VRやハイスペックPCは教育をどう変えるのか? マウスコンピューターと大阪教育大学が「VR教材」セミナーを開催(4/5 ページ)
マウスコンピューターと大阪教育大学は、1月30日に包括連携協定を締結した。その協定に基づく取り組みを紹介するセミナーが6月11日に開催されたので、その模様を詳しくお伝えする。
小学校の音楽科における活用事例
続いて、大阪教育大学付属池田小学校の石光政徳教諭が小学校課程の音楽科におけるVR教材の実践例を紹介した。
基本的な映像の作り方は、先に紹介した大阪教育大学付属池田中学校の事例とおおむね同様で、この事例ではオーストリアのヨハン・シュトラウス1世が作曲した「ラデツキー行進曲」の演奏の様子を授業に用いたという。
映像が使われたのは小学3年生の授業で、児童には“音色”を意識してVR映像の実況をするというお題が与えられた。これはオーケストラで使われる楽器の“音色”を知ることが目的だ。
石光氏は、これまでの音楽科の授業では鑑賞にCD音源を使うことが多いと語る。しかし、「CD音源では、オーケストラ全体の響きを味わうことしかできなかった」と課題も指摘する。
授業ではまず、オーケストラ全体の音源(=CD)を聞かせたという。するとある児童が「シンバルの音によって、行進曲らしい感じが出ている」という感想を寄せた。しかし、同じ児童がVR映像を見たら「これはシンバルではなく大太鼓だ!」と気が付いたのだという。
気付いたきっかけはシンプルで、シンバルをたたいていたと思っていた場面で、大太鼓がたたかれていたことを“視覚的に”確認したことだ。「(映像を見た後)『この大太鼓の力強い音色が行進曲感を出している』と彼は気が付き、すぐさま実況に反映してくれた」(石光氏)という。
視覚面から各楽器の音色を捉えやすくする上で、VR映像が大いに役立ったことが分かる。
別の児童は「ピッコロ」に注目をして実況を行ったという。
ご存じの方もいるかと思うが、ピッコロはフルートよりもさらに小さい。そのため、一般的なオーケストラの映像では見えづらかったり、そもそも視認できなかったりすることもある。
しかし、VR映像なら視点を変えて視聴できるため、ピッコロのような小さな(目立たない)楽器でも、どのように演奏しているのか分かりやすい。この児童はグループで実況文を考えていたようで、学習用端末(Chromebook)から流れる音声をスプリッター(分配器)を介してイヤフォンで同時に聞いていたそうだ。これぞまさに「協働的な学習」である。
授業では3人1組で9班に分かれて実況文を作っていたそうだが、どの班もVR映像を何度も繰り返し見て、より納得感の高い文章に作り帰って行ったそうだ。
「見る」という観点に立つと、オーケストラの演奏を“目の前で”見せるという方法も考えられる。しかし、石光氏はVR映像は同じ所を繰り返し見られることと、演奏の様子を演者の“間近”で見られるという、生演奏では得られないメリットもあると語る。音と映像の関連性も分かりやすくなるため、楽器の“音色”を知る上でも効果は高い。
今後、池田小学校/中学校では、VR映像を活用した授業の実践を重ね、手作りのVR教材も積極的に制作していく予定だ。
大学生の「理科実験」講義にもVR教材を活用
続いて大阪教育大学の串田一雅教授(理数情報教育系)登壇し、大学1年生向けの「理科実験」に関する解説教材をVR映像として制作した際のエピソードを紹介した。
通常の動画の制作では、複数の場所(視点)で撮影した複数の動画を編集して“ひとまとめ”にする手間が掛かる。複数台のカメラで同時に撮るという方法もあるが、手間とコストはどうしても掛かってしまう。
そこで串田氏は、1カ所に置いたVRカメラの映像をアプリで編集した後、Blinkyに投稿した。学生は、Blinkyに投稿された動画をスマホやPCで視聴して、実験の方法や動作を確認できるという仕組みだ。
このやり方は、教える側における教材作成の労力の大幅な削減はもちろん、学生側にとっても画角の変更や拡大/縮小によって、見たい所をしっかりとチェックできるというメリットがある。ある意味でWin-Winな取り組みだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 不登校児童生徒をメタバースで救えるか? レノボが大阪教育大学とタッグを組んだ理由
レノボ・ジャパンと大阪教育大学が、教育と研究などの分野で協力し、教育課題の解決等を目的とする包括提携協定を結んだ。調印式は、開設されたばかりの大阪教育大学天王寺キャンパスにある「みらい教育共創館」で実施され、「1人も取り残すことのない教育」支援の方法が提示された。 - 「驚きがないPCメーカーになる」の真意 電撃退任したマウスコンピューター 小松社長の18年におよぶ歩みを振り返って分かったこと
マウスコンピューターが株主総会を開き、同社の社長交代が明らかになった。18年続いた小松永門 代表取締役社長の歩みを、大河原克行氏がまとめた。 - 大型掲示装置やSTEAM教材の展示も充実――「NEW EDUCATION EXPO 2024」で見た教育の未来
6月6日からの3日間、東京都江東区で教育関係者向けイベント「NEW EDUCATION EXPO 2024 TOKYO」が開催された。この記事では、電子黒板を始めとする「大型提示装置」と、STEAM教育に関する注目すべき展示を紹介する。 - 電子黒板からカラー電子ペーパーまで、次の教育ICTには何が採用される? 最先端が分かる「EDIX 東京 2024」で各社のブースを見てきた
EDIX 東京 2024は教育関連のICTに直接触れられる貴重な展示会だ。注目の展示を記事で紹介する。 - 忙しい教職員をサポートするソリューションにも熱い展示が見られた「NEW EDUCATION EXPO 2024」レポート
6月6〜8日にTFTビル(東京・有明)で「NEW EDUCATION EXPO 2024」が開催された。本イベントは1996年から内田洋行主催で毎年この時期に開かれているもので、今回が29回目となる。教育DXを実現するさまざまなソリューションが展示されていた