東京メトロ半蔵門線の九段下駅でベビーカーが電車に引きずられた事故で、ベビーカーの持ち主が旅行中の台湾人だったことが分かった。ホーム上の警備員の増配置など多数の再発防止策が取られる事態に発展したが、実は外国人だったためにドアの閉まるタイミングが分からなかった可能性も指摘されている。いずれにせよ、鉄道業界にとっては、東京五輪を迎える宿題が与えられた格好だ。
センサーの“死角”に挟まる
「一歩間違えれば大惨事になるところだった」。石井啓一国土交通相は4月5日、事故の報告に訪れた東京メトロの奥義光社長を厳しく注意した。
4月4日午後3時ごろ、東京メトロ半蔵門線の九段下駅で電車のドアに挟まれたベビーカーがホーム上を100メートルも引きずられ、ホーム端の柵にぶつかり大破した。幸いにもベビーカーに子供は乗っておらず、巻き込まれた乗客もいなかったが、「なぜ未然に防げなかったのか」と鉄道業界に衝撃が走った。
東京メトロによると、ベビーカーを挟まれたのは、日本を旅行していた台湾人の男性。家族とみられる女性と子供2人が先に電車に乗り込み、男性が1台目のベビーカーを車内に入れた後、2台目を持ち上げて運び込もうとしたところでドアが閉まった。
東京メトロでは、電車のドアに太さ15ミリ以上のものが挟まっている場合、センサーが感知し、発進できないはずだった。今回のベビーカーは太さ16ミリだったが、「ドアの下部30センチと上部15センチ以外は、ゴムが柔らかくなっていてセンサーが感知しにくい」(東京メトロ広報)。ベビーカーが持ち上げられていたため、センサーの死角で挟まったようだ。
ベビーカー代を弁償
ベビーカーの挟まり事故は初めてではない。一般財団法人「製品安全協会」は平成21年、同種の事故が相次いだことから、ベビーカーのパイプなどの太さを35ミリ以上とするよう安全基準を改定。基準を満たした製品に「SGマーク」を付けている。国内のメーカー6社がSGマークを取得し生産しているが、外国製品などはこの限りではない。
また、東京メトロによると、外国人だけに「ドアが閉まります」という日本語のアナウンスが聞き取れなかったり、ドアが閉まるタイミングも分からなかった可能性もある。インターネット上では、「男性が駆け込み乗車をしようとしたのではないか」という趣旨の声もあったが、監視カメラで確認したところによると、駆け込み乗車はなかったという。
その後、東京メトロは、ベビーカーの弁償金を男性に送ったが、恐縮した様子で対応していたという。
入社2年目の女性車掌…単独乗車は19日目
東京メトロが4月27日に国交省に報告したところによると、(1)監視業務の重要性を徹底する教育体制を整備(2)ホーム警備員の増配置(3)ホームドア導入の推進(4)ドアのセンサーの精度を15ミリから10ミリに向上-などの措置を講じた。さらに事故のベビーカーが黒かったこともあり、赤と白のしま模様の「注意喚起シート」を九段下駅のホームの縁に張り付けた。