飛び込んだ人が体調を崩したり、大量のゴミが引き揚げられたりと、汚いイメージが定着している、大阪の道頓堀川。
実は今、川の中が見違えるほど「きれい」になっているというんです。
関西テレビの撮影スタッフが潜ってみると、川の中を泳ぐ魚の姿も。
道頓堀川の今を取材しました。
大阪市のシンボル、道頓堀川。
そのイメージを街の人に聞いてみると…
【女性】
「めちゃ汚い川。色もやばいし、臭いもやばい。人とか飛び込む」
勝利を祝うたびに、危険な飛び込みが相次ぎ…
川の底から上がってくるのは、カーネルサンダースの人形や…何百台もの自転車。
これは、1966年放送のドキュメンタリー番組です。
【当時のナレーション】
「道頓堀は、非情の川。ありとあらゆるゴミが漂い、投身しても水死することなく、窒息死。このボウフラもわかぬ黒い水に油の膜が光るのは、寝屋川付近の工場廃液、さらに奥の北河内から来たものであろう」
高度経済成長の時代。
工場排水や下水が川に流れこみ、道頓堀川は、まるで町のゴミ箱のように扱われていました。
その後、ヘドロをとりのぞく船を作ったり、川に酸素を送り込む噴水を設置したり。
水質浄化の機運が高まっていく中、1980年、地元商店街が実施したのが、金魚の放流でした。
【放流した人】(当時)
「どうか長生きしますように。死なないでください。」
企画した商店街メンバーが、当時の裏話を教えてくれました。
【戎橋筋商店街の理事・中村正美さん】
「放流の時は、何匹かすぐに浮かんできて、慌てたことがある。まだまだ金魚には、水質が住める状態ではなかったのかもしれない」
さらにこんな物を入れようという試みも。
道頓堀川で、浄化作用のある真珠貝を養殖して、水質を良くしようというのです。
仕掛け人のNPO法人代表・須知さんは…
【道頓堀川で真珠養殖を企画した須知裕曠さん】
「最初はみんな『道頓堀から真珠できても、黒いもんできるでー』って言ってたけど、できたらピンクなどのパールだった。めちゃくちゃ喜びましたよ、みんな」
しかし、道頓堀川には大腸菌などが多く…
【アナウンサーのリポート】(2002年・ワールドカップ時)
「狂喜乱舞、次々と道頓堀川に人が飛び込んでいます。先ほど救急車も来ました、かなり危険ですので、本当に自重してください」
2002年のワールドカップでは、2000人近くがダイブ。
お腹が痛くなったり、目の病気になる人が続出しました。
2003年、関西テレビ潜水取材班が、川底の調査を行いました。
【記者リポート】
「道頓堀川の水の中です。汚れてて、何も、ほとんど見えません。足がヘドロに埋まって…」
真っ黒なヘドロが巻き上がり、なんとブラックアウト。
道頓堀川は、「汚れた危険な川」というイメージは、なかなか払拭できませんでした。
■水に潜ると、小さな魚の群れも…「アユ」が住める水質にまで改善した道頓堀川
あれから18年。道頓堀川はどうなっているのでしょうか?
地元住民に聞いてみると…
【地元住民】
「だいぶきれいになってます。前のイメージとはちょっと違います」
なぜかきれいになっているという話も。
特別に許可を得て、18年前に潜ったカメラマンが、再び挑むことに。
以前は、ヘドロに足をとられる恐怖を味わいましたが…
【潜水カメラマンリポート】
「グリコ看板足元の道頓堀川水底です。非常にきれいな砂地となっています。18年前ヘドロだったとは思えません」
一部、得体の知れないごみがありますが…きれいな砂地です。
別の日、水中ドローンを使って、撮影をしてみると、明かに透明度が増しています。
早速、水質を調べてもらうことに。
市内の河川の水質を戦前から調査している、大阪市立環境科学研究センターにお願いしました。
【大阪市立環境科学研究センター 研究副主幹 藤原康博さん】
「十分に魚介類が住める環境にあると言えます。生物化学的酸素要求量ですと、アユが住めるには3mg/L以下が目安とされているが、道頓堀川はこれを下回っている」
道頓堀川は、アユが住める水質にまで改善しているという驚きの結果が…
■「きれい」になった道頓堀川…その理由は「水の入れ替え」
その理由は、道頓堀川につながる東横堀川にありました。
東横堀川の水門を操作して、道頓堀川にきれいな水をとりこんでいるのです。
【大阪市建設局 河川・渡船管理事務所 管理主任 山中隆行さん】
「ここらで一番きれいな水を探したところ、淀川が淡水で一番きれい、その水を取り込もうということで、過去何十年も前から試行錯誤して今になる」
東横堀川は、水質のいい淀川につながる大川と、水質がやや劣る寝屋川が合流した先にあります。
何十年もの水質調査の結果、潮の満ち引きによって、淀川の水が最も東横堀川の近くを流れるタイミングをつきとめ、毎月水の入れ替えを行っているのです。
■橋の下に潜ってみると…姿を現した「外来種」の魚たち
近年では、様々な生き物が確認されているということで、取材班は、助っ人をお願いすることにしました。
大阪府立環境農林水産総合研究所の山本さんです。
【大阪府立環境農林水産総合研究所 山本義彦 主任研究員】
「あそこに、魚がたくさん泳いでいます!…たぶんボラの子供」
【大阪府立環境農林水産総合研究所 山本義彦 主任研究員】
「コイコイ!鯉が2匹います!」
【大阪府立環境農林水産総合研究所 山本義彦 主任研究員】
「水中撮影するんだったら、ああいう中に入っていくような凹みとか、魚は隠れやすいので、そういうところを探すのがいいと思う」
山本さんのアドバイスを受け、再び挑戦です。
橋の下に気になる空洞を発見しました。
潜ってみると…そこには不思議な空間が広がっていました。
【潜水カメラマンリポート】
「遊歩道の下に魚がいました!何の魚かは分かりませんが…」
カメラの前に、次々と魚が姿をあらわしました。
山本さんに映像を確認してもらうと…
【大阪府立環境農林水産総合研究所 山本義彦 主任研究員】
「たくさんブルーギルがいる。こんなにブルーギルがいるんですね」
今回撮影できたのは、外来種のブルーギルとブラックバスでした。
【大阪府立環境農林水産総合研究所 山本義彦 主任研究員】
「小魚やエビを食べるので、えさとなる生き物がいるからこそ、ブラックバスも生息できる、えさになる生物がいるということですね」
――Q:魚に環境がいい川になっているということですか
【大阪府立環境農林水産総合研究所 山本義彦 主任研究員】
「いい川になっている。(肉食などの)外来種がたくさんいるので、治安がいいかは分かりませんけど、環境が良くなっているのは間違いないと思います」
取材の最後に、18年前に道頓堀で真珠の養殖をした須知さんに映像を見てもらいました。
【道頓堀川で真珠養殖を企画した須知裕曠さん】
「けっこうきれいやな。我々が真珠やってる頃は、こんな魚おらんかったもんな。道頓堀真珠のおかげやでって言いたいけど、あかんな。もっとアピールせなあかんで、道頓堀水族館って」
大阪市の調査では、スズキやマハゼも確認されています。
水質が大きく改善された道頓堀川。
関心を持って見つめてみれば、意外な生き物と出会うかもしれません。
(カンテレ「報道ランナー」 ”真相 関西ニュース史” 6月2日放送)