2025年4月施行の建築基準法改正は、2050年カーボンニュートラル社会を実現するとした国家としての日本の大方針を実現するための基礎を作る施策だ。
その2050年のカーボンニュートラル社会の未来はただ待っていれば実現するわけではない。それを国民各自が目指すことでようやく到達できる。
そのためには、まず2050年の住宅・建築物はどうなっているのか、それを知ること、イメージを持つことからスタートすることが今求められている。
そのための実例のひとつとして、現在国土交通省が行っている「サステナブル建築物等先導事業」のプロジェクトについて知ることも有効だ。新築が目指す性能イメージ、改修で目指せる性能向上の方向性についてこれまでの先進事例をみていこう。

2050年カーボンニュートラル社会と建築基準法改正
我が国は、2020年10月の第203回国会における内閣総理大臣の所信表明演説において、「2050年カーボンニュートラル」を目指すことを宣言した。
この政府の中期目標等の実現に向けて、我が国のエネルギー需要の約3割、エネルギー起源CO2排出量の約1/3を占める建築物分野においても、省エネルギーの徹底を図ることが必要となる。
「2050年に住宅・建築物のストック平均でZEH・ZEB基準の水準の省エネルギー性能が確保されていることを目指す」、「2030年度以降新築される住宅・建築物について、ZEH・ZEB 基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指し、(後略)」とされたことを踏まえ、建築物の省エネ性能の更なる向上を図ることが喫緊の課題となった。
一方、こうした建築物分野の省エネ対策の徹底に加え、政府の中期目標等の実現に向けては、吸収源対策としての木材利用拡大を図ることも必要である。
木材は、温室効果ガスの貯蔵能力を有し、また、その安定的な利用は森林による吸収効果の保全及び強化に寄与するものであるが、その需要量の約4割が建築物分野で利用されていることを踏まえると、建築物分野における木材の利用促進を図る必要性は高い。
これらの施策のために、新たな建築、また改修を通じて環境性能に優れた建築物・住宅の割合を増やすことが、今回の建築基準法改正の大きな理由となっている。
環境性能を上げた住宅を新築するための環境性能適合判定、また改修において環境性能を上げる施工を安全に可能にするために必要な建築躯体の強化のための構造審査手続きの範囲拡大、また木質系の構造を採用しやすくするための規定改定などが盛り込まれているのだ。
「いまあるものをよりよく」「新たに作るものはさらに進んだものに」という考え方のもと、これらの改正が2025年4月より施行される。
この改正と今後の更なるアップデートにより、2050年の建築物・住宅は、CO2消費においてストック(既存建築物全て)平均でZEH・ZEB基準達成を果たすことになる。建設・利用・解体のトータルのサイクルにおいて、排出するCO2が国内で吸収されるCO2とバランスすることが、カーボンニュートラル社会の建築である。
では、2050年のカーボンニュートラル社会において建築物はどういったものが「普通」となるのだろうか。それを実際のものとして見ることができるのが、「サステナブル建築物等先導事業」の事例である。
「サステナブル建築物等先導事業」
「サステナブル建築物等先導事業」は今年度も実施が決まった、平成27年から年2回国交省で公募されている事業である。
対象は「建築物」「住宅」において、新築・改修・マネジメント・技術の検証の四部門の提案を求めている。
これまでの採択事例と公募要項はこちらにまとめられているが、
住宅においては
ハード技術の中に
・省エネルギー対策(建築単体での取り組み)
1. 負荷抑制(1) 外皮性能の強化(2) 自然エネルギーの活用(3) パッシブ設計の規格化・シミュレーション、2. エネルギーの効率的利用 (1) 高効率設備システム(2) 構造体を用いた設備システム
・省エネルギー対策(街区・まちづくりでの取り組み)
・再生可能エネルギー利用 (1) 発電利用(2) 熱利用
・省資源・マテリアル対策 (1) 国産・地場産材の活用(2) 施工~改修までを考慮した省資源対策
・周辺環境への配慮 (1) 緑化・打ち水(2) 周辺環境に配慮した配置計画
ソフト技術において
・住まい手の省CO2活動を誘発する取り組み(1)エネルギー使用状況の見える化(2)省エネアドバイス・マニュアル配布による世帯ごとの取り組みの促進(3)複数世帯が連携して省CO2行動を促進する仕組み(4)経済メリットによる省CO2行動を促進する仕組み
・普及・波及に向けた情報発信(1)省CO2効果等の展示、情報発信(2)自治体と連携した情報発信
・地域・まちづくりとの連携による取り組み(1)自治体・地域コミュニティとの連携(2)非常時のエネルギー自立や地域防災と連携した取り組み
・省CO2型住宅普及拡大に向けた取り組み(1)普及拡大に向けた仕組みづくり(2)ビジネスモデルへの展開(3)健康性の向上等に向けた取り組み
などがある。
これらのそれぞれの分野の提案を実際のプロジェクトに組み合わせ、建設したものについて、それぞれ結果を検証するものである。

プロジェクトの中の改修系で注目できるプロジェクトとしては
令和6年度の性能向上リノベの会(事務局YKK AP株式会社)による「ZEH水準を超えた断熱・省エネ改修プロジェクト」
令和4年度のサンヨーホームズ株式会社による「空家を減らしサステナブルな住宅循環の実現「リニューアルサイクル・カーボンマイナス住宅」」
令和3年度の優良工務店の会(QBC)による「地域工務店ネットワークを活かした高齢世帯等の健康・快適・安全性の追求を目指す新しい省CO2改修プロジェクト」
令和元年度の石友リフォームサービス株式会社による「多世帯同居住み継ぎ地域に根ざす省CO2改修プロジェクト」
などがある。

それぞれ、工務店・リフォームメーカーを中心に、エネルギー関連企業と外装関連建材メーカー、代理店をつなぎ、主に一棟の戸建て住宅を改修することで空き家、既存住宅の再価値化を目指している。
空き家の再価値化という点では、昨今の市場価値からはずれた空き家に対するリフォーム再販事業もそう遠くないところにいると思われるが、それらが最小限のリフォームで市場商品化を目指すのに対して、これらの事業はより高付加価値を目指すところが違っている。中途半端な付加価値ではなく、2050年に通用する高付加価値であることが大きな違いである。

建築再生の事業スキームにおいて、既存住宅への投資はその時点での価値向上によって需要に結びつけるものであるが、今回の2050年を目指す性能アップグレードは、性能の低下を少なくする改修も含むことによって、再改修のための投資期間の延長も計画できると考えると、「細かくリフォームでお金が出ていく再生」と「大きく投資したものを永く使う再生」の二つの選択肢として考えることができるだろう。
その他、エネルギーや健康環境などの提案も数多く公開されているので、2050年の物件の価値=競争力を考えるヒントとして見ておきたい。
まだ先とのんびりしているのではなく、まさに今作られるもの、今使われるものが2050年の社会をつくると考えると、2050年に取り残されないための準備が今必要とされているのではないか。
執筆:
(しんぼり まなぶ)