ごされがちだ。少し時間が経ったが、ここで基調講演や新たに公開された情報を元に、2023年秋にリリースされる新OS「iOS 17」「iPadOS 17」「watchOS 10」「tvOS 17」、そして「macOS Sonoma」でApple製品がどのように進化するのか、3つのキーワードから読み解いていきたい。
「基本コミュニケーション」の見直し
1つ目のキーワードは「基本コミュニケーション」機能だ。
ソーシャルメディア時代が続き、人々が多くの見ず知らずの人とのコミュニケーションで神経をすり減らしたり、危険にさらされていたりすることへの反動なのか、Appleは2023年に入ってから通話機能とメッセージ機能という、信頼できる仲間同士との基本コミュニケーション機能のブラシュアップに注力している。
その傾向が特に顕著なのがiOS 17だ。最大の目玉は、「連絡先ポスター」機能である。
連絡帳に登録済みの家族や友人など、親しい相手から電話がかかってきた際、その人だと分かるポスター画像をiPhoneの画面いっぱいに表示する機能だ。着メロ機能の画像版といったところだろうか。
最初、筆者は人々がわざわざ手間をかけて、写真などの情報を登録するか疑問に思っていた。しかし、そこはさすが利用者の行為をデザインする会社、Appleだ。
連絡先ポスターの作成を、アドレス情報の登録といった感覚から、ソーシャルメディアのプロフィールページ作成の感覚に近い楽しい体験に変えてしまっている。既に撮影済みのお気に入り写真を見栄え良く加工する機能なども充実させている。こうやって本人にかっこいい連絡先ポスターを作ってもらっておいて、これを後述する「NameDrop」の機能で交換することで広めていこうという行為のデザインが行われているのだ。
どうしても自分の顔写真を使うのが嫌な人向けには、自分に似せたアバターのMe文字を表示する機能や、イニシャルの文字を自分好みにカスタマイズして表示させるオプションも用意している。
これまでの発信者名や発信者番号通知だけの表示と比べると着信する楽しさがあり、電話/FaceTimeの利用を促進してくれそうで、多少の不健全さを伴うソーシャルメディアから基本コミュニケーションへの揺り戻しを期待できる。
それに加えて、今の日本で大きな社会問題の「詐欺電話」への対抗策としても期待できる。親しい連絡相手が、全員連絡先ポスターを使って楽しく電話をしあうようになれば、たまにかかってくる連絡先ポスターが表示されない相手からの電話に対する警戒心が強くなる。
詐欺電話の効力を落とす機能は、これだけではない。
詐欺電話の被害を減らすために「知らない人からかかってきた電話はすぐには出ずに一度、留守番電話にメッセージを残させて必要なら折り返す」という方法を実践し、人に勧めているのは筆者だけではないはずだ。詐欺電話はそもそも伝言を残さないし、セールス電話も伝言だけ聞いて本当に返答する必要があるか内容か事前に判断できる。煩わしい営業電話の撃退方法としても極めて有効だ。
iOS 17には、留守番電話を介した安全コミュニケーションを促進する機能がいくつかある。
1つは、連絡帳に入っていない人からの着信を自動的に留守番電話に振る機能で、筆者の推奨行為を自動化する機能といえる。
さらに、着信画面に着信を「留守番電話」送りにするボタンも用意される。
だが、もっと重要なのは、留守番電話の録音中に、録音メッセージの内容を文章として書き起こして画面に表示してくれる機能だ。書き起こしの文面を見て大事な電話だと分かったら、その瞬間に電話を留守番電話の録音を停止して電話に出ることもできる。
この留守電書き起こし機能は、電話会社との連携も必要なのか、当面、米国およびカナダだけの提供となる。だが、詐欺電話がここまで深刻な社会問題となっている今、日本でも絶対に必要な機能だろう。電話会社が率先してサポートすることを期待したい。
また電話会社が詐欺などを含むスパム電話など怪しい発信者の名簿を作成している場合、その名簿に載っている番号からの着信を全て自動で拒否する機能も用意される。こちらも米国のみでの提供だが、同様に日本でも必須の機能だ。ぜひとも電話会社の協力に期待したい。
例え1社でも、この機能を採用してくれる電話会社があれば、それだけで電話会社を乗り換える理由になるほど重要な機能だと思う。
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